久しぶりの家族団らん!
侯爵領の食堂にて、パパさんが機嫌良くグラスを掲げる。
「夕食の席に家族全員が揃ったな!
ずいぶんと久しぶりだ!」
それにパパさんの右前にいるママさんが悪戯っぽく言う。
「そうね、やっとマーカスさんが帰ってきたものね」
そんな両親2人に、パパさんの左前にいるマーカスお坊ちゃまは苦笑する。
因みに、ママさんの左隣にエイサ坊ちゃま、マーカスお坊ちゃまの右隣にはお嬢様、そして、わたしだ。
パパさんが「エイサなんて、〝こいつ誰だ?〟って思っているんじゃないのか?」とか言ってマーカスお坊ちゃまに「酷いなぁ」とか困った顔をさせている。
ふむ。
わたしは目の前にあるシチューにスプーンを入れてパクリとする。
これは前世で言うビーフシチューなのかもしれない。
柔らかくなるまで煮込まれたお肉が、口の中でほどけるように溶けて、美味しい!
ジャガイモとか人参も柔らかくて、シチューの味がしっかり染み込んでて、こちらはこちらで美味しい!
良い!
なかなか良い!
シェフを呼んで良いレベルで美味しい!
そんな事を考えていると、マーカスお坊ちゃまがお嬢様越しに、こちらへ微笑む。
「ねえ、キュートリック!
僕もキュートリックに乗せて欲しいなぁ」
ん~
まあ、マーカスお坊ちゃまなら別に問題ない。
「がぁ!」
と了承すると、エイサ坊ちゃまが「僕も!」とアピールする。
いや、エイサ坊ちゃまはまだ早いかなぁ~
「駄目よ、エイサにはまだ早いわ」
ママさんが窘めると、エイサ坊ちゃまが「えぇ~!」と不満そうに口を尖らせる。
それに対して、ママさんは困ったような顔をする。
「仕方がないわよ。
お母様だって、この年になってようやく乗せて貰えたのよ?
エイサではまだまだ、難しいわ」
「そうなんだ……」とかシュンとしているけど、エイサ坊ちゃま! 騙されてるよ!
確かにママさんは嘘を言ってないけど、今の年まで乗れなかったのは、単に乗れるような竜がいなかっただけだからね!
お嬢様、パパさん、マーカスお坊ちゃまや使用人さん達も揃って苦笑している。
そのうち、ママさんの適当さに気づいたエイサ坊ちゃまが怒り出さないか、少々心配だ。
そんな事を考えていると、ママさんがこちらを見て、ニヤリとする。
「そういえば、キュートリック。
あなた、グライを乗せて空を飛ぶようになったらしいじゃない。
なら、わたしも大丈夫よね?」
いや、脳金さんな上に、曲がりなりにも騎士さんなパパさんと、貴族夫人なママさんは同列には出来ないと思うけどなぁ~
因みに、最近、パパさんを乗せて飛行しているというのは、本当の話だ。
最初、単独の戦闘訓練だけで良いと思っていたんだけど、パパさんの熱心な懇願とアピールに負けてしまったのだ。
アピールというのは、自分がわたしに乗る事の利点などだ。
指揮を取ったり、判断をしたりすることは勿論、魔術が使えるパパさんを乗せる事で、わたしは移動に専念できるというのだ。
そんなパパさんの説明に、確かになと思ってしまった。
正直、前世中学生なわたしでは、判断が付かなかったりはもちろん、そもそも、目的の場所に向かう事すら難しい気がしたのだ。
あと、お嬢様と移動する時の為に、人を乗せる事に慣れておこうと言うのもあった。
なので、言われるまま訓練していたんだけど……。
最近のパパさん、調子に乗っているんだよね!
今なんかもママさんに「おいおい、ジェニー。キュートリックはわたしの専用の竜だぞ」とか言っている。 ちょっと~!
苦情を言おうとすると、その前にお嬢様がきっぱり言う。
「お父様、キューはわたくしの竜です!」
そうそう!
わたしはお嬢様の竜なのよ!
パパさんは困った顔で「いや、でもなぁ~」とかボソボソ言ってるけど、無視無視だ!
「がぁ!」とお嬢様に言うとお嬢様もこちらをニッコリ見てくれる!
へへへ、なんか嬉しい!
夕食が終わると、エイサ坊ちゃま以外がパパさんの執務室に呼ばれる。
執務机の前には歓談用なのか、ソファーとそれ用のテーブルが置かれていて、パパさんが一人掛け用に座ると、お嬢様達は食堂での並びと同じようにテーブルを挟む長椅子にそれぞれ座った。
わたしはお嬢様の膝を陣取る。
やっぱりここが一番落ち着くのだ!
深刻な顔をしたパパさんは、それぞれの顔を見渡した後、言う。
「イザベル殿下の婚姻が正式に決まった。
お相手はアールイス王国の王太子だ」
お嬢様が息を飲む。
ただ、ママさんやマーカスお坊ちゃまは硬い表情のまま身動ぎ一つしない。
ひょっとすると、ある程度どこかしらで聞いていたのかもしれない。
パパさんが視線をお嬢様に向けて続ける。
「実はこの話、アールイス王国は当初、カティ、お前をと言ってきていたんだ」
その言葉に、ママさん、マーカスお坊ちゃまも目を剥いて、パパさんを見る。
わたしも驚いた。
そんな話、聞いてない!
お嬢様が震える声で訊ねる。
「な、なぜ、わたくしなんですか?」
パパさんはお嬢様をじっと見つめながら、話す。
「まず、現在のアールイス王家の衰退がある。
強行派に手を焼いている現状、彼の王家もメーブリー王国の姫を望むのは難しいと判断したそうだ。
また、自分たちが強行派に責められた時、地理的、戦略的にも、我がクリスタリ侯爵家の方が良いと判断したようだ」
「地理的……。
地理的で言えば、クリスタリ侯爵領より、コークリックの方が――」
そこまで言って、お嬢様は口をつぐむ。
パパさんが頷く。
「地理的には西方の港町コークリックの方が近い。
だがあそこは、第二次コークリックの役によるアールイス王国への心証は最悪だ。
それに、メーブリー王国の心臓部にも近い。
アールイス王国が内乱になったら、救援より守りを固める事となる」
「だから、クリスタリ侯爵家なのですね」
パパさんは「そうだ」と答える。
「強力な魔術船団を持つ我が領が、南から北上する形で動くだけで心理的にも、戦略的にも圧力になる。
また、我が家がこの島の先住の民というのも良い。
その辺りを加味しての事だろう」
え?
クリスタリ侯爵家って、先住の民なの?
ただ、疑問に思ったのはわたしだけでパパさんの話が進んでいく。
「仮にアールイス王国がお前を望んだとすると、大貴族として名を連なる我が家としても断る事は難しい。
それだけ、この婚姻の意味が大きいのだ」
「だけど、その話は消えた――ということですか?」
黙って聞いていた、マーカスお坊ちゃまが訊ねる。
パパさんが頷く。
「それを、イザベル殿下が止めたそうだ。
ここは王女である自分が嫁ぐべきだと。
自分がアールイス王国に行く事で、戦火を防ぐ事が出来るのであれば、そうすると」




