お嬢様の初登校!
すると、「おねぇ~さま!」という男の子の声が聞こえてきた。
ぬっ!
この声は、わたしのライバルの声だ!
ちょこちょこ歩いてきたのは、赤毛の男の子、エイサ坊ちゃまだ。
3才になる。
ママさんから受け継いだ真っ赤な髪とパパさんから受け継いだ貴公子然とした整った顔で、現在、お嬢様のお屋敷で人気者になっている。
そんなエイサ坊ちゃまはお嬢様が大好きで、すぐに抱っこを強請りに来るのだ。
因みに、お嬢様の体は1つしか無い。
当然の事だ。
よって、今のようにエイサ坊ちゃまが「おねぇ~さま! 抱っこ!」と言うと、必然的に現在、お嬢様に抱っこされているわたしは……。
「もう、エイサ!
少しだけよ」
というお嬢様によって、アネットさんに渡されてしまうのだ!
何故!?
わたしの方が、小さくて可愛いのに!
お嬢様に抱き上げられているエイサ坊ちゃまを恨めしそうに眺めていると、アネットさんが呆れた顔で言ってくる。
「キュートリック、いつもさんざん、抱き上げて頂いてるでしょう!
少しぐらい、お坊ちゃまに譲って差し上げなさい!」
と大きいものをギューギュー押しつけてくる。
もう、止めて!
せめて、アランさんに代わって!
「がっ! がっ!」とアランさんに助けを求めるように、腕(前脚)を伸ばすと、アネットさんは不満そうに「ちょっと、だからなんで嫌がってるのよ!」とか言いながら、さらに抱きしめてくる。
だから、苦しいんだってば!
そんな事をやっていると、お嬢様が歩き始める。
流石にエイサ坊ちゃまを抱き上げながら移動するのは難しいのか、下ろして、手をつないで歩いている。
姉弟はとても仲良しさんで、お互いニコニコしながら話をしている。
仲が良くて、非常に良い!
それに合わせて、わたしを抱えたアネットさんも歩き出す。
あくまでも、自分で運びたいらしい。
もう、諦めた……。
あがけばあがくほど、苦しくなりそうだし。
食堂まで来ると、護衛騎士さんが扉を開けてくれ、中に入ると席につき、何やら話をしているパパさん、ママさんの姿が見えた。
エイサ坊ちゃまがママさんに「おかぁ~さま!」と駆け寄り、それに気づいたママさんが「エイサ、行儀が悪いわよ。ほら、席に着きなさい」と優しく窘めている。
お嬢様が「おはようございます」とお行儀良く挨拶をするとパパさんが笑顔で「カティ、とてもよく似合ってるぞ!」と当然の事を言う。
ママさんはお嬢様を見ると柔らかに微笑み「ますます、あなたのお母様に似てきたわね」と言った。
お嬢様はそれらに笑顔で「恐れ入ります」と答えている。
わたしがここに来て5年たち、お嬢様とママさんのギクシャクは幾分和らいだ気がする。
お嬢様が席に座ると、その隣付近のテーブルの上に置かれたクッションにわたしが置かれる。
まあ、いつも通りだ。
すると、エイサ坊ちゃまがわたしを見ながら言う。
「キュートリック、つくえの上、のったらいけないんだぞ!」
とか言い出す。
さては、エイサ坊ちゃま、机の上にのって怒られたな。
「えっと……」
とお嬢様がなんて言おうか言い淀んでる内に、ママさんが「ふふふ」と笑いながら言う。
「キュートリックはいいのよ。
竜だから」
「え?
りゅうはいいの?」
「そうよぉ~
エイサは残念だったわね、あなた、人間だもの」
「そ、そうなんだ……。
なんだかズルい」
とかエイサ坊ちゃまは不満そうにしながらも、それ以上は言わなかった。
ママさん、らしいと言えばそうなんだけど、理由が雑すぎる!
朝食が並べられ、皆はお祈りの言葉を言った後、食べ始める。
わたし?
郷に従おうと、皆に合わせて「がががっ!」って言っていたら、お嬢様に「キュー! 静かにしなさい!」と怒られちゃった。
なので、それ以来、大人しく待つ時間となった。
まあ、愛の女神様、だっけ?
この国の神様って?
その神様も、まあ、1人(1匹?)ぐらいお祈りをしなくても、わざわざ罰を与えたりしないでしょう。
そんな事を考えつつ、スクランブルエッグを食べていると、パパさんが顔を顰めながら、お嬢様に話し始める。
「カティ、学院でマーカスを見かけたら、たまには屋敷に顔を出すよう言っておいてくれ!
もう今年で卒業なんだから、色々と話す事もあるってな」
そんなパパさんに、ママさんがおかしそうに言う。
「あら、あなただって、高等科になってからは特に、家に帰らなかったじゃない。
お父上様なんて、何故かわたしに連れて帰って来いなんていうぐらいに」
パパさんは苦笑する。
「いや、気持ちは分かる。
学院にいる内だけだからな、自由に学友と色んな事が出来るのは。
だが、侯爵家嫡子として、数ヶ月、一度も顔を出さないのは問題だろう」
「まあ、そうかもしれないけど」
そんな2人に、お嬢様が言う。
「わたくし、中等部なので会う機会があるかは分かりませんが、見かけたら伝えておきます」
パパさんが「ん、頼んだ」と頷いた。
朝食を終えた後、お嬢様は学院に行く準備をする。
といっても、前世の学生とは違い、メイドさんが全てやってくれるので、特にやる事はない。
玄関に向かうと、パパさん、ママさん、エイサ坊ちゃまが見送りに出てきた。
お嬢様が困った顔をしながら「大げさです」と言うも、パパさんは笑いながら「初の登校だからな!」と言った。
わたしはまたしてもアネットさんに運ばれる。
お嬢様が良いのに、またしてもエイサ坊ちゃまに奪われてしまった。
うぐぐぐ!
因みに、中等部は騎士科以外はお屋敷から通う。
希望すれば寮にも入れるらしいけど、基本、貴族は王都にも屋敷があるので、大体は馬車での通学となるとの事だ。
マーカスお坊ちゃまは騎士科と領地運営科をダブルで選んでいたので、中等部から寮での生活だったらしい。
そして、乙女ゲーム〝女神様の気まぐれ〟が始まる高等部は全員、寮生活となるとの事だ。
まあ、乙女ゲーム的にはその方がやりやすいだろうしね。
そんな事を考えつつ、馬車に乗り込むお嬢様の後から、一緒に乗り込もうとして――「駄目よ!」とアネットさんにがっちり掴まれてしまった。
え?
何するの?
パパさんが呆れた感じに言う。
「いや、お前は留守番だ」
「がぁ!?(何故!?)」
驚愕していると、同じく呆れた顔のママさんが、アネットさんからわたしを受け取る。
「竜を連れて学院に行ける訳ないじゃない。
今日は王妃様からお茶会に誘われているの。
あなたも、一緒に行きましょうね」
そんな事を言いながら、抱きしめてくる。
いや、なんでわたしが、お嬢様と離れなくてはならないの!?
そんな気持ちを込めて、「がぁ!? がぁ!?」鳴いてると、馬車の中から、困ったように眉を八の字にしているお嬢様が、手を振ってきた。
「行ってくるわね、キュー!
良い子にしてるのよ」
そ、そんなぁ~!




