不思議な竜(女の子)?
因みに、テーブルにはお誕生日席のパパさん、パパさんから見て右前にママさん、その隣にエイサ坊ちゃまが座り、パパさんから見て左前にお嬢様、その隣にわたし、そして、更に隣にテュテュさんが座っている。
なので、ご機嫌なテュテュさんはさっきからわたしの背中を荒っぽく撫で、その毛がぐしゃぐしゃになっている。
几帳面なお嬢様はそれが気になっているようだけど、お客様であるエルフさんに遠慮してか止められずにいる。
因みに、わたしは最初の内、尻尾でその手を追っ払おうとしていたんけど……。
なにやら華麗に躱し、もしゃもしゃしてくるので、もう諦めた。
もしゃもしゃ毛のまま、パイを囓っている。
うん、潰したジャガイモとラム肉の挽肉が入ってて美味しい!
お酒を注いで貰ったテュテュさんは一口飲んだ後、機嫌よさげに言う。
「これも美味しいですが、西の大陸で飲んだ酒が美味しかったですよぉ~
トウモロコシとあの地方でしか得られない独特な水を樽の中で熟成させたものですがぁ~
芳醇な香りと口当たりがなめらかで――閣下にも飲んで頂きたいですねぇ~」
「おお!
それは美味そうだ!」
と食い気味のパパさんを制すように、ママさんが口を挟む。
「テュテュさんは西の大陸にも行かれた事があるの?」
テュテュさんは目を少しトロンとさせながら答える。
「ええ、何度か行った事、ありますよぉ~」
「なら、ぐらたん、という料理はご存じかしら?
どこの料理とか」
それに対して、テュテュさんは自分のこめかみを指でコンコン叩きながら考え込む。
「ぐらたん――聞いた事ありませんねぇ。
まあ、西の大陸はとてつもなく広いので、単純に出会えなかっただけかもしれませんが……。
どんな料理なんでしょうか?」
ママさんが説明すると、テュテュさんは小首をかしげる。
「う~ん、どちらかというと、東の大陸にあるフレコの料理に近い気がしますね。
西の大陸の料理はそこまで凝った料理はありませんでした」
ママさんとパパさんは困惑気味に視線を交わす。
すると、エイサ坊ちゃまがテュテュさんに訊ねる。
「そこ、どんなところなの?」
「ん~そうですね」
とテュテュさんはエイサ坊ちゃまに微笑みながら答える。
「色んなものの規模がとても大きい大陸ですね。
天高くから降ってくるような滝や、目視では向こう岸が見えない巨大な川、広大な草原を万もの大群で移動する牛系の魔獣など、様々なものが規格外の場所です」
「すご~い!」
目をキラキラさせるエイサ坊ちゃまに気を良くしたのか、テュテュさんは得意げに続ける。
「そして、何より凄いのは巨大な竜が無数に住む竜の谷ですね。
お坊ちゃまのお屋敷より大きな竜が、何千も住み着いているのです!
あれらが飛び立つ様は圧巻でした!」
「うぁ~!」
と興奮したエイサ坊ちゃまがこちらを見る。
「キュートリックもそこにいたの?」
いや、そんなに巨大な竜がゴロゴロいたら、わたし、仮に最大化になっても踏み潰されて死んじゃうよ?
恐怖に身震いしているわたしに、テュテュさんは不思議そうに視線を向ける。
「う~ん、どうでしょう?
この子は不思議な子ですから」
すると、パパさんが訊ねる。
「聞いた話だと、西の大陸に白竜様という、こいつぐらい小さい竜がいると聞いたが」
テュテュさんはチラリとパパさんに視線を送り、再度、わたしを見る。
「白竜様、ですか。
お会いした事があります。
最古竜である彼の竜殿は体の大きさをある程度自由に変えられるという不思議な能力を持たれていて、体を小さくしていた時は、これぐらいではありました」
そう言いながら、テュテュさんはわたしの背中を撫でる。
そして、パパさんを見た。
「ただ、姿形は違います。
というより、彼の竜殿、そして、あの地方に住む白竜と呼ばれる白い竜は多少の差違はありつつも、似通った形をしてますので、キュートリックとは別の種と考えるのが自然かと」
「なるほどな」
とパパさんは頷く。
テュテュさんは続ける。
「あと、彼の竜殿は姿や言動はともかく、その巨大な力を操る動きには老熟とも言って良い洗煉されたものを感じられました。
ただ、この子からはまだ未成熟な危うさを感じられます。
恐らく、産まれてさほど経っていないのでしょう。
とはいえ……。
この子は不思議な女の子です」
お嬢様が少し目を見張り訊ねる。
「キューは、キュートリックは女の子なんですか?」
パパさんも「竜に性別があるのか?」と驚いた顔で訊ねる。
テュテュさんは首を横に振る。
「いえ、竜には性別はありません。
ただ、この子の内から感じられる力から、どことなく女の子のような気がするのです。
上手くは説明できませんが……」
それは多分、わたしが転生者だからだろう。
だけど、最近、わたしは性別などという、そんな些末な事、どうでも良いと思っている。
そう、わたしはお嬢様の竜として、お嬢様をお守りし、お嬢様に甘えて過ごせれば良いのだ。
なので、その辺りを聞き流し、メイドのアネットさんが運んでくれたデザートに取りかかるのだった。
――
エルフのテュテュさんが来てから数日後、今日は待ちに待ったお休みの日――のはずが、生徒会のあれこれが有るとかで、お嬢様が学院に行ってしまわれた。
寂しい。
何とか付いて行こうと、馬車の後ろにくっ付いていたんだけど……。
護衛騎士のアランさんに見つかり、引き剥がされてしまった。
そして、馬車に乗ったお嬢様は、困った顔をしながら「今日は早く帰れるから」と言い残し、出発していった。
凄く寂しい……。
その思いを誰かに聞いて貰いたくて、王城まで飛んで行き、先王様に「がうがうがう!」と愚痴った。
先王のおじいちゃんはうんうん頷きながら「そうじゃな、生徒会のお仕事を応援したい気持ちは有っても、寂しいものは寂しいよな」と分かってくれた。
嬉しい!
そんな様子を見ながら王太后様が可笑しそうに笑う。
「陛下はキュートリックさんが何を言ってるのか分かるのですか?」
先王様は「ガハハ!」と笑いながら答える。
「いや、さっぱり分からんが、雰囲気は伝わってくるぞ」
「まあ」
先王様、王太后様夫妻は楽しそうに笑っている。
仲良し夫婦だ。
そういえば、テュテュさん、一泊した早朝、お屋敷から出て行ったんだけど、パパさんに「アールイス王国について、テュテュさんから陛下にも説明して貰えないか?」と頼まれていたのを、どことなく冷めた感じに「王族とは恐れ多いのでお会いできません」と断ってたな。
ママさんが何か言いたげにしてたのを止めたパパさんは、苦笑しながら「分かった」と答えてた。




