イザベル王女様とアントワーヌ君
テュテュさん、ひょっとして、アールイス王国だけでなく、この国の王族に対しても良い印象が無いのかな?
現王族は一部を除いて、良い人ばかりだと思うんだけどなぁ~
そんな事を考えていると、先王様が背中を撫でてくれる。
「まあまあ、キュートリックよ。
わしや王太后がいるではないか?
寂しくないじゃろう?」
いやいや、そうじゃないの!
「がうがうがう!」
と訴えると、先王様はうんうん頷きながら「なるほど、わしらといるのも楽しいが、クリスタリ侯爵令嬢は別格なのか。まあ、爺婆じゃ代わりにならんか」とか言っている。
王太后様が「まあ、酷い!」とか言いつつ笑っている。
もう!
イチャイチャより、ちゃんと、わたしを慰めてってば!
そんな事をやっていると、いつものメイドさんが近づいてきた。
そして、王太后様に耳打ちをする。
頷いた王太后様が先王様に視線を向け、先王様が頷いた。
「なあ、キュートリック、すまんがイザベルの元に行ってもらえんか」
イザベル王女様?
顔を上げて、先王様を見上げれば、おじいちゃんは少し悲しげな顔をする。
「実はな、イザベルはもうすぐ外国へ嫁ぐ事になっていてな。
気丈にしているのだが、やはり辛いと思うんだ。
キュートリック、慰めてやってくれないか?」
王太后様も寂しげに頷く。
そういえばイザベル王女様、以前も外国に嫁ぐとか言ってた気がする。
でも、まだ15歳だよね!
早すぎないかな!?
いや、昔の王家の婚姻とかだと、それぐらいは当たり前なのかな?
よく分からない!
勿論、イザベル王女様を慰める事に否やは無い。
「がっ!」と了承した。
イザベル王女様の部屋には、メイドさんに連れて行って貰った。
中に入ると、優しげな美人さんである王女様が嬉しそうに出迎えてくれた。
ソファの上で、イザベル王女様の膝の上で撫でられると、とても幸せだ。
勿論、一番はお嬢様だけどね。
そんな事を考えつつ、うつらうつらしていると、イザベル王女様が呟くように言った。
「……アールイス王国に嫁げば、このようにキュートリック様にお会いする事も出来なくなるのね」
え!?
イザベル王女様、アールイス王国に嫁ぐの!?
そこ、エルフのテュテュさんの話から、良いイメージが無いんだけど!?
慌てて見上げると、イザベル王女様は困ったような、悲しげな顔をしていた。
「わたくしも、王族に連なる身、国のためになるなら受け入れようと思っているの。
だけど……」
そこで、イザベル王女様はおかしそうに目元を緩める。
「わたくし、昨日、殿方に〝そのような場所に嫁がないで、わたしと一緒になってくれ〟って言われる夢を見たの。
可笑しいわよね。
好いているお方も、好いて下さるお方も、いらっしゃらないのにね」
……イザベル王女様、やっぱり不安なんだ。
そりゃそうだ。
まだ、しっかりしてそうに見えても、十五歳になったばかりの女の子だもん。
当たり前だよね。
「がぁ……」
わたしが声を漏らすと、イザベル王女様は顔を近づけてくる。
そして、わたしのおでこに自分のおでこを当てながら、囁く。
「キュートリック様、わたくしを乗せてくれてありがとう。
素敵な思い出になったわ。
……本当は、わたくしも、キュートリック様の背に乗り、空を飛んで見たかったけど。
ふふふ」
単純に背に乗せて、空を飛ぶぐらいは、今でも出来る。
でも、無理かぁ~
乗る側も乗せる側も慣れていない現状、王女様にリスクを負わせる事など出来ない。
まして、外国に嫁ぐ予定ならなおさらだ。
絶対に許しは出ないだろう。
そんな事を考えていると、突然、少し強めの音で扉が叩かれた。
そして、男の子の声で「アントワーヌです! 入っても良いですか?」と聞こえた。
少し驚いた顔のイザベル王女様がメイドさんに視線を向け、頷いてみせる。
指示を受けたメイドさんが扉に近づき、開けた。
入ってきたのは、黒髪の男の子、アントワーヌ君だ。
たしか、公爵家? の子だったはずだ。
以前見た時より、体が大きくなっているけど、顔色が余り良くなく、頬も少しこけている様に見える。
わたしをソファの上に置いたイザベル王女様が立ち上がると、気遣わしげに訊ねる。
「アント、体調は大丈夫なの?」
アントってアントワーヌ君のあだ名かな?
そんな事を考えていると、アントワーヌ君が顔を顰めた。
「そのような事、良いのです。
イザベルお姉様……アールイス王国に……」
話し始めたアントワーヌ君だったが、その息が徐々に苦しげになっていく。
イザベル王女様が慌てて「アント、まずは座って!」とソファを差した。
そして、王女様の護衛騎士さん達と共に、アントワーヌ君の体を支えつつ、先ほどのメイドさんに視線を送る。
メイドさんは頷き、部屋から出て行った。
ソファに腰を下ろしたアントワーヌ君は、胸を押さえつつも、イザベル王女様に訊ねる。
「イザベルお姉様……。
ぼ、僕の病気のために、アールイス王国に嫁ぐ、つもり?」
「違うわよ」と柔らかく微笑んだイザベル王女様は、アントワーヌ君の首元に手を持っていき、ボタンを外して上げている。
「でも……」
更に続けようとするアントワーヌ君に、イザベル王女様は彼の目をしっかり見つめながら言う。
「わたくしはこの国の王女として、この国にとって最善の事を行うだけ。
仮に、この婚姻のお陰でわたくしが可愛い従兄弟の為に薬を手に入れる事が出来たとしても、それはあくまで結果、あなたの事が無くても、嫁ぐことになったはずよ」
メイドさんから受け取ったコップを口にしたアントワーヌ君が、苦しげな顔でイザベル王女様を見る。
「で、でも、よりによってアールイス王国は!
強行派の為に内乱状態だというじゃないか!
そんな場所に――」
アントワーヌ君の言葉に、イザベル王女様は首を横に振る。
「だからこそよ。
わたくしが穏健派であるアールイス王家に嫁げば、メーブリー王国がその後ろ盾になったと表明するに等しいわ。
強行派も迂闊には動けなくなるはずなの」
「でも……」
「いつまでも、メーブリー王国とアールイス王国とで小競り合いをしている場合じゃないわ。
東の超大国、オールマ王国にも目を向けなければ。
今は、南に視線が向いているけど、いつそれが落ち着くか分からないわ。
その視線が西に向いた時、ごたついている2つの島国をどう思うか……。
海を渡ってまで攻めてくることは無いと言われているけど、それでも、弱みを見せるべきではないわ」
「イザベルお姉様……」
不安げに自分を見つめるアントワーヌ君に、イザベル王女様は優しく微笑んだ。
「大丈夫!
わたくしはアールイス王家にとって命綱ですもの。
大事にしてくれるわ。
だからアント、そんな顔しないで!
大丈夫だから!」




