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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第五章

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とあるキラキラさんのお話

 暗い客席で、無数に輝く明かりが、その熱気を示すように激しく揺れていた。

「今日はありがとぉぉぉう!

 またね!」

 わたしが手を振ると、雄叫びのような男の人の声と、少しだけど女の人の声が、それに応えてくれる。

「最高ぉぉぉ!」と声を上げ、10人のグループメンバーの女の子達がわたしの元に集まってくる。

 わたしとは色違いの衣装だけど、気にする様子もなく笑顔で、中には、悪戯っぽくわたしに抱きついてくる子もいる。

 わたしはそれを満面の笑みで受け止め、観客席の皆が更に湧き上がるのが見えた。


 ステージ脇から、スタッフの人達に挨拶をしつつ、楽屋に向かう。

 タオルで汗を拭きながら、皆と「あそこは良かったね」とか「もう少し、観客()(あお)れば良かったぁ~」とか興奮したまま言葉が飛ぶ。

 わたしも、息を整えながら、笑顔で頷いたり言葉を返していく。

 しばらく行くと、わたしの名前が張られた楽屋が見えて来た。

「じゃあ!

 また明日ね!」

 先ほど抱きついてきた子が、笑顔で手を振る。

「う、うん、また」

 わたしは楽屋前で止まり、手を振り返すと、他の子も笑顔で「今日、凄く良かったよ!」とか「またね」とか口々に言いながら離れていく。


 わたしは、一緒の楽屋が良いって、言ったんだけど、な。


 グループの皆は笑い合いながら「スタカフェ行かない?」「行く行く!」と離れていく。

 わたしはそれから視線を外し、ドアノブを見る。

 胸を締め付けるような、言い知れぬ恐怖――それを感じ始めたのは、いつからだろう……。

 わたしは、何に怯えているんだろう……。

 わたしは……。

「あのう……」

「ひっ!?」

 突然、後ろから声をかけられ、肩がビクっと震えてしまった。

 振り向くと、顔見知りであるスタッフのお姉さんと、その後ろに緊張した顔の小学生ぐらいの女の子が3人、立っていた。

 スタッフのお姉さんが少し驚いた顔で「ご、ごめん! 驚かせちゃったわね」と謝ってくれたので「いえいえ」と自分でも引きつっていると分かる笑顔で両手を振った。

 そして、気を取り直して、ニッコリと「どうかしましたか?」と訊ねた。

 すると、スタッフのお姉さんが両手を前に合わせたまま、深く頭を下げてくる。


 え?

 何?


 すると、こんなことを言ってくる。

「ごめんなさい!

 い、妹に頼み込まれちゃって、その、サインとかして上げられない!?」

 そして、上目遣いでこちらを見てくる。


 あぁ~

 そういうの、よろしくないんだけどなぁ~


 表情に出ていたのか、スタッフのお姉さんは再度「お願いします!」と頭を下げる。

 お姉さんの後ろにいる女の子達が不安そうにこちらを見てくる。


 まあ、こんなに可愛らしいファンの子、無碍(むげ)には出来ないか。

 スタッフのお姉さんに「今回だけですよ」と囁いた後、女の子達と視線を合わせるよう前かがみになり、笑顔で「こんにちは!」と挨拶をした。

 小学四、五年ぐらいかな?

 3人とも、わたしのグループのロゴ入りロンTと着ていて、色紙と、コンサートの時に使っただろう、ペンライトを握っていた。

 その中の1人が緊張しながら「わ、わたし、あの、2枚目の、あ、あれ? なんだったっけ?」と話し始めるのを笑顔で聞いて上げる。

 そして、「ありがとう」とか「コンサート、楽しんでくれた?」とか「ロンTとスカートの組み合わせ、3人それぞれ個性が出てて可愛いわ」とか話をしながら色紙を受け取り、サインをしていく。

 初めは緊張してガチガチになっていた女の子達も、次第に自然な笑顔になっていった。

 1人、メガネを掛けている女の子がいたので「そのメガネ、よく似合ってるね」と声を掛けた。

 言ってから、ひょっとすると嫌だったかな? と少し焦ったけど、そのメガネを掛けた女の子は嬉しそうに、恥ずかしそうに「えへへ」と笑ってくれた。

 ふふふ、可愛い。

 スタッフのお姉さんが時間を気にしながら「そろそろ」と声を掛けてきたので頷くと、体を起こす。

 そして、「またね」と手を振った。

 女の子達も嬉しそうに「またね」と手を振り返してくれる。

 出口に向かって歩く女の子達は、楽しそうにお喋りをしていた。


 なんだか、心がひんやりと寂しくなる。


 楽屋のドアを握ると、それを開いた。

 元は3人ぐらいが使用する部屋だったのだろう、化粧をするための鏡が3つ並んでいる。

 中央にはテーブルが置かれ、その上にはプレゼントや花束が山となって置かれている。奥にはテレビとソファが置かれていて、そこにはマネージャーでもあるスーツ姿の母が、眉を(ひそ)めながらスマホを凝視していた。

「お母さん、戻ったわよ」

 声を掛けると、手をひらひらさせながら「お疲れ様」と言う。

 そして、スマホから目を離さないまま、言う。

「ずいぶん、扉の前で話し込んでたみたいだけど?」

「スタッフの人とちょっと話を」

 お母さんは露骨に顔を顰める。

「たかがアルバイトが!

 抗議しておくわ」

「止めてよ!」

「あなたもいちいち、相手にしなくて良いのよ。

 あなたの時間は、あんな人達とものとは価値が違うの。

 そもそも、こんなグループにいつまで関わっていくつもり?

 さっさとソロで――」

「お母さん、それは断ったはずよ」

 わたしが声を落としつつも、睨み付けると、お母さんは気まずげに視線を逸らす。

 それでも、ぶつぶつ「時間ばかり無駄にして! あの子より絶対に世界進出だって先に出来たのに!」とか呟いている。

 それに対して、わたしが口を開き掛けたその時、不意に、お母さんのスマホから着信音が鳴る。

 お母さんは慌てて、画面をタッチすると、それを耳に当てる。

「はい、はい、そうです。

 お世話になっております~

 はいはい、大丈夫です!」

 そんな事を、スマホで話ながら、お母さんは身振りで着替えるように指示を出してくる。

 そして、そのまま外に出て行った。

 わたしは1つため息を付くと、テーブルの椅子に腰を下ろした。

 なんだか……。

 やる気が起きない。

 脳裏にグループの皆の笑顔が、そして、先ほどの小学生の女の子達の笑顔が浮かんでくる。

 眼鏡をかけた女の子の――。

「あ……。

 メガネちゃんは、もう……」

 目が熱くなり、蛇口が壊れたかのように涙がボロボロこぼれてくる。

 掌で押さえようとしても、どうしても、止まらない。

「今日、コンサート終わったら、待ち合わせをして、一緒に、パンケーキを、食べに、行くって……言ってた、じゃない。

 お腹、すいちゃったよ?

 約束破っちゃ、駄目……でしょう?」

 嗚咽(おえつ)が止まらない。

 どうしても、止まらない。

 あの子の笑顔が浮かんできて、どうしても止まらない!


「会いたい、会いたいよぉ~」


 会いたくて、わたし、心が壊れそうだよぉ~


――


「キュー!」

「がっ!?」

 遠くから、お嬢様の声が聞こえてきた。

 わたしに乗ろうとしていたパパさんを押しのけ、そちらを見る。

 パパさんが何やら言っているけど気にしない。

 お屋敷から、わたしのお嬢様が歩いてくるのが見える。

 アネットさんに日傘を差して貰っているお嬢様、神々しいほど愛らしい!

 いや、そんな事をつらつら思っている場合じゃない!

 わたしは体をすっと小さくする。

 竜用の(くら)がバサリと落ちて、パパさん達が「あぁ~!」とか声を上げているが気にしない。

 地面を蹴ると、羽根を羽ばたかせる。

「がぁ! がぁ! がぁ!」

 ああ、お嬢様!

 流石のわたしも、お嬢様が不足して大変なの!

 って、そのまま突撃はマズイ!

 なので、お嬢様から少し離れた所で地面に降り――勢いに乗った間、テクテクと走り、お嬢様の側で両手(両前脚)を広げて、ぴょんと跳んだ。

 笑顔のお嬢様は、しっかりと受け止めてくれる。

 わぁ~い、お嬢様の匂いがする!

 幸せだぁ~


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