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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第四章

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エルフさんのお話(三つ首を持つ神獣と王スライム)2

 そこで、表情を硬くさせながら、テュテュさんは続ける。

「ところが、そんな王女を良く思わない者がいました。

 当時のアールイス王国の王太子です。

 猜疑心が強い王太子は、庶子の妹が自分より国民から支持されている事に危機感を持っていました。

 自分の地位が奪われるのでは無いか……。

 そのように思ったのです。

 また、たかだか10歳は年下の、卑しい身分の母親を持つ妹が自分をそのように悩ませる事に怒りも感じていました。

 王女が15歳になった時、王太子は父親である王の許しを得ぬまま、アールイス王国から見たら海を挟んだ北東、メーブリー王国(この国)から見たら北方にあった小国、リューハザの王太子と王女の婚約を結びました」

「リューハザ王国……」

 パパさんは何故か、呻くように呟いた。

 わたしの背中に置かれた、ママさんの手も心なしか強ばっている。

 テュテュさんは頷き続ける。

「それは、一見すると隣国に対して友好的な姿勢に見えました。

 少なくとも、リューハザ王国は上から下まで歓迎一色でした。

 格上であるアールイス王国の、しかも、女神の生まれ変わりとも言われた王女が嫁いでくるのです。

 それも無理からぬ事でした。

 リューハザの王は民に酒を振る舞い、夜通しどんちゃん騒ぎだったと言われています。

 そして、王族達と露台(ろだい)に立った美しい王女の笑顔を見て、民衆の熱狂は最高潮(さいこうちょう)に達しました。

 ただ、華やかなそれらの裏で、アールイス王国の王太子のどす黒い陰謀が動いていたのです」

「……陰謀、とは?」

 パパさんの問いにテュテュさんが答える。

「リューハザ王国への侵攻です。

 アールイス王国の王太子は小さいながらも貿易都市として栄えていたリューハザ王国の王都を手に入れようとしていたのです。

 実際、祝賀会の陰で、王都近くまで兵を送り込んでいました」

 パパさんが顔をしかめながら「悪辣(あくらつ)な」と呟き、ママさんが「そのようなことをしたら、王女が人質にされるのでは?」と疑問の声を上げた。

 しかし、テュテュさんは苦しそうに首を横に振った。

「侯爵夫人、違うのです。

 アールイス王国の王太子が目指したのは、リューハザ王国への侵攻と共に、自分を苛立(いらだ)たせた王女の完全なる排除――それを同時に行ったのです」

 ママさんが息をのむ。

 え!?

 でも、王女は結婚と同時に、国から出ているんだからもう、邪魔にはならないでしょう!?

 え!?

 自分をイライラさせたって理由で、妹を殺すとかあるの!?

 テュテュさんは苦しそうな顔で続ける。

「当時、その騒動から何とか逃げ出した目撃者の話では、笑顔で手を振る王女の胸から突然、剣先が突き出たそうです。

 王女は血しぶきを上げながら崩れました。

 驚愕し、悲鳴を上げる王族達を押しのけるように、侍女が王女に駆け寄り、その少女も首から血を吹き出し倒れたとのことです。

 その目撃者の男性によれば、混乱する露台(ろだい)の上で、返り血を浴びた近衛兵が王女のスライムを持ち上げ――何かをしたようだと話していました。

 その次の瞬間、王女のスライムは巨大化し、辺りの物を、人を、建物を――あらゆるものを飲み込んでいったと話していました。

 その目撃者の男性は奇跡的に助かりましたが、王都にいる何十万もの人間が一夜にして飲み込まれたと言われています。

 そればかりか、王都近辺の町や村も10日もかからず潰され、リューハザ王国は文字通り消滅しました」

 パパさんは血の気を失せた顔で、訊ねる。

「スライムの巨大化と暴走――テュテュさんは、アールイス王国の王太子が指示させたことだと?

 いや、そもそも、それを人為的に行えるというのか?」

 テュテュさんは頷く。

「その数年後になりますが、アールイス王国の時の国王がその事を認め、王太子を処断しています。

 なので、恐らくは彼の王子が行ったとみて、間違いないと思います。

 ただ、この事件にはいくつかの謎が残されています。

 まず、スライムの巨大化と暴走については、詳しい方法までは分かりません。

 元々、王女のスライムは特殊で、体の大きさを変えたり、他のスライムを従えたりすることが出来ました。

 とはいえ、あそこまで巨大になったり、それこそ、小国とは言え一国を飲み込むなど、普通であればできるとは思えません。

 そして、その方法を王太子に教えた者の存在も疑問です。

 今も昔も、スライムをそのように暴走させた例は、わたしが知る限り、その時のみです」

 パパさんが「わたしも聞いた事がない」と言うのにテュテュさんが頷く。

「話を戻しますが、巨大化したスライムはリューハザ王国の王都をあっという間に飲み込み、更に、近隣の町なども飲み込みました。

 恐らく、ここまでの規模での成長は、アールイスの王太子も想定外だったのでしょう。

 混乱に乗じて攻めようと控えていたアールイス王国らの兵も飲み込まれました。

 それでも、そのスライムは止まりませんでした。

 まるで……。

 まるで、誰かを探すかのように、全てを飲み込みながら彷徨(さまよ)い続けました。

 ……それを止めたのが、()の神獣です。

 種族は違えど、同じように王女を愛した者を、自ら殺したのです。

 その時の、神獣の心中を思うと……」

 テュテュさんは悲しげに視線を下ろした。


 前世の物語にいるエルフの多くが長命として描かれていた。


 伝聞(でんぶん)の様に語っているけど、このエルフさん、ひょっとすると、その場にいた当事者なのかもしれない。

 パパさんもママさんもそう思ったのか、眉を寄せ「彼女たちに愛の女神の平安が訪れますように」と両手を胸に重ねて祈った。

 わたしも「がぁ~」と声を上げると、テュテュさんは優しく微笑んだ。

「なあ、テュテュさん」とパパさんが言いにくそうに訊ねる。

「そのスライムを巨大化させ、暴走させた話だが、その手法はひょっとして、アールイス王国に残っているのではないか?」

 確かに、そうだったら恐ろしい。

 町の中で暴走させたら、大変な事になる。

 ただ、テュテュさんは首を横に振る。

「確実にとはいえませんが、その可能性は少ないと思います。

 当時のアールイスの国王が全て燃やさせたと言われていますので」

 パパさんが「だが、王太子が……」と言うも、テュテュさんが「その王太子に関わることですが」と話し始める。

「愛する王女達を失い、怒り狂った神獣ですが、アールイス王国を襲う事はありませんでした。

 憎むべき者が住む場所でしたが、同時に、王女が愛した国でも有ったからです。

 なので、膨れ上がる怒りと、湧き上がる憎悪を必死に押さえ、北方の、人の身では到達できない極地の、ある洞窟に住処(すみか)を移しました。

 神獣は感情を飲み込んでしまうつもりだったのだと思います。

 優しい王女は、誰かが傷つく事など望まないでしょうから。

 ただ、そんな神獣も、どうしても許せない者がいました。

 アールイスの王太子です。

 神獣は油断すれば洞窟を飛び出してしまいそうで、歯を食いしばり籠もっていたとの事です。

 何年も、何年も……。

 神獣自身は、王太子を害する事を必死に堪えているつもりでいたようですが……。

 その期間、アールイス王国ではとんでもない事が起きていました」


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