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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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お久しぶりのお坊ちゃまと……。

 色々説明したママさんが、両手でトントントンとゆっくり叩いてきた。

 ゆっくり進めという合図だ。

 わたしは上半身を前に傾けると、ゆっくり歩く。

 すると、手綱(たづな)、といっても馬とは違い肩に回っている物だけど、その左側を引っ張ったようだ。

 わたしはそれに合わせて左に回る。

 しばらく、指示はない。

 そうすると、ちょうど王妃様たちの周りを回る形になった。

 一周回ると、手綱が両方引かれる。

 止まれの合図なので、その場に止まる。

 背中をトントン叩かれたので、しゃがむ。

 ママさんが「基本的な動きはこのようになります」と説明する。

 それに対して、王妃様は神妙な顔で大きく頷く。

「なるほど、よく分かったわ。

 ところで、ジェニー……」

 そして、キリっとした顔で王妃様は訊ねる。

「駆ける、そして、飛ぶの合図は何かしら!」

「王妃陛下!」

と周りにいる王家の護衛騎士さん達が窘めるも「一応、一応よ!」などと言っている。

 この王妃様も大概脳金さんだなぁ~

 イザベル王女様も、そんな母親を困ったように目を細めて見ていた。



「お疲れ様だったわね、キュー」

「がぁ~」

 着替えが終わったお嬢様が、わたしを持ち上げ、背中を撫でてくれる。

 同じく着替えたイザベル王女様も「キュートリック様、乗せてくれてありがとう」と頭を撫でてくれる。

 ふむ、喜んでくれたなら、頑張った甲斐はあったかな?


 あれから、王妃様、王女様、お嬢様の順で乗せていった。


 王妃様が無理矢理聞き出した〝駆ける〟や〝飛ぶ〟の合図を送ってきたけど華麗にスルーしつつ、楽しそうにするイザベル王女様にほのぼのしつつ、大好きなお嬢様を乗せて楽しくなったりしつつ、今日の任務をようやく終わらせた。

 体力的にはともかく、気疲れをしてしまったようで、ぐったりとした。

 因みに、お嬢様とイザベル王女様は制服姿だ。

 中等部のお嬢様とは違い、高等部のイザベル王女様は白地の物を着ている。

 お高そうであり、更に言えば、汚しそうでドキドキしそうな物でもある。

 まあ、しっかりしているイザベル王女様なら問題ないかもしれないけど、前世のわたしだったら、絶対来たくないと思っただろう。

 100%似合わないだろうしね。


 護衛騎士のお姉さんたちに先導され、お嬢様たちに更衣室としてあてがわれた部屋を出る。

 すると、王妃様やママさんと話をする、白い制服の男女が目に入った。

 制服の男の子が、笑顔で何かを言っている。

 男の子、っていうか、マーカスお坊ちゃまだった。

 女の子は、薄茶色の髪の綺麗な子、ケーティさんで少し緊張気味に、でも笑顔で王妃様たちと話をしている。

 お嬢様達が近づくと、それに気づいたマーカスお坊ちゃまがイザベル王女様に丁寧に頭を下げる。

 ケーティさんも慌てた感じにそれに倣う。

 イザベル王女様は笑顔で頷く。

「マーカスさん、ケーティさん、ごきげんよう。

 お二人ともいらしていたのね」

 マーカスお坊ちゃまが頭を上げ、微笑みながら言う。

「イザベル様、こんにちは。

 父に、たまには顔を出すよう言われていましたので」

 しかし、マーカスお坊ちゃま、格好いい!

 身長が伸びすらりとした、まさに貴公子様だ!

 前世のモデルさんにでも、絶対に負けてないと思う。

 そんな事を考えているうちに、マーカスお坊ちゃまの隣にいるケーティさんが困ったように眉を下ろす。

「ごきげんよう、イザベル様。

 わたしは、その、まだ早いとは思いましたが……」

 すると、ドレスに着替えた王妃様やママさんが扇子を口元に当てて、目を悪戯っぽく緩める。

「あら、もう婚約をしたのですもの、別に構わないんじゃなくて?

 ねえ、ジェニー?」

と王妃様が言うと、ママさんも頷く。

「その通りよ、ケーティさん。

 しかも、許嫁同士、制服姿で寄り添いながらなんて、素敵だわぁ~」

 そんな、まごう事なき、おばちゃんな発言をする2人に対して、マーカスお坊ちゃまは困ったように眉を寄せ、ケーティさんは顔を赤めて俯く。


 そう、この綺麗なお姉さんこと、ケーティさんはマーカスお坊ちゃまの婚約者さんなのだ!


 しかも、ケーティさんは領地が接している伯爵さん地の娘さんで、もともと仲の良かった家同士という事もあり、幼い頃から仲が良かった幼なじみとの事だ。

 幼なじみを負けヒロイン扱いしていた前世とは違い、今世の伯爵令嬢さんは勝ちヒロインとなっていた。

 因みに、ケーティさんの事をお嬢様は元々、姉のように慕っていたので、この婚約には大賛成のようだ。

 今も、王妃様たちがいるから大人しくしているけど、目が合うと、笑顔で小さく手を振り合っている。

 マーカスお坊ちゃまが咳払いをしつつ言う。

「それで、お父様はどこに?」

 それに、ママさんが答える。

「あら、パパさん(グライ)なら今日は来ないわよ。

 ……マーカスさん、こんな所で済まそうとせず、ちゃんと屋敷に帰ってきなさい」

「いや、屋敷に帰ると、なんやかんや、領の話になり色々と滞在が長くなるので……」

「今年で最後だから、少しでも楽しい学院に留まりたいという気持ちも、分からないでもないけど……。

 領の話(それ)も大切な話じゃないの?

 ほら、ケーティさんも一緒に連れてきても良いから」

 ママさんが悪戯っぽく、ケーティさんに視線を流すと、綺麗な婚約者さんは顔を赤めながら「流石にその……」などとモゾモゾ言っている。

 マーカスお坊ちゃまは「その辺りはまたの機会に」とか何とか言いつつ、王妃様やイザベル王女様に挨拶をすると、お嬢様に笑顔で「カティもまたね」と手を振り、婚約者を連れて去って行った。

 ママさんが「困った事」と言い、王妃様が「まあ、今は許して上げたら」などと言っている。


 ん?


 イザベル王女様がどことなく寂しそうに見えた。

 どうしたんだろう?

 わたしがお嬢様に抱かれつつ、のぞき込もうとすると、それに気づいたイザベル王女様が笑顔で「キュートリック様、また乗せてね」と言った。



 王都侯爵邸の庭園にて、お嬢様の膝の上で丸くなっているわたしは、ご令嬢方に「可愛い!」「キュートリック様は本当に可愛いですわ!」「本当に可愛い……」と言われながら撫でられている。


 ふっふっふ!

 そうでしょう、そうでしょう!

 わたしは可愛いのだよ!

 流石は王都で可愛いと評判のドラゴンボディ!

 お嬢様方のハートをわしづかみだね!


 ただ、だんだん、毛がもさもさされすぎて、乱れている気が……。

 そんな風に思っていると、お嬢様が少し困ったように言う。

「皆、そろそろ止めて上げて。

 キュートリックの毛が大変な事になっているから」

と止めてくれた。


 流石はお嬢様!

 わたしの気持ちをきちんと察して下さる!


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