お嬢様、12才になる!
何だろう?
あれ?
ここは……?
夕焼けに染まった……教室?
あれ?
わたし……。
何をしてたんだろう?
「どうしたの?
ぼーっとして?」
「え?」
視線を向けると、メガネをかけたセーラー服の女の子が不思議そうにこちらを見ていた。
あ、ああ、なんだメガネちゃんか。
一瞬、誰か分からなかった。
あ、ああ……。
そうそう、わたし達、隣同士に座って、メガネちゃんのスマホを見てたんだ。
あれ?
なんで意識が飛んじゃったんだろう?
「ごめん、何の話をしてたんだっけ?」
右手で顔を擦りながら訊ねると、メガネちゃんは不満そうに唇を尖らせた。
そんな顔をしても、凄く可愛い。
メガネちゃんは画面を指さして言う。
「だから!
第一王子は言うの!
『お前は、お姉様以外で初めて、信のおける女だ!』ってね」
「えぇ~
なんか、その王子様、お姉様お姉様って、シスコンじゃない?」
「ちょ、違うの!
それには理由があって!」
などと言いながら、実は心の傷になって! とか、心残りが! とか色々話し始める。
ふふふ。
ほんと、メガネちゃん、しゃべり出すと止まらないなぁ。
あ、そうだ、思い出した。
メガネちゃんのお迎えが来るまで、わたし達、話をしてたんだ。
いつも通り――そう、いつも通りだ。
メガネちゃんの発言に「ハハハ! やっぱり、シスコンじゃん!」と笑っちゃった。
でも、誰にも咎められない。
奇異の目で見られる事も、無粋に割り込まれる事もない。
そう、教室には、わたしとメガネちゃんだけだもん。
そのことが凄く、嬉しい。
楽しいなぁ~
ほんと、楽しいなぁ~
机の上に肘を付き、話し続けるメガネちゃんを眺める。
時々、思い出した様に、澄ました顔で眼鏡のブリッジ部分を軽く持ち上げてくれる。
それに吹き出すと、メガネちゃんも破顔してくれる。
笑いすぎて、机に置いた肘が少しズレた。
何かに当たったので視線を向けると、よく分からないけどブランド物の化粧道具が置かれていた。
え?
何でこんな所に?
だけど、メガネちゃんは、それに目もくれない。
わたしだけを見て一生懸命、お話をしてくれる。
ふふふ。
それが、なんだか凄く嬉しい。
幸せだなぁ~
こんな時間が、ずっと続けばいいのになぁ~
メガネちゃんが向けてきたスマホの画面には、〝女神様の気まぐれ〟の1シーンが映し出されていた。
俺様王子が、主人公に壁ドンしながらキメ顔をしている。
うぁ~!
リアルにこれをやられたら、正直引くかも。
「ちょっと!
もう、聞いてる!?」
画面とわたしの間に、メガネちゃんの顔が割り込んできた。
「聞いてるってば!」
と答えつつ、何の話だったっけ? と一生懸命思い出す。
あ、そうそう!
「その王子様のお姉様が死んじゃう事で、王子様だけでなく、主人公の国に大きな影響があるって事だったよね」
すると、メガネちゃんはニッコリ微笑みながら「その通り!」と頷いた。
そして、体を戻しながら言う。
「このことで、主人公達の国、メーブリー王国、悪役令嬢、カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリの家、クリスタリ侯爵家、そして、お姉様の嫁ぎ先になるはずだったアールイス王国がギクシャクしちゃうの」
初めのうち、メガネちゃんの声を心地よく聞いていたんだけど、何故か不意に、胸の奥から焦燥感が湧いてきた。
そして、思わずいってしまう。
「え!?
困るんだけど!
ねえ、それ、防げないの?」
わたしが訊ねると、メガネちゃんはきょとんとした顔になる。
そして、苦笑しながら「それは無理よ! だってゲームが始まる前の話なんだから」と言った。
いやいや、だって、イザベル王女様が死んじゃうのもそうだし、王様やお嬢様が大変な事になるの、凄く嫌だし困る!
何とかしなくちゃ!
助けられるなら、助けたい!
……あれ?
〝お嬢様〟?
なんでわたし、悪役令嬢、カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリの事をお嬢様だと思ったんだろう……。
「……」
気づくと、夕焼けに染まるメガネちゃんが、穏やかな表情でこちらを見ている。
え?
どうしたの?
何というか……。
なんだか、いつものメガネちゃんっぽくない、よ?
混乱するわたしに、メガネちゃんは口を開いた。
『なら、やってみなさい』
――
「キュートリック、もう朝よ」
「がっ?」
目を覚ますと、目の前にメイドのアネットさんの顔があった。
んんん……?
あ、あれ?
んんん?
ここは――お嬢様の部屋だ。
あれ、なんか今……。
大切な夢を見ていた気が……。
ま、いいか?
それより、眠い。
もう少し……。
寝返りをしつつアネットさんから顔を逸らすも、抱き上げられてしまった。
「がぁ~」
例の巨大な胸部に埋められて、なんだか苦しい……。
すると、温かな声が聞こえてきた。
「キュー、おはよう。
よく眠れた?」
視線を向けると、わたしの愛らしいお嬢様が微笑んでいた。
ふむ、12才になられても、お嬢様は愛らし美しい!
まして、制服姿となれば最高だ!
そう、お嬢様は今日から学院に通われるのだ。
確か、王立学院、中等部とか言っていたはず。
中等部の制服は、紺色のワンピースに紺と白のストライプの入ったジャケットを羽織るスタイルだ。
赤のネクタイを着け、スカートの中には黒のタイツを履いている。
前世日本の制服に似てる気もする。
それをお堅く、そして、高級にした感じっていうか。
中世ヨーロッパっぽい世界で制服はちょっと変な感じもするけど、まあ、乙女ゲームの世界ならそんなものなのかな?
あ、でも、ヨーロッパだと結構古くから、学生制服を着てたってWeb小説に書いてあったっけ?
なら、合ってるのかな?
よく分からない。
お嬢様はアネットさんからわたしを受け取る。
出会った当初は、小さなお嬢様がわたしを持つ姿は、幾分、危なっかしく見えたかもしれない。
でも、今のお嬢様は前世で言えば中学生のお姉さん、小ドラゴンぐらい軽々と抱き上げている。
お嬢様はそのまま、部屋の外に出る。
わたしはお嬢様の肩越しから、アネットさんをチラリと見る。
以前とは違い、長い髪を後ろで結い上げている。
それはアネットさんが結婚した証なんだとか。
う~ん、なんだかちょっと慣れない。
その相手の護衛騎士のアランさんはいつも通りなのにね。
いや、いつも通りとはちょっと違うか?
2人、目と目が合うと少し微笑み合ったり、少し悪戯っぽい表情になったり、なんだか照れて顔を赤めたり……。
いや、仕えている相手の側でやる事じゃないと思う!
この、イチャイチャカップルめ!
因みに、この世界では結婚すると、女性はきっぱりと家庭に入る人が多いんだけど……。
アネットさんは「少なくとも、お嬢様が嫁がれるまではできる限りお仕えします!」と張り切っていた。
流石に、妊娠したら休むだろうけど、気合い十分で頼もしい!
アランさんも問題ないようで「頑張るアンも綺麗だ」とか何とか言っていた。
この、イチャイチャカップルめ!(2回目)




