エルフさんのお話(世界情勢)
テュテュさんが話し始める。
「そうですね、相変わらずでした。
相変わらず、オールマ、ガラゴ、セヌの三国が殴り合い、他の国がそれを怯えて眺める、そんな有様です。
まあ、戦いが収まらないのもこの三国のためではありますが、小競り合いで済んでいるのも、この三つ巴のおかげと言えなくないのがなんとも……」
最後は苦笑しながら続けるテュテュさんに、パパさんは頷きながら更に訊ねる。
「その様子ではオールマ王国の視線がこちらに向く事は無いんだな」
テュテュさんは困った顔をする。
「まあ、無いでしょうね。
そもそも、オールマ王国は――なんと言いますか、気質は地回りとかの親分みたいな国ですよ。
自分の縄張りや子分にちょっかいをかけられたら、総出で飛びかかっては来ますけど……。
基本的には他所の国をせめて支配するとか、大陸統一なんて面倒事は好みません。
まして、比較的近いとはいえ、海を越えてとなれば、わざわざ出張ってくる事は無いと思います。
無論、へたに触れば、思いっきり殴られるのは間違いないですが……」
「我が国の方針では、あの国とは近づきすぎず離れすぎず、だ」
「なら、大丈夫だと思いますよ。
特に今は南――セヌ王国の横っ面をいかに強く殴り倒すか、そんな事で頭がいっぱいでしょうし」
「うむ」
テュテュさんの言葉にパパさんは頷く。
テュテュさんは続ける。
「それよりこの国が心配すべきは、西の島国、アールイス王国ではありませんか?」
「ああ……そうだな。
テュテュさん、知ってる事があれば教えて欲しい」
パパさんの問いに、テュテュさんが頷く。
「知っての通り、現在は穏健派と強硬派で割れています。
穏健派はメーブリー王国との現状を維持し融和を保とうとして、強硬派は宗教的、民族的な悲願を達成し、本来の姿を取り戻そうとしています」
パパさんが苦笑しながら「本来の姿、ね」と漏らすと、テュテュさんも苦笑する。
「愛の女神様の指示で、大陸で弾圧されていたアールイス一族がこの島で国を興し――同じく弾圧されていたメーブリー一族を善意で招いた。
しかし、この地を欲したメーブリー一族がだまし討ちを行い、アールイス一族は元の島の四分の一程度の島に追いやられた――という伝説ですね。
愛の女神様はそのことを酷くお怒りになり、故に彼の地では祝福が酷く少ないのだとか……。
向こうでは赤子の内から聞かされるお話ですが……」
「こちらでは、先に愛の女神の指示でメーブリーがこの地に来て、アールイス一族を招き、欲を出した彼の一族を追放した事になっている」
パパさんの言葉に、テュテュさんは頷く。
「民話や伝承などと言うものは、都合良くねじ曲げられながら伝わるもの。
客観的に言わせて頂くと、もう既にどちらの言い分が正しいかなど、人のみでは判断は付きません」
「今の言い方は、メーブリーの貴族として、少々聞き捨てならないから、注意したまえ」
パパさんが少し厳しい声で窘めると、テュテュさんは少し可笑しそうにする。
「聞き捨ては、出来るのではないですか?
少なくとも、クリスタリ侯爵家は」
「無礼でしょう!」
とママさんが眉を怒らせると、テュテュさんは丁寧に「大変失礼しました」と謝罪をした。
え?
クリスタリ侯爵家って何かあるの?
だけど、パパさんは激高するママさんを制すように、右手を伸ばした。
そして、ため息を付くと「我が家はメーブリー王国に忠誠を捧げる、家臣の家だ。間違えないでくれ」と言った。
「大変失礼しました」
とテュテュさんはもう一度、謝罪をした。
そして、話を続ける。
「わたしが危惧しているのは、アールイス王国の強行派が少々、変異し始めた事にあります」
「変異?」という不思議そうなパパさんに、テュテュさんは頷く。
「はい。
ただ、この話をするには、少し別の話をしなくてはなりません。
閣下はアールイス王国の北方に住む神獣をご存じですか?」
「ああ、確か三つ首の犬だったか……」
パパさんが思い出そうと宙を眺めると、ママさんが口を挟む。
「グライ、確か、成長したケルベロスじゃなかったかしら」
パパさん、ママさんにテュテュさんは頷く。
「そうです。
そして、アールイスの王族は〝彼女〟と上手く関わる事で求心力を得ていたのです」
パパさんは目を見開く。
「神獣と関わる……。
そのような事は可能なのか?
我が国にも神獣はいるが、御す事は不可能と言われているが」
テュテュさんは答える。
「御すのは不可能です。
神獣は人でどうにか出来る存在ではありません。
ただ、仲良くする――それこそ、隣人として親しくする事は出来なくはありません。
そして、アールイス王国の王族にはそれに適した血族が代々、産まれるとされています」
「適した?」
というパパさんの合いの手に、テュテュさんは頷く。
「動物にとても好かれるという特殊な能力を持つ者です。
彼の者達の声には動物を穏やかにさせる響きがあるのだとか。
無論、魔獣や獣を押さえつけるとか、そういうことは出来ませんが、理知的な存在であれば、友人となり、少しぐらいの頼み事であれば、多少は聞いてくれる仲になる――それぐらいのものです。
そういう力を持つ王族を、神獣の元へと定期的に訪問させ、本当に困った時に、助力を得ていたそうです」
「なるほどな……。
だが、そのような話、聞いたことが無いが?」
パパさんの問いに、テュテュさんは頷く。
「今から大体、80年ほど前まではそうだった、と言った方が正確でしょうね。
現在は、神獣とアールイス王家とは関係を絶っています。
正確には、神獣が彼の王家を嫌悪し、北方の山奥に引っ込んでしまっています。
そして、その事が、強硬派を変異させ始めているのです」
「……神獣との関わりが断ち切られた事による、王族の求心力の低下か」
「はい、その通りです。
そもそも、彼の国は昔から、政治を行う上で、外敵であるメーブリー王国と国の象徴とも言える神獣を都合よく使ってきました。
国内で不満が上がっても、仮想敵国であるメーブリー王国の動きを誇張して伝えれば、押さえ込むことが出来ました。
そして、メーブリー王国への敵がい心が過熱しすぎた時は、『神獣様が、今は攻める時ではないと仰っている』みたいなことを言って、冷却させていました」
「狡猾な官吏がやりそうなことだな。
だが、神獣が離れたとなると……。
抑えが効かなくなったか。
彼の王家の力が落ちていることは聞いていたが、そんな経緯があったとは……。
そうなると、我が国にちょっかいをかけてくる事も起こりえる、と?」
パパさんの問いに、テュテュさんは苦い顔をする。
「それどころではありません。
彼の国の強硬派はとんでもないことを企て始めました」




