わたしのやるべき事
イザベル王女様の笑顔は、とても晴れ晴れと、そして、力強く見えた。
それがなんだか、無性に悲し――。
『そ―王子――お姉様――』
え!?
何!?
頭の中で、誰かの声が聞こえた気がした。
あれ?
メガネちゃん?
前世の記憶?
『――王子様のお姉様が死んじゃう事で――メーブリー王国――カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリ――クリスタリ侯爵家――お姉様の嫁ぎ先になるはずだったアールイス王国――ギクシャク――』
え!?
え!?
え!?
待って!
待って!
なんか凄く大事な事を言ってる!
「どうかしたの?
キュートリック様?」
イザベル王女様が不思議そうに訊ねてくる。
「キュートリック君、頭痛いの?」
アントワーヌ君も心配そうに訊ねてくる。
だけど、それどころじゃない!
わたしはイザベル王女様の膝の上に上半身を乗せると必死に思い出そうとする。
ちょっとぉぉぉ!
メガネちゃぁぁぁん!
あぁぁぁ!
なんでちゃんと聞いてないのよぉぉぉ!
前世のわたしの馬鹿ぁぁぁ!
――
結局、詳細までは思い出せなかった……。
ただ、イザベル王女様がこの先、死んじゃうって事らしい。
それも、〝嫁ぎ先になるはずだった〟という事は嫁いでいないって事、つまり、アールイス王国に嫁ぐまでの間に何かあったって事だよね?
病気だったら、手の打ちようがないけど、王国間、プラスお嬢様の家がギクシャクするっていう意味が分からない。
であれば、事故か暗殺かになる。
う~ん、どちらにしても、この国にいる間は無い、かな?
あれから先王様のところに戻って、イザベル王女様の護衛は大丈夫か確認している。
丸テーブルの上のクッションに座らされたわたしが、身振り手振りをしつつ「がぁ! がぁ!」と訊ねると、正面に座った先王様が「うんうん」頷きながら答えてくれる。
「大丈夫だ!
いつも以上に目を光らせているからな。
アールイス王国の強行派などノコノコやってきたら返り討ちにしてやるわ!」
凄く頼もしい!
なら、大丈夫かな?
そんな風に思っていたけど、先王様はこうも言う。
「ただ、城の中は問題なくても、一番危険なのは、アールイス王国へ向かう道中じゃろうな。
そこを狙われると、少々やっかいじゃ。
もっとも、その時は、クリスタリ侯爵領を通る事になるから、安心じゃろうがな」
クリスタリ侯爵領?
あ!
なるほど、イザベル王女様が狙われるの、アールイス王国に向かう道中なんだ!
だから、二国プラス侯爵家がギクシャクしたんだ。
わたしは先王様に、一番狙われやすい所はどこか聞いてみる。
「ん~
そうじゃなぁ……」
考え込むように腕を組んだ先王様が、執事さんに地図を持ってくるように言った。
そして、帰ってきた執事さんから少し古びた地図を受け取ると、わたしの前で広げた。
「一番危ないのは、マンチルト、ディング間じゃろうな。
侯爵領と伯爵領の切れ目だからな。
つけ込む隙があると思われてもおかしくない。
あと、マンチルト、ボーン間も奥まった所に賊が伏せやすい場所がある」
ああ、そういえばそこら辺に賊のアジトがあって、壊滅させたんだった。
あのアジト、わたしの場合、上から見つける事が出来たけど、普通に人間が森の中に入って探すのは出来ない訳では無いけど、困難だったはず。
実際見逃されていたしね。
そんな事を考えていると、先王様がわたしの背中を撫でながら言う。
「じゃが、あの侯爵が指揮を執って守るのじゃ。
よほどの事が無い限り、大丈夫じゃろう」
……あ、そうか。
本来のストーリーだとパパさんは死んでいる。
つまり、別の人が護衛を率いていたから防げなかった――というのもあるのかな?
……いや、それで安心するのは危険だ。
そもそも、あのミノタウロスみたいなのが襲ってきたら、厳しいだろうし。
……だいたい、あのミノタウロスってなんだったんだろう?
仮にあれが誰かしらの悪意で、送られてきたとしたら、イザベル王女様を襲撃する時も、同じ事をする可能性だってある。
そうなると、実は優秀と言われている、脳筋馬鹿なパパさんでもやっぱり厳しい気がする。
わたしが大きくなって?
棍棒で殴られる絵しか思い描けないけど……。
足止めぐらいは出来るかなぁ~
そんな事を考えつつ、地図を眺める。
ボーンの次はお嬢様のお屋敷がある町、その後は……。
港町がある。
ここから、船に乗ってアールイス王国に行くのかな?
この辺りは、襲撃されても大丈夫なのかな?
わたしが海を指さし「がっ! がっ!」と鳴くと、先王様はうんうん、と頷く。
「海は大丈夫だ。
我が国の虎の子である船団があるし、アールイス王国とて国の威信をかけて護衛船を送るじゃろう」
なるほど、2国で守るのなら、海上が一番、安全なのかもしれない。
そうなると、やはりお嬢様の領内か……。
う~ん……。
わたしのやるべき事は……
イザベル王女様の件を思い出した2日後、パパさんが領に向かう事となり、お嬢様、ママさん、エイサ坊ちゃまらがお見送りに出ている。
お嬢様が困ったような顔でわたしを見る。
「キュー、本当にお父様と一緒に行くの?」
訊ねてくるお嬢様にわたしは「がっ!」と答える。
そう、わたしはパパさんと一緒にお嬢様の領へと赴くことにしたのだ。
パパさんの左手の、例のグローブの上にいるわたしをじっと見つめながら、お嬢様は更に訊ねてくる。
「キュー、お休みに学院へと行った事、怒ってるの?」
わたしは首を横に振る。
寂しかったけど、致し方がない理由だったしね。
「お菓子とか食べ物で釣られたの?」
わたしは首を横に振る。
いや、わたしそんなもので釣られないから……。
「まさかと思うけど……。
わたくしをまた変に目立たせ、辱めようとしてる?」
わたしは、「がぁ! がぁ!」と声を上げ、大きく首を横に振る。
いやいや、何でわたしがお嬢様を辱めなきゃならないの!?
なんだか、お嬢様からのわたしの評価が、酷い事になってるんだけど!?
わたしが行うのは、お嬢様を光り輝く存在だと、世界に知ってもらう事ぐらいだから!
そんな事を思っていると、パパさんが機嫌よさげに声を上げる。
「カティ、キュートリック自ら、わたしと戦闘訓練をしたいと言っているのだ。
その気持ちを尊重してやろうじゃないか!」
そう、わたしは本格的に戦う方法を学んでいこうと考えたのだ。
そうすれば、仮にイザベル王女様が襲われても、素早く飛んでいって助ける事も出来る。
それに、お嬢様がピンチの時も、颯爽と飛んでいく必要がある。
その時になって、もたもたしないように今のうちに準備しておこうと思ったのだ。
お嬢様に仕える竜として、わたし、立派だよね!
だから、パパさん勘違いしないでよね!
「こいつも、侯爵家の竜としての自覚が~」
とか言ってるけど、そう言うんじゃないからね!
機嫌良く話をしているパパさんの言葉を「がぁ! がぁ!」言いながら否定していると、お嬢様が手を伸ばし、わたしの顔を撫でてくれる。
ふむ、お嬢様の撫で撫でをしばらくしてもらえないと思うと、寂しくはある。
だけど、お嬢様、イザベル王女様の幸せのためだ。
ぐっと我慢しよう。
「キュー、無理はしちゃ駄目よ。
学院の夏期休暇になったら、わたくしも帰るから、ね」
お嬢様に心配そうにされると、心がぐらつきそうになるけど――我慢だ!
お嬢様が領に戻られるまでの、一月半、頑張って強くなり、「キュー、頼もしくなったね」と言って貰うんだ!
頑張るぞぉぉぉ!




