竜博士さんがやって来た!2
「毛も体に合わせて大きくなっていますね。
……抜け毛とかはどうなんでしょう?
クリスタリ侯爵令嬢!
抜け毛とかは保管していらっしゃいますか?」
「抜け毛、ですか?」
お嬢様は困惑気味に、アネットさんに視線を向ける。
少し離れて控えていたメイドさんは苦笑しながら首を横に振った。
お嬢様は視線を竜博士アダンさんに戻し言う。
「抜け毛は取っておいてはいないようです。
あ、角とか牙なら――」
「有るんですか!?」
「は、はい」
食い気味に訊ねる竜博士アダンさんに、体をビクッとさせながらお嬢様は頷く。
「み、見せて頂いても……」と竜博士アダンさんは懇願するようにお願いしてくるので、顔を引きつらせたお嬢様は、再度、アネットさんに視線を向け「持ってきて」とお願いした。
わたしは通常サイズに戻り、一旦、応接室に帰ってきた。
椅子に座るお嬢様の膝の上に頭を乗せる。
お嬢様はそんなわたしの頭を、優しく撫でてくれる。
うん、やはりこのスタイルが良い!
竜博士アダンさんはアネットさんが持ってきた、わたしの抜けた角や牙、爪などを興味深く見ている。
時々抜けたそれらを、お嬢様は全て大切に保管させていた。
執事のオントワンさんが、竜に括弧ハテナマークが付くとは言え、ひょっとしたら貴重なものかもしれないと勧めたからだ。
しかも、いつ頃の物か分かるようにきちんとまとめている。
お嬢様はなかなか、几帳面だ。
竜博士アダンさんは、一番最初に抜けた角を持ち上げ、興味深げに眺める。
「抜けた角は、当然というか、大きさを変える事は無いようですね。
……キュートリック殿が大きくなった時に、抜けたものはありませんか?」
「いえ、ありません。
普段はずっと、これぐらいの大きさですから」
お嬢様はわたしを撫でながら答える。
竜博士アダンさんは期待したような目で、お嬢様とわたしを交互に見る。
「出来ればなんですが……。
次回、何かが抜けそうになった時、体を大きくして抜いて頂けませんでしょうか?
大きいままで残るか、知りたいのです」
すると、パパさんが咳払いをしつつ、訊ねる。
「あ~男爵……。
それはまあ良いのだが……。
例えば、だ。
キュートリックの巨大な角は、小さいものと比べて、価値は上がったりするか?」
「お父様!?」
お嬢様が目をつり上げると、パパさんは慌てた感じに「念のためだ!」とか言っている。
さては、パパさん、密かにわたしの抜け角とかを狙っていたな!?
竜博士アダンさんは少し困った顔になる。
「そうですね……。
使い方にもよります。
装飾として使う場合もどのようなものにするかで変わってきますし、何かの素材として使う場合も、大きい、小さいで濃度が変わったりする可能性があります。
その辺りは、何はともあれ、調べてみないとなんとも言えません」
そして、竜博士アダンさんは、一度、皆を見渡し言う。
「竜の素材は非常に稀少です。
そして、稀少が故に大きさにかかわらず非常に高価ではあります。
扱いにはご注意下さい。
出来れば、お嬢様の自室ではなく、きちんとした場所に保管する事をお薦めします。
盗難の事もありますが、下手をすると、お嬢様も危険です」
パパさんは真剣な表情で頷く。
そして、お嬢様に向かって「今後はわたしが預かる」と言った。
お嬢様は、不満そうにしながらも「はい……」と頷いた。
すると、今度は竜博士アダンさんが言いずらそうにする。
「あ~
あと、これは国王陛下にもご了承頂いている事なのですが……。
キュートリック殿の抜けた毛や角、爪といった物を……。
お譲り頂けませんでしょうか?
も、勿論、対価はお払いします!」
お嬢様が顔を顰めたので、竜博士さんは慌てて、言葉を付け足す。
パパさんは宥めるような表情でお嬢様を見る。
「まあ、陛下のご意向もある。
少しだけ、売ってやれ」
「……」
お嬢様はパパさんを不満そうに見上げた後、気づかしげに眉を寄せ、わたしに視線を向けた。
わたしとしては別段問題ない。
勿論、お嬢様のためになればの話だが……。
わたしはパパさんを見ると、〝お金はお嬢様に!〟という気持ちを込めて身振り手振りをしつつ「がっ! がっ!」と鳴いた。
なんとなく気持ちが通じたのか、パパさんは苦笑しながら「勿論、得た利益は全てカティのものだ」と頷いた。
まあ、なら良いか。
ニコニコ見上げ、頷いてみせれば、何故かお嬢様は少し困った顔をした。
何で?
――
夕食が終わり、お嬢様の自室に戻る。
わたしはいつものベッド的な籠の中に潜り込むと、ゴロゴロする。
竜博士さんが、何かとジロジロ見てきたので、なんだか疲れてしまった。
今日はゆっくりのんびり休もう!
ま、いつも大体そうなんだけどね。
わたしが籠の中でモゾモゾ動きつつ、楽な位置を探していると、お嬢様が近づいてきた。
そして、わたしの背中を撫でながら言う。
「キュー……。
キューがわたくしの為に色々やってくれるのは嬉しいわ。
だけど、あんまりやり過ぎないでね。
さっきの男爵もそうだし、キューが助けたという商人もそうだし、いっぱいお礼を下さるけど、わたくし、そんなに頂いても困ってしまうわ」
え!?
わたしのお嬢様、慎ましすぎるんだけど!?
ベッドメーキングをしている、メイドのアネットさんなんかは「頂けるものは貰っておけば良いのですよ」とか言ってるのに、お嬢様は少し、頬を膨らませながら「アンは他人事だからそんな事が言えるのよ!」と文句を言っている。
そして、わたしをのぞき込みながら、お願いする。
「キュー、人助けは良いけど、お礼はわたくしではなく、お父様に、ね」
お嬢様がそう言うなら、わたしとしても否やはない。
〝分かりました、お嬢様!〟という気持ちを込めて「ガッ!」と鳴くと、お嬢様はニッコリ微笑みながら「よろしくね」と言っている。
そして、メイドさん達に呼ばれて、そちらに向かう。
ふむ、確かに、幼いお嬢様に、お金など俗物的なもので患わせるのは宜しくない。
お美しいお嬢様には、健やかに成長して貰いたいのだ!
とはいえ、お嬢様のドラゴンとしては、頑張った分を代わりに脳筋系パパさんに渡すのも正直、したくない。
まあ、日々の生活費を出して貰っていると言えば、そうなんだけど……。
それは、鷹狩りやら騎竜やらの分でチャラだ!
これ以上渡せば、あの時々お馬鹿さんなパパさんの事だ、調子に乗る事だろう。
うむ、やはり貯金作戦が一番良いと思う。
パパさんにお嬢様の貯金と釘を刺しつつ、預かって貰う。
そして、お嬢様がもし、お金がなくて困った時に、それを華麗に持っていき、渡すのだ!
「キュー困ったわ!」からの「流石はキュー! ありがとう!」である。
ふっふっふ、その時が楽しみだ!
そんな風に思ってると、「キュートリック、何やら妄想しているようだけど……」と頬をツンツンとされた。
視線を上げると、アネットさんが呆れた顔をしている。
「侯爵令嬢のお嬢様がお金に困る事なんて、無いから」
え!?




