学院下の鍛錬所?
王城、庭園にて、王太后様が膝の上に乗せている、わたしの背中を撫でながら言う。
「それで、キュートリックさんは元気がないのね」
それに、ママさんが苦笑する。
「そうなんです、王太后様。
もうぐったりとしているので、わたしが抱えて持ってきたんですよ」
すると、王妃様が「まあ」と言いながら、くすくすと笑う。
王太后様がわたしをゆっくり撫でながら、諭すように言う。
「寂しいのね、キュートリックさん。
でも、クリスタリ侯爵令嬢は頑張ってお勉強をしているんですもの、応援して上げなくては」
「がぁ……」
まあ、王太后様の言う事は分かるよ?
でもさ、愛らしいお嬢様が一生懸命学業やらなんやらをしている姿を見たいって気持ちは、やっぱりある訳よ。
あ~きっと、素敵な光景なんだろうなぁ~
……。
わたしには、翼がある。
すいっと飛んでいけば、学院になんて、すぐに到着する訳で……。
ふむ、であればだ――。
「駄目よ、キュートリックさん。
許可も無いのに、学院に入っては」
王太后様に窘められてしまった。
「がぁ~」
すると、王妃様が少し考え込んでからわたしを見る。
「中等部は難しいけど、高等部なら何とかなるんじゃないかしら?」
「そうなのですか?」
ママさんが不思議そうに王妃様を見る。
「ほら、高等科からある魔術科なら従魔を連れて行っても良いってあったじゃない?」
なんと!?
そんな手があるのか!
中等部からが本当は良いけど、高等部からだけでもありがたい!
お嬢様と一緒に居たいってのも有るけど、やっぱり心配なのだ。
高等部から始まる、乙女ゲームの件が!
パパさん達は生きているし、お嬢様は健やかに、愛らしく成長している。
なので、問題はないと思うんだけど……。
できれば、側にいて何があっても対応できるようにしたいのだ!
わたしは期待しながら顔を上げると、ママさんが首を傾げる。
「従魔も種類が決められていた気がしますけど」
すると、王太后様が頷く。
「そうね、鳩や梟といった、それほど大きくないものと決まっていたはずね」
なるほど、小さければ良いのね。
そうなると、わたしなんて全然問題ないはず。
お嬢様の従魔……。
まさに、わたしに相応しいのではないだろうか!
わたしは王太后様の膝の上に立ち、〝この大きさなら大丈夫だよね〟という様に「がっ! がっ!」とアピールしてみる。
にもかかわらず、王太后様は困った顔をする。
「う~ん、そうね……。
竜は……難しいかもね」
「ががっ!?」
ショックを受けていると、ママさんが気楽な感じに言う。
「良いじゃない、キュートリック。
学院なんて行けなくても。
それより、屋敷でわたしの相手をして頂戴」
嫌だ!
ママさんもパパさんも脳筋だもん!
わたしは可愛らしいお嬢様のお相手がしたいの!
「がぁ! がぁ!」と言っていると、王妃様が変な事を言う。
「ねえ、学院と言えば、ほら、地下に鍛錬所があるじゃない」
それに対して、ママさんは不思議そうにする。
「鍛錬所……ですか?」
「え?
ジェニーは知らなかった?
野外鍛錬場の半分ぐらいのものだけど」
すると、王太后様が口を挟む。
「クリスタリ侯爵夫人が当時、知らなくても無理ないわよ。
あそこは、軍関係者か、王族、あとは大貴族やその関係者にしか知らされてないものだから」
「あ、そうでしたわね」
王太后様は、頷く王妃様からママさんに視線を移しながら説明する。
「学院の地下には大きく広がる空洞があり、そこに地下で軍関係者が陣形などの訓練をするための鍛錬所があるの。
特殊な陣形や戦法を鍛錬する場なので、公にはされていないけど」
「学院の下に、そんなものが」
とママさんが扇子で口を押さえながら目を見開いた。
王太后様は頷く。
「あと、他国の進行や天災など、必要に応じて待避場所としても使われるわ。
その時、王族だけでなく大貴族である侯爵家も、皆をそちらに誘導して頂く事になっているのだけど……。
その辺りは……。
クリスタリ侯爵に確認して貰える、かしら?」
最後の方、王太后様は困ったように眉を寄せている。
あ!
これ、パパさんがママさんに伝え忘れた奴だ。
それを察したのだろう、ママさんは面目なさげに頭を下げながら「そうさせて頂きます。申し訳ございません」と謝罪をした。
王妃様は少し、咳払いをしつつ言う。
「え~それでね、学院の下にある鍛錬場なんだけど、そこでなら、クリスタリ侯爵令嬢もキュートリックさんに乗る事が可能じゃないかしら?」
ん?
すると、ママさんは驚いた顔をした後、うんうん、頷く。
「なるほど、あの子もいずれ、キュートリックに乗って空を飛びたいとか話しているみたいですけど……。
どうしても、侯爵領にいる時とは違い、学院に通っている間は練習が出来ませんものね。
どうするのかしらと思っていましたが……。
学院で乗る練習が出来る、なるほど、そうさせて頂けるのであればきっと喜びますわ」
んん?
こちらを見る王妃様が口元に弧を描く。
「でも、いつもいつも練習する訳にはまいりませんものね。
なんといっても、学院に通うのだから。
で、あれば、その間、わたくしがキュートリックさんに乗せて貰う――あくまでも、キュートリックさんがクリスタリ侯爵令嬢を乗せる鍛錬に付き合うという形ですが、そんな時間を作っても良いと思うんだけど?」
すると、ママさんは済ました顔で言う。
「そういう事であれば、わたしも侯爵家の者として、王妃陛下に同行する必要はございますね。
そして、もしもの事があるといけませんので、乗り心地などを確認したりして……。
ふふふ……」
「おほほほ!」
などと、何やら扇子で口を覆いながら笑っている2人に、王太后様が呆れたようにため息を付く。
「2人とも、国王陛下には必ず許可を取るのですよ」
王太后様の釘さしに、王妃様は何やら自信満々の顔で「勿論ですわ」などと言った。
――
王太后様、王妃様たちとのお茶会から、1週間ほど経った学院がお休みの日、わたし達は王立学院の地下に来ていた。
「思ったより広いですわね、王妃様!」
乗馬服のママさんが声を上げると、同じく乗馬服姿の王妃様が「そうでしょう?」と楽しそうに答えた。
うん、確かに広い!




