鍛錬の結果!
「イザベル殿下……」
お嬢様が呆然と呟いた。
ママさんもマーカスお坊ちゃまも沈痛な顔をする。
パパさんが一度、目を瞑った後、お嬢様達を見る。
「いいか、アールイス王国がカティを望んだ事は内々の事で、表には出ていない。
なので、この件は胸に止めておくだけにするんだ。
王族がクリスタリ侯爵令嬢の〝代わりに〟嫁ぐなどと広まったら、ろくな事にならんからな。
表だろうと裏だろうとイザベル殿下に謝意を述べる事も駄目だ。
陛下にも止められているし、イザベル殿下も望まないだろう。
ただ、イザベル殿下の思い、そして、覚悟だけは絶対に忘れてはならないぞ」
――
パパさんを乗せながら、鍛錬場のグランドを駆ける。
十分な速度になったら、翼を広げて地を蹴る。
浮遊感と共に地面がすーっと離れていく。
背中の合図に合わせて、左側に旋回、ホバーリング、右側から旋回と切り替えていく。
ここら辺まではそこまで難しくない。
次の指示で少し降下する。
目標は下に置かれた9平方メートルの正方形の的だ。
その手前で、左に折れるとパパさんの炎の魔術が的に当たり、炎上する。
周りにいた騎士さん達がそれを消化するのを横目に、指示通り上昇した。
ん?
次は急降下、急上昇の指示だ。
これが一番怖い。
下に木製の箱が5個並んでいる。
わたしはそこに目がけて急降下し、後ろ足を前に出し、箱を潰すように着地した。
更に、地面を蹴り飛び上がる。
これは、わたしというより、パパさんに負担がかかる。
右手(前足)に付けてある銅板で様子を見る。
例の鎧を着けているパパさんがそれに気づき、右手を振る。
流石はパパさん、大丈夫そうだ。
しばらく訓練をした後、パパさんの指示で地面にゆっくりと下りる。
後ろ足の膝を使い、乗っているパパさんに衝撃が行かないようにしながら、走りつつ速度を落としていく。
気分的にはテクテク、重量的にはドンドンと歩いていく先には、お嬢様達がテーブルについてお茶をしている。
わたし達が近づくと、皆は立って迎えてくれた。
因みに、エイサ坊ちゃまはまだ幼すぎるってことで、その中にはいない。
このことを気づかれないように、専属の侍女さんにご本を読んで貰っているとの事だ。
まあ、仕方がないよね。
わたしが止まると、騎士さん達がパパさんが降りるのを手伝うため近寄ってくる。
お嬢様もわたしに近づくと「お疲れ様、とても凄かったわよ」と首の横辺りを撫でてくれる。
ふふふ、嬉しい!
ママさんやマーカスお坊ちゃまも近寄ってきて「人を乗せて飛ぶのも、すっかり慣れてきたみたいね」「そうですね、ぎこちなさがなかったです」と口々に言いつつ、わたしの腰や腕を撫でてくる。
そうでしょう!
そうでしょう!
わたし、頑張って練習したからね!
わたしが胸を張っていると、わたしから降りたパパさんが、兜を脱ぎながら言う。
「そうだろう!
わたしの指導の賜物だな!」
いや、わたしが頑張ったからだから!
腕でパパさんを押すと「こら! やめんか!」と押し返してきた。
なんだぁ~
脳筋パパさんのくせに~
そんな事をやってると、ママさんがニッコリ笑いながら言う。
「この分なら、わたしを乗せて空を飛ぶのも問題ないわね!」
……いや、侯爵夫人として、良いのかなぁ~
そんな事を考えていると、パパさんが首から吊していた巻かれた布を外し、騎士さんが差し出した袋に入れる。
それを見たマーカスお坊ちゃまが訊ねる。
「お父様、それはなんですか?」
「ん?
ああ、乗っている時には極力噛むようにって、キュートリックがいってきてな」
「キュートリックが?」
あれは前世日本に有ったマウスピースの代わりに噛んで貰っているものだ。
一度、降下の衝撃でパパさんが頬を噛んで、口から血が出た事があった。
治療魔術師さんのおかげで、それはすぐに治されたんだけど、それが怖くって、パパさんに乗る時は布を噛んで貰うようにお願いしたのだ。
ただ、布を噛んだ状態では魔術が使えないと困った顔をされた。
とはいえ、パパさんとしてもその有用性は身をもって理解していた。
という事で、首に紐で通した布を付け、基本的にはそれを噛んでいて、魔術を使う場合のみ、それを外し唱える――そういう形にしたのだ。
本当は前世、マウスピースみたいなものがあれば良いんだけど……。
Web小説の主人公のように、〝無いなら作れば良いじゃない!〟とは出来ないのよね、わたしでは。
そもそも、ドラゴンだし。
そんな事を考えていると、ママさんが渋い顔をする。
「なんだか、それ……。
なんというか――付けたくないわ……。
そこまで激しい動きは求めていないから、わたしはしなくて良いわよね」
いやいや、もしもの時のためのだから!
絶対いるから!
「がっ! がっ!」
とわたしが鳴くと、ママさんは「えぇ~」と嫌そうにする。
チラリと見れば、お嬢様も困った顔をしている。
えぇ~
そんなに嫌がるものかなぁ~
――
わたしは最近でこそ、柄にもなく騎竜のドラゴンなどやっているが、本来すべき事も当然覚えている。
それはつまり、お嬢様に甘えつつまったりする。
これである!
そのことで、お嬢様の癒やしになり、さらに、護衛としての責務を全うする――お嬢様の竜として非常に大事な事である。
ということで、お嬢様の部屋のソファーでお嬢様に膝枕をして貰いつつゴロゴロする。
いや、あれから結局、ママさん、マーカスお坊ちゃま、お嬢様の順で乗せたので、結構大変だった。
勿論、例のマウスピース代わりのものがパパさんのしかない現状、空は飛んでいない。
それでも、マーカスお坊ちゃまやお嬢様は喜んで貰えていた。
マーカスお坊ちゃまなんて「ケーティと一緒に空を飛べたら楽しいだろうなぁ」なんて呟いていたし。
いや、なんでわたしがイチャイチャカップルを乗せにゃならんの!?
あと、ママさんだけはぶつくさ文句を言っていたけど、それはスルーした。
相手にしてはいられません!
そんな事を考えていると、お嬢様がわたしの背中を撫でながら訊ねてくる。
「キューは領ではずっとお父様と鍛錬をやってたの?」
わたしが「がっ!」と肯定すると「頑張ったわね」とお嬢様は頭を撫でてくれる。
ふふふ、お嬢様のため、イザベル王女様のためだから苦ではないのだ!
そんな風に思いつつ、撫で撫でを堪能していると、お嬢様がニコニコしながら言う。
「わたくし、夏期休暇ではキューに乗って空も少しは飛んでみたいし、キューと一緒にする狩りもやってみたいの」
おお~
お嬢様、鷹(竜)狩りをやってみたいんだ!
勿論、お嬢様が望むなら、それぐらい訳は無い!
やろう! やろう! と身振り手振りで答えると、少し困ったように眉を寄せ、わたしを見る。




