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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第五章

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お嬢様と狩りの練習!

「ただ、飛んできたキューを片手で受け止めるのは、少し難しい気がするわ」

 わたしが身振り手振りで、飛びながら止まるのは難しいと思うので、地面に降りるから、それを持ち上げる形にするのが良いと伝えると「そうね、その方が良いかもね」とお嬢様は頷いた。

 すると、少し困った顔をしたメイドのアネットさんが言う。

「お嬢様、キュートリックの事だけでなく、3日後にお見えになるお客様をお迎えする事も、ご留意(りゅうい)下さいね」

 え?

 お客様?

 顔を上げると、お嬢様が「クロエさん達がわたくしのお誕生会に来て下さるのよ」と教えてくれる。


 ああ、お嬢様のお誕生日会か!

 もうそんな時期か。


 お嬢様のお誕生日会は毎年行われている。

 大貴族たるお嬢様のご誕生を祝う会なので当然、前世の女の子達が同級生を集めて行うような(つつ)ましいものではない。

 ……いや、前世のお誕生日会とやらに参加した事など無いから、実際の所は分からないけど、とにかく、親戚縁者はもとより、侯爵領付近の貴族や、豪商なども呼ばれるらしい。

 これは、お嬢様だから行うという訳ではなく、多くの貴族令息、令嬢がこういう催しを行うとの事だ。

 日々変わっていく子供達の姿を多くの人に覚えていて貰おうという事らしく、成人したらやらなくなるらしい。

 実際、わたしはパパさんやママさんのお誕生日会などは見た事が無い。「お嬢様」とアネットさんは更に表情を困らせながら言う。

「モーライン伯爵令嬢方だけで無く、ご子息達の事も、そして、ジョセフ第一王子殿下の事もお忘れなきようにお願いします」

「分かっているわよ」

 お嬢様は少しむくれながら答える。

 なんだ、第一王子も来るのか。


 う~ん……。

 わたしの中で、お嬢様からヒロインに乗り換えるクソ王子という位置づけだった第一王子だけど、イザベル王女様の話を聞かされると、少し複雑なんだよねぇ~

 恐らくなんだけど、大好きなお姉様を失った件について――知ってしまったんじゃないかな?

 本来、アールイス王国に嫁ぐのは、お嬢様――カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリだって事を。

 なのに、それがイザベル王女様に変わった事で、姉が命を落とす事になってしまったという事を。


 勿論、お嬢様に非など一切無い。


 イザベル王女様が死んだのは、それを(おこな)った、もしくは、計画した人達がただただ悪いのだ。

 だけど、理不尽だと分かっていても、第一王子のお嬢様への心証は、最悪になってしまったんじゃないかな?

 そう考えると、お嬢様と第一王子の婚約破棄は、起こるべきして起きた事だし、むしろ、そんな状態で結婚まで行き着くよりは、婚約時点で破棄されて良かったとも言える。

 ……まあ、そうだよね。

 いくら性格が悪く、お馬鹿さんとはいえ、一国の王子が――好きな子が出来たとかいう身勝手な理由で婚約破棄なんてする訳ないよね!

 ちょっと、わたし、前世のゲームに引っ張られて、第一王子の事を色眼鏡で見ていたかもしれない。


 少し反省しよう。


――


 侯爵邸鍛錬場にて、お嬢様がわたしを乗せた左腕を大きく振りかぶり、振った。

 パパさんほど力強さはないけど、タイミングはバッチリだ!

 わたしは獲物に見立てた布の塊まで飛ぶと、後ろ足でそれを押さえた。

 お嬢様がいる方からパチパチと拍手が鳴り響く。

 視線を向けると、お嬢様のご友人方が興奮するように拍手をしていた。

「キュー、戻ってきて!」

というお嬢様の声が聞こえてきたので、布の塊から飛び立つ。

 そして、お嬢様の手前で地面に降りるとちょこちょこと近づいた。

 お嬢様が左腕を差しのばしてきたのでその上に乗った。

 するとご友人方が近寄って来た。

 大人びた雰囲気があるクロエさんがうっとりしながら「流石はキュートリック様! 飛んでいる姿も勇ましく、愛らしかったですわ」と褒めてくれ、ペサニーさんやキーラさんも可愛い、格好いいと褒めてくれる。


 ふふふ、その通り!

 お嬢様の竜たるわたしは、可愛く格好いいのだよ!


 わたしがそんな風に胸を張っていると、クロエさんがこちらを見つめながら言う。

「羨ましいですわぁ~

 わたしもキュートリック様と狩りをしてみたいですわ」

 すると、ニコニコしながらキーラさんが言う。

「カトリーヌ様、わたしもそれ、させて頂けませんか?」

「ちょ!?

 いくら何でも図々しいわよ!」

とクロエさんが慌て、ペサニーさんが目を剥いているけど、キーラさんは構わず、拝むように「少しだけです!」とか言っている。

 お嬢様は苦笑しながらわたしを見る。

「キュー、構わない?」

「がっ!」

 これぐらいなら問題ない。

 わたしもお嬢様の竜として、お嬢様の客人を持てなす事ぐらいしなくてはならないしね!

 すると、クロエさんが()ず怖ずと言う。

「あのう……。

 ではわたしも……」

 ペサニーさんも「わたしも、お願いします……」と顔を赤めながら言う。

「えぇ~!

 なんだかズルいです!」

とかキーラさんは頬を膨らませ、なぜか、慌てて両手でそれを凹ませる。

「どうしたの?」

とお嬢様が不思議そうに訊ねると、キーラさんはらしくもなく恥ずかしそうに「あ、あの……」とチラリチラリと視線をお嬢様の背後に向ける。

 なんだろう?


 視線を向けると、お屋敷の方からマーカスお坊ちゃまが歩いてくるのが見えた。

 にこやかに微笑むイケメンお坊ちゃまは、片手を上げつつ「やあ! 楽しんで貰えているかい!」とご友人達に声を掛ける。

 クロエさん、ペサニーさん、キーラさん達は心なしか顔を赤めながら「は、はい! とても楽しいです!」とか「よ、良くして頂いて、恐縮して、ます!」とか「は、はい!」とかドモリながら答えている。

 一番、動揺しているのは、意外な事にキーラさんで、いつも元気いっぱいな女の子らしからぬことに、顔を伏せながらもじもじしている。


 いやまあ、分かるけどね!

 パパさん似のマーカスお坊ちゃま、正真正銘のイケメン貴公子様だしね。


 しかも、パパさんとは違い、脳筋が外れて、そこに優しさがプラスされてるの!

 わたしだって、竜じゃなかったら惚れてたかもしれない――っていうか、何故、マーカスお坊ちゃまが乙女ゲームの攻略対象じゃないの?

 第一王子より遙かに、人気ありそうなんだけど!?


 ただ、イケメンだろうが優しかろうが、お嬢様にとっては見慣れた兄でしかなく、心配そうに眉を寄せながら訊ねた。

「お兄様、お義母様の様子はどうでしたか?」

 そう、今朝、ママさんが体調を崩し、お客様であるクロエさん達の出迎えすらできなかったのだ。

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