ドラゴンの初めてのお使い?1
侯爵邸に着いてから三日後、玄関前で、パパさんとママさんが見送りに出てくれる。
ママさんが心配そうに「雨とか風が強い場合は、無理せず、休むのよ」と言ってくれる。
パパさんは「出発は、もう少し後でも良いと思うぞ」とか言っている。
このパパさん、久しぶりに狩りがしたいとか言い出したのよ。
もう、わたしは一分一秒でも早く、お嬢様に会いたいの!
付き合ってられません!
因みにわたしは、侯爵家の紋章が入ったスカーフを首に巻き、背には革製のリュックを背負っている。
リュックには、お嬢様、マーカスお坊ちゃまへの私的な手紙や、王様への公的な手紙が入っているとの事だ。
多少、雨に打たれても大丈夫のように、防水はちゃんとしてあると、パパさんは何やらどや顔で言っていた。
まあ、わたし自身がお嬢様の元に迎えれば、その辺りはどうでも良いんだけどね。
わたしはパパさん達に手を振った後、地面を駆け、翼を広げて、空へと上昇する。
あっという間に、パパさん達が小さくなった。
翼をはためかせると、ぐんぐん加速していく。
流石は高性能なドラゴンウィング!
この分じゃ、3日もかからないんじゃないかな?
2日!
2日で到着しよう!
そんな決意をしつつ、力一杯羽ばたく。
おお!
よく考えたら、全力で飛ぶの赤いミノタウロスの件以来かな?
周りの景色が、凄い勢いで後ろに流れていく。
もしかして、体を大きくしたら更に早くなるかもしれない。
まあ、王様に止められているからやらないけどね。
そんな事を考えつつ飛んでいると、ん? 下に広がる森の中で気になる声が聞こえた気がした。
なんだろう?
通り過ぎたので、少し戻ると、木々の中に入ってみる。
ん~?
木々の間に少し窪んだ場所があり、その中からなんか、「いいから行け!」とか「無理! 絶対に無理!」とか若い男女の声が聞こえてくる。
何やってるんだろう?
窪地の中に入ると、わたしに気づいたのかその子達は「ひぃ!」と抱き合った。
前世、中学生ぐらいかな?
その男女2人は、数日前に農村を通りかかった時の、村人の人達が着ているような服を身につけている。
こんな所で、何やってるんだろう?
すると、女の子の方が目を見開き、ポロポロ涙を流しながら、破顔する。
「あ!
領主様の竜様だ!」
腰を落としたままの男の子も「あ! 本当だ!」とか声を上げた。
女の子がひれ伏さんばかりにしながら、「わたし達を助けてくださぁ~い!」とか叫ぶと、男の子が慌てて「馬鹿! そんな大声を出すと、魔獣が近寄ってくるだろう!」とか声を落として言っている。
いや、君も十二分に大声を出していたけどね。
側に着地しつつよく見ると、男の子のズボンの右足部分が裂けている。
この子達がいる場所は窪んだ場所なので、ここに落ちて怪我をしたのかもしれない。
すると、少し見上げている女の子が、またしても「ひぃ~!」と声を上げた。
視線を追うと、くぼみの端から数匹の狼顔がのぞき込んできた。
狼顔というか、狼だろう。
真っ黒の毛並みをして、一匹一匹が前世の世界の大型犬より二回りは大きそうに見えた。
目も鋭く、わたしも思わずビクっと震えてしまった。
これはヤバい!
わたしだけなら飛べばすむかもだけど、この子達を守るのは無理だ!
だけど、固まるわたしを見た、その黒毛の狼が、何故か「ギャウン!?」と悲鳴を上げた。
そして、顔を引っ込めると、逃げるような足音を響かせながら離れていくようだった。
ポカンとするわたしを、女の子と男の子が「領主様の竜様、凄い!」とか「すげー! あいつら、無茶苦茶怯えてたな!」とか褒めてくれた。
いや、わたし、何もやってないけど?
男の子の足を木で固定するように身振り手振りで指示したり、服の背中部分を掴み、それぞれ、何とかくぼみから脱出させ、彼らを守りながら、村まで連れて行って上げた。
その間、狼を含む魔獣や魔物が襲ってくる事はなかった。
そういえば、わたし、転生(?)したばかりの時も、それらに襲われた事がなかった。
明確に攻撃をしてきたのは例のミノタウロスと……大きなウサギだけだった。
あのウサギは一体……。
ただ、転生(?)したばかりの頃はともかく、今のわたしは巨大化したらあんな狼なんて一発で倒せそうだから、恐れるのも分からない事もない。
ふっふっふ!
偉大なる竜様は恐ろしいのだよ!
村の中では、村人の皆さんから感謝され「感謝の宴を!」とかも言ってくれたけど、お断りをして、再度、出発する。
村の男性陣が残念そうにしてたのは、多分、宴にかこつけて、お酒を飲もうとしていたに違いない。
わたしはそんな事をやってる暇なんて無いの!
結局なんやかんやいって、通るように言われていた最初の町、ポーンに着いたのは、夕方ぐらいになった頃だった。
ここの町には、ついこの前、来たばかりなので気負う必要はない。
代官さんとも対面してるしね。
そんな事を考えつつ、町の門の前でホバリングをしつつ、門番さんに挨拶をする。
話が通っていたからか、わたしのスカーフは確認したけど、皆、にこやかに通してくれた。
更に代官さんのお屋敷まで飛んでいくと、連絡が行っていたのか、お屋敷の前で当人が直々に出迎えてくれた。
……鷹狩り用のグローブを付けて。
何で皆、そこにわたしを止めたがるのか、意味不明なんだけど……。
止まり木を用意すれば良いのに。
でもまあ、今晩お世話になるので、グローブに止まって上げる。
わわわ!
無茶苦茶揺れて、落っこちそうになったのを、側にいた執事さんが支えてくれた。
ちょっと~!
代官さんは「申し訳ない! 思ったより、難しいのですな! ハハハ!」とか嬉しそうに言ってるし!
おい!
絶対、鷹狩り自体やった事ないでしょう!
貴賓(わたし)で試そうとするな!
失礼でしょう!
朝になり、わたしにあてがわれた部屋のベッドで目を覚ます。
普通の、人間用の部屋を用意してくれた。
ま、わたし、偉大なる竜(?)イコール超貴賓だしね!
これぐらいは当然かな?
などと思っていると、わたしに付けられたメイドさんがにこやかに入ってくる。
そして、布団の中に入っているわたしを持ち上げ「可愛い竜さぁ~ん、そろそろ、起きる時間ですよぉ~!」とか言いつつ抱きしめてくる。
更に、何人ものメイドさんが入ってくると、可愛い! 可愛い! と撫でてくる。
……。
ま、まあ、わたしのドラゴンボディ、罪なほど可愛いしね!
多少はね!
朝ご飯を頂き、ポーンの代官さん達の熱い引き留めも華麗にスルーして、出発する。
わたしは、お嬢様の元へ急がなくてはならないのだ!
……。
…。
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