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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第四章

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エルフさんのお話(世界情勢)

 テュテュさんが話し始める。

「そうですね、相変わらずでした。

 相変わらず、オールマ、ガラゴ、セヌの三国が殴り合い、他の国がそれを怯えて眺める、そんな有様です。

 まあ、戦いが収まらないのもこの三国のためではありますが、小競り合いで済んでいるのも、この三つ巴のおかげと言えなくないのがなんとも……」

 最後は苦笑しながら続けるテュテュさんに、パパさんは頷きながら更に訊ねる。

「その様子ではオールマ王国の視線がこちらに向く事は無いんだな」

 テュテュさんは困った顔をする。

「まあ、無いでしょうね。

 そもそも、オールマ王国は――なんと言いますか、気質は地回りとかの親分みたいな国ですよ。

 自分の縄張りや子分にちょっかいをかけられたら、総出で飛びかかっては来ますけど……。

 基本的には他所の国をせめて支配するとか、大陸統一なんて面倒事は好みません。

 まして、比較的近いとはいえ、海を越えてとなれば、わざわざ出張ってくる事は無いと思います。

 無論、へたに触れば、思いっきり殴られるのは間違いないですが……」

「我が国の方針では、あの国とは近づきすぎず離れすぎず、だ」

「なら、大丈夫だと思いますよ。

 特に今は南――セヌ王国の横っ面をいかに強く殴り倒すか、そんな事で頭がいっぱいでしょうし」

「うむ」

 テュテュさんの言葉にパパさんは頷く。

 テュテュさんは続ける。

「それよりこの国が心配すべきは、西の島国、アールイス王国ではありませんか?」

「ああ……そうだな。

 テュテュさん、知ってる事があれば教えて欲しい」

 パパさんの問いに、テュテュさんが頷く。

「知っての通り、現在は穏健派と強硬派で割れています。

 穏健派はメーブリー王国との現状を維持し融和を保とうとして、強硬派は宗教的、民族的な悲願を達成し、本来の姿を取り戻そうとしています」

 パパさんが苦笑しながら「本来の姿、ね」と漏らすと、テュテュさんも苦笑する。

「愛の女神様の指示で、大陸で弾圧されていたアールイス一族がこの島で国を興し――同じく弾圧されていたメーブリー一族を善意で招いた。

 しかし、この地を欲したメーブリー一族がだまし討ちを行い、アールイス一族は元の島の四分の一程度の島に追いやられた――という伝説ですね。

 愛の女神様はそのことを酷くお怒りになり、故に彼の地では祝福が酷く少ないのだとか……。

 向こうでは赤子の内から聞かされるお話ですが……」

「こちらでは、先に愛の女神の指示でメーブリーがこの地に来て、アールイス一族を招き、欲を出した彼の一族を追放した事になっている」

 パパさんの言葉に、テュテュさんは頷く。

「民話や伝承などと言うものは、都合良くねじ曲げられながら伝わるもの。

 客観的に言わせて頂くと、もう既にどちらの言い分が正しいかなど、人のみでは判断は付きません」

「今の言い方は、メーブリーの貴族として、少々聞き捨てならないから、注意したまえ」

 パパさんが少し厳しい声で窘めると、テュテュさんは少し可笑しそうにする。

「聞き捨ては、出来るのではないですか?

 少なくとも、クリスタリ侯爵家は」

「無礼でしょう!」

とママさんが眉を怒らせると、テュテュさんは丁寧に「大変失礼しました」と謝罪をした。


 え?

 クリスタリ侯爵家って何かあるの?


 だけど、パパさんは激高するママさんを制すように、右手を伸ばした。

 そして、ため息を付くと「我が家はメーブリー王国に忠誠を捧げる、家臣の家だ。間違えないでくれ」と言った。

「大変失礼しました」

とテュテュさんはもう一度、謝罪をした。

 そして、話を続ける。

「わたしが危惧しているのは、アールイス王国の強行派が少々、変異し始めた事にあります」

「変異?」という不思議そうなパパさんに、テュテュさんは頷く。

「はい。

 ただ、この話をするには、少し別の話をしなくてはなりません。

 閣下はアールイス王国の北方に住む神獣をご存じですか?」

「ああ、確か三つ首の犬だったか……」

 パパさんが思い出そうと宙を眺めると、ママさんが口を挟む。

「グライ、確か、成長したケルベロスじゃなかったかしら」

 パパさん、ママさんにテュテュさんは頷く。

「そうです。

 そして、アールイスの王族は〝彼女〟と上手く関わる事で求心力を得ていたのです」

 パパさんは目を見開く。

「神獣と関わる……。

 そのような事は可能なのか?

 我が国にも神獣はいるが、(ぎょ)す事は不可能と言われているが」

 テュテュさんは答える。

(ぎょ)すのは不可能です。

 神獣は人でどうにか出来る存在ではありません。

 ただ、仲良くする――それこそ、隣人として親しくする事は出来なくはありません。

 そして、アールイス王国の王族にはそれに適した血族が代々、産まれるとされています」

「適した?」

というパパさんの合いの手に、テュテュさんは頷く。

「動物にとても好かれるという特殊な能力を持つ者です。

 ()の者達の声には動物を穏やかにさせる響きがあるのだとか。

 無論、魔獣や獣を押さえつけるとか、そういうことは出来ませんが、理知的な存在であれば、友人となり、少しぐらいの頼み事であれば、多少は聞いてくれる仲になる――それぐらいのものです。

 そういう力を持つ王族を、神獣の元へと定期的に訪問させ、本当に困った時に、助力を得ていたそうです」

「なるほどな……。

 だが、そのような話、聞いたことが無いが?」

 パパさんの問いに、テュテュさんは頷く。

「今から大体、80年ほど前まではそうだった、と言った方が正確でしょうね。

 現在は、神獣とアールイス王家とは関係を絶っています。

 正確には、神獣が()の王家を嫌悪(けんお)し、北方の山奥に引っ込んでしまっています。

 そして、その事が、強硬派を変異させ始めているのです」

「……神獣との関わりが断ち切られた事による、王族の求心力の低下か」

「はい、その通りです。

 そもそも、()の国は昔から、政治を行う上で、外敵であるメーブリー王国と国の象徴とも言える神獣を都合よく使ってきました。

 国内で不満が上がっても、仮想敵国であるメーブリー王国の動きを誇張して伝えれば、押さえ込むことが出来ました。

 そして、メーブリー王国への敵がい心が過熱しすぎた時は、『神獣様が、今は攻める時ではないと仰っている』みたいなことを言って、冷却させていました」

「狡猾な官吏(かんり)がやりそうなことだな。

 だが、神獣が離れたとなると……。

 抑えが効かなくなったか。

 ()の王家の力が落ちていることは聞いていたが、そんな経緯があったとは……。

 そうなると、我が国にちょっかいをかけてくる事も起こりえる、と?」

 パパさんの問いに、テュテュさんは苦い顔をする。

「それどころではありません。

 ()の国の強硬派はとんでもないことを企て始めました」


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