新しい飛行コース?3
すーっと近づくと、王女様達は部屋の奥に下がり、代わりに女の護衛騎士さんが顔を出した。
左手に例のグローブをはめている。
あそこに止まれば良いのかな?
静かに近づき、それに止まる。
女の人だから揺れるかな? と思ったけど、思ったよりしっかり受け止めてくれた。
大変失礼しました。
イザベル王女様がニコニコしながら近づいてくると「少し良いかしら」と両手を近づけてきた。
イザベル王女様は問題ないハグ使いなので、両手(両前脚)を前に出して、それを迎える。
イザベル王女様は「ふふふ」と口元を緩めながら抱き上げ、優しく抱きしめてくれた。
ヘンリー第二王子君が焦れったそうに「お姉様、僕も!」と言っているので、「はいはい」とわたしを渡す。
ヘンリー第二王子はまだまだだけど、今後に期待なハグ使いだ。
そんな事をやっていると、部屋の扉がノックされた。
そして、「お姉様、入りますよ!」という男の子の声が、向こうから聞こえてくる。
「どうぞ」とイザベル王女様が返事をすると、扉が勢いよく開かれた。
ジョセフ第一王子がその護衛騎士さん達を引き連れ、入ってきた。
性格悪い系王子は、わたしに視線を向けると「なんでこいつが、お姉様の部屋に入り込んでいるんだ」とか睨んできた。
何故、良い人揃いの王族の中で、こいつだけこんなに性格が悪いんだ?
イザベル王女様が窘めるように言う。
「ジョセフ、キュートリック様はわたくしが招いたのよ。
それで、なにかあったのかしら?」
すると、ジョセフ第一王子は苦笑しながら、ヘンリー第二王子君を見る。
「ヘンリーが騎士の鍛錬をサボっているから、連行しに来たんですよ」
「あら?」
とイザベル王女様が視線を向けると、ヘンリー第二王子が困ったように頭を掻きながら「いや、サボったというか、忘れてただけだよ」とか言っている。
そして、ヘンリー第二王子は不満そうに口を尖らせながら、「大体、お兄様が勝手に鍛錬するとか言い出しただけじゃないか!」と不満そうにした。
あ~俺様王子の暴走に、ヘンリー君は巻き込まれただけね。
お気の毒に~
それに対して、ジョセフ第一王子は「うるさい! 行くぞ!」と言っている。
ヘンリー第二王子は苦い顔をしながら、イザベル王女様にわたしを渡す。
受け取ったイザベル王女様は嬉しそうに抱きしめてくれた。
柔らかで温かく、甘い香りもして、素晴らしいハグだ~
わたしが感動していると、それをじっと見つめていたジョセフ第一王子がとんでもない事を言い出した。
「お姉様、そいつが欲しいのであれば、わたしからクリスタリ侯爵家にいってやりましょうか?」
いやいや、何を言ってるの!?
わたしはお嬢様の竜なんだけど!?
それに対して、イザベル王女様は悲しげに眉を寄せる。
「駄目よ、ジョセフ!
そのような酷い事をしてわ。
相手が侯爵家でなく、仮に平民相手でもしてはいけない事だわ」
ジョセフ第一王子は慌てた感じに「いやいや、お姉様、冗談ですよ」とか言っている。
いや、お前、絶対本気だったろう。
イザベル王女様は優しく微笑みながら「ふふふ、そうよね。ジョセフがそのような事する訳ないわよね」と言い、ジョセフ第一王子は「勿論です!」とか調子の良い事を言っている。
そして、ヘンリー第二王子の方を向くと「ヘンリー、行くぞ! お前も剣の腕を上げて、わたしの片腕として、この国を守るんだ!」とか言いながら、彼の腕を掴み、部屋から廊下に引っ張っていく。
「えぇ~
お手柔らかにねぇ~」
と言う、ヘンリー第二王子の声を最後に、部屋の扉が閉められた。
「……」
イザベル王女様がそれを――何故か、悲しげに見送っている。
「キュートリック様」
イザベル王女様が呟くように言う。
「いつか、わたくしを乗せて空を飛んで欲しいわ」
なんだか、とても寂しそうな表情をしていたので、〝いいよ!〟っていうように「がっ!」と鳴いて上げた。
それを聞いたイザベル王女様は、嬉しそうにぎゅっと抱きしめてくれた。
すると、コンコンという音と共に「イザベル入りますよ」という王妃様の声が聞こえてきた。
「どうぞ」とイザベル王女様が笑顔で答えると、開かれた扉からニコニコ顔の王妃様が入ってきた。
「ここにいたのね、キュートリックさん。
次はわたくしとお茶を飲みましょう!」
わぁ~!
結局、王族さん全員とご対面したことになる。
無論、嫌ではないので「がっ!」と元気よく答えておいた。
パパさんが王都に帰ってきたのは、一ヶ月半をちょっと過ぎた辺りだった。
それから、一ヶ月ぐらい過ぎた頃の朝食時、パパさんはこんなことを言い出した。
「そろそろ、ジェニーのつわりも治まってきた事だし、侯爵領に戻ろうと思う」
え!?
そりゃ、前世で言えば安定期ではあると思うけど、妊娠中のママさんを揺れる馬車に乗せて、侯爵領までわざわざ連れて行くの!?
お嬢様も、お屋敷に来ていたマーカスお坊ちゃまも驚いている。
ただ、ママさんだけは落ち着いていて、ゆで卵をスプーンで掬っている。
ひょっとしたらあらかじめ、聞かされていたのかもしれない。
マーカスお坊ちゃまが心配そうにママさんに視線を向けながら言う。
「父上、身重の義母上を危険を冒してまで、侯爵領まで連れて行く必要はないと思うのですが。
王都では駄目なのですか?」
それに対して、パパさんは苦笑する。
「マーカス、良く覚えておけ。
貴族の出産は極力、自領で行うものだ。
まして、大貴族となれば、多少無理をしてでもそうしなければならない」
スプーンを置き、ニッコリ微笑んだママさんが、続ける。
「今は平和な時代だけど、それでも守らなくてはならない慣習なのよ。
貴き血を継ぐ者が、もっとも狙われやすい乳児の頃――そんな娘や息子は自領で万全な状態で守り抜く。
マーカスさんも、カティも、そうやって産まれてきたの。
あなた達がいずれ子をなす時も、そうしなくてはならないわよ」
分からないでもないけど……。
でも、流産の危険を冒すべきなのかなぁ?
いや、以前は流産もそうする事の方がより安全だった時代があったのかもしれない。
なんとも、殺伐とした話だ。




