とあるキラキラさんのお話
暗い客席で、無数に輝く明かりが、その熱気を示すように激しく揺れていた。
「今日はありがとぉぉぉう!
またね!」
わたしが手を振ると、雄叫びのような男の人の声と、少しだけど女の人の声が、それに応えてくれる。
「最高ぉぉぉ!」と声を上げ、10人のグループメンバーの女の子達がわたしの元に集まってくる。
わたしとは色違いの衣装だけど、気にする様子もなく笑顔で、中には、悪戯っぽくわたしに抱きついてくる子もいる。
わたしはそれを満面の笑みで受け止め、観客席の皆が更に湧き上がるのが見えた。
ステージ脇から、スタッフの人達に挨拶をしつつ、楽屋に向かう。
タオルで汗を拭きながら、皆と「あそこは良かったね」とか「もう少し、観客を煽れば良かったぁ~」とか興奮したまま言葉が飛ぶ。
わたしも、息を整えながら、笑顔で頷いたり言葉を返していく。
しばらく行くと、わたしの名前が張られた楽屋が見えて来た。
「じゃあ!
また明日ね!」
先ほど抱きついてきた子が、笑顔で手を振る。
「う、うん、また」
わたしは楽屋前で止まり、手を振り返すと、他の子も笑顔で「今日、凄く良かったよ!」とか「またね」とか口々に言いながら離れていく。
わたしは、一緒の楽屋が良いって、言ったんだけど、な。
グループの皆は笑い合いながら「スタカフェ行かない?」「行く行く!」と離れていく。
わたしはそれから視線を外し、ドアノブを見る。
胸を締め付けるような、言い知れぬ恐怖――それを感じ始めたのは、いつからだろう……。
わたしは、何に怯えているんだろう……。
わたしは……。
「あのう……」
「ひっ!?」
突然、後ろから声をかけられ、肩がビクっと震えてしまった。
振り向くと、顔見知りであるスタッフのお姉さんと、その後ろに緊張した顔の小学生ぐらいの女の子が3人、立っていた。
スタッフのお姉さんが少し驚いた顔で「ご、ごめん! 驚かせちゃったわね」と謝ってくれたので「いえいえ」と自分でも引きつっていると分かる笑顔で両手を振った。
そして、気を取り直して、ニッコリと「どうかしましたか?」と訊ねた。
すると、スタッフのお姉さんが両手を前に合わせたまま、深く頭を下げてくる。
え?
何?
すると、こんなことを言ってくる。
「ごめんなさい!
い、妹に頼み込まれちゃって、その、サインとかして上げられない!?」
そして、上目遣いでこちらを見てくる。
あぁ~
そういうの、よろしくないんだけどなぁ~
表情に出ていたのか、スタッフのお姉さんは再度「お願いします!」と頭を下げる。
お姉さんの後ろにいる女の子達が不安そうにこちらを見てくる。
まあ、こんなに可愛らしいファンの子、無碍には出来ないか。
スタッフのお姉さんに「今回だけですよ」と囁いた後、女の子達と視線を合わせるよう前かがみになり、笑顔で「こんにちは!」と挨拶をした。
小学四、五年ぐらいかな?
3人とも、わたしのグループのロゴ入りロンTと着ていて、色紙と、コンサートの時に使っただろう、ペンライトを握っていた。
その中の1人が緊張しながら「わ、わたし、あの、2枚目の、あ、あれ? なんだったっけ?」と話し始めるのを笑顔で聞いて上げる。
そして、「ありがとう」とか「コンサート、楽しんでくれた?」とか「ロンTとスカートの組み合わせ、3人それぞれ個性が出てて可愛いわ」とか話をしながら色紙を受け取り、サインをしていく。
初めは緊張してガチガチになっていた女の子達も、次第に自然な笑顔になっていった。
1人、メガネを掛けている女の子がいたので「そのメガネ、よく似合ってるね」と声を掛けた。
言ってから、ひょっとすると嫌だったかな? と少し焦ったけど、そのメガネを掛けた女の子は嬉しそうに、恥ずかしそうに「えへへ」と笑ってくれた。
ふふふ、可愛い。
スタッフのお姉さんが時間を気にしながら「そろそろ」と声を掛けてきたので頷くと、体を起こす。
そして、「またね」と手を振った。
女の子達も嬉しそうに「またね」と手を振り返してくれる。
出口に向かって歩く女の子達は、楽しそうにお喋りをしていた。
なんだか、心がひんやりと寂しくなる。
楽屋のドアを握ると、それを開いた。
元は3人ぐらいが使用する部屋だったのだろう、化粧をするための鏡が3つ並んでいる。
中央にはテーブルが置かれ、その上にはプレゼントや花束が山となって置かれている。奥にはテレビとソファが置かれていて、そこにはマネージャーでもあるスーツ姿の母が、眉を顰めながらスマホを凝視していた。
「お母さん、戻ったわよ」
声を掛けると、手をひらひらさせながら「お疲れ様」と言う。
そして、スマホから目を離さないまま、言う。
「ずいぶん、扉の前で話し込んでたみたいだけど?」
「スタッフの人とちょっと話を」
お母さんは露骨に顔を顰める。
「たかがアルバイトが!
抗議しておくわ」
「止めてよ!」
「あなたもいちいち、相手にしなくて良いのよ。
あなたの時間は、あんな人達とものとは価値が違うの。
そもそも、こんなグループにいつまで関わっていくつもり?
さっさとソロで――」
「お母さん、それは断ったはずよ」
わたしが声を落としつつも、睨み付けると、お母さんは気まずげに視線を逸らす。
それでも、ぶつぶつ「時間ばかり無駄にして! あの子より絶対に世界進出だって先に出来たのに!」とか呟いている。
それに対して、わたしが口を開き掛けたその時、不意に、お母さんのスマホから着信音が鳴る。
お母さんは慌てて、画面をタッチすると、それを耳に当てる。
「はい、はい、そうです。
お世話になっております~
はいはい、大丈夫です!」
そんな事を、スマホで話ながら、お母さんは身振りで着替えるように指示を出してくる。
そして、そのまま外に出て行った。
わたしは1つため息を付くと、テーブルの椅子に腰を下ろした。
なんだか……。
やる気が起きない。
脳裏にグループの皆の笑顔が、そして、先ほどの小学生の女の子達の笑顔が浮かんでくる。
眼鏡をかけた女の子の――。
「あ……。
メガネちゃんは、もう……」
目が熱くなり、蛇口が壊れたかのように涙がボロボロこぼれてくる。
掌で押さえようとしても、どうしても、止まらない。
「今日、コンサート終わったら、待ち合わせをして、一緒に、パンケーキを、食べに、行くって……言ってた、じゃない。
お腹、すいちゃったよ?
約束破っちゃ、駄目……でしょう?」
嗚咽が止まらない。
どうしても、止まらない。
あの子の笑顔が浮かんできて、どうしても止まらない!
「会いたい、会いたいよぉ~」
会いたくて、わたし、心が壊れそうだよぉ~
――
「キュー!」
「がっ!?」
遠くから、お嬢様の声が聞こえてきた。
わたしに乗ろうとしていたパパさんを押しのけ、そちらを見る。
パパさんが何やら言っているけど気にしない。
お屋敷から、わたしのお嬢様が歩いてくるのが見える。
アネットさんに日傘を差して貰っているお嬢様、神々しいほど愛らしい!
いや、そんな事をつらつら思っている場合じゃない!
わたしは体をすっと小さくする。
竜用の鞍がバサリと落ちて、パパさん達が「あぁ~!」とか声を上げているが気にしない。
地面を蹴ると、羽根を羽ばたかせる。
「がぁ! がぁ! がぁ!」
ああ、お嬢様!
流石のわたしも、お嬢様が不足して大変なの!
って、そのまま突撃はマズイ!
なので、お嬢様から少し離れた所で地面に降り――勢いに乗った間、テクテクと走り、お嬢様の側で両手(両前脚)を広げて、ぴょんと跳んだ。
笑顔のお嬢様は、しっかりと受け止めてくれる。
わぁ~い、お嬢様の匂いがする!
幸せだぁ~




