新しい飛行コース?2
指示に従い曲がると、城壁の中に小さな庭園があり、庇のある場所に、止まり木っぽいの木製の棒に吊された小さな鐘、そして、執事さんっぽい人とメイドさんっぽい女の子が立っていた。
執事さんが身振りで止まり木を指定してきたので、わたしはそこに止まった。
うむ、綺麗に着地できた。
すると、執事っぽいおじさんは丁寧に頭を下げた後、説明する。
「キュートリック様、こちらは先王陛下の離宮となっております。
こちらにお見えになった場合は、この止まり木にいらっしゃり、この鐘を鳴らして頂けませんか?」
なるほど、呼び鈴みたいなものね。
「がっ!」と了承すると、鐘に近づく。
その鐘は中から紐が垂れ下がっていて、それを手(前脚)で掴むと、揺すってみた。
思ったより、高い音が鳴って、ちょっとびっくりした。
メイドさんが目を丸くして「聞いてた通り、賢い竜君ですね」と言い、執事のおじさんが「卿に失礼ですよ!」と注意した。
そして、「大変失礼しました」と頭を下げてきた。
メイドの女の子も慌てて頭を下げる。
いや、わたしは偉大なる竜(?)だけど、そう構えられても困っちゃうから!
〝気にしないで!〟という気持ちを込めて「がっがっ!」と鳴くと、気持ちが通じたのか、執事のおじさんは穏やかに微笑みながら「恐れ入ります」と言ってくれた。
わたしは、メイドさんが持ったクッションの上に乗せられ、離宮(?)の中を移動する。
何でも、王城の中で歩き回ったり、飛び回ったりされると困るので、必ず誰かに運ばれるようにお願いされた。
まあ、そりゃそうだよね、って事で頷いておいた。
しばらく進んだ後、護衛騎士さんが二人で守っている扉の前まで来た。
騎士さん達はわたしを見ると、敬礼をしてくれる!?
え!?
これ、わたしも返さないといけないのかな!?
クッションの上で立ち上がろうとして、尻尾が引っかかり転がってしまった。
執事のおじさんがにこやかに「失礼します」と立たせてくれる。
ふ、ふむ!
気を取り直して、騎士さん達みたいにビシッと敬礼を返した。
騎士さん達……。
笑いを堪えているのか、口元がピクピクしている。
あ、え?
なんか間違えたのかな?
こんな時に、お嬢様がいればぁ~!
助けて、お嬢様ぁぁぁ!
そんな風に悶えていると、騎士さん達が部屋の中に「キュートリック卿がお見えになられました!」と声をかける。
すると、先王様の声で「入って貰え!」と声が掛かった。
騎士さん達が扉を開けてくれると、中にはお茶会の用意がされていて、先王様と王太后様が席に座っていた。
ニコニコした王太后様が立ち上がり、近寄ってくる。
「キュートリックさん、こちらに」と両手でわたしを抱き上げると、優しく抱きしめてくれた。
温かくて、幸せぇ~
「侯爵邸からここまで、大変だったでしょう?
お疲れ様ね」
と言いつつ、王太后様はテーブルまで運んでくれると、その上に置かれていたクッションの上に、わたしを乗せた。
先王様も「キュートリックは凄いな!」と褒めてくれる。
ふふふ、わたしは凄いんだよ!
わたしが〝余裕だった!〟という様に「がぁ! がぁ!」鳴くと、王太后様が「大したことなかったって言ってるみたいですね」と上品に笑い「やるな!」と先王様が頭を撫でてくれた。
ふふふ、嬉しい!
先王様と王太后様の所で、お茶とお菓子を頂いた後、再度出発する為に、外に置かれた止まり木までメイドさんに連れてきて貰う。
外まで見送りに出てくれた先王様と王太后様が「またな」とか「また来てね」と言ってくれたので、「がっ!」と言って頷いておいた。
先王様の離宮から飛び立つと、城壁まで戻る。
そして、再度、沿うように進む。
見回りっぽい騎士さんが手を振ってくれたので、返しておく。
ん?
土がむき出しの広場が見える。
そこには、騎士さん達が並んで、木の剣? で打ち合っている。
ここは鍛錬場かな?
良く見ると、中心近くに見知った騎士さんが木製の槍を構えていた。
護衛騎士のジョシュさんだ。
ジョシュさんが槍を振り回し、若そうな騎士さん達が3人ほどなぎ払われた。
うわぁ~
痛そう!
しかし、ジョシュさん、顔がおっかないだけじゃなく、実際に強いんだ。
そんな、ジョシュさんを、鍛錬所の端にいるお嬢様と同じ年頃の男の子が尊敬したまなざしで見つめている。
ジョシュさんと同じ赤髪だから、ひょっとすると息子さんかな?
でも、女の子みたいとまでは行かないまでも、綺麗な顔をしているから違うかな?
いや、その言い草は流石に失礼か。
そんな事を考えていると、少し離れた建物の、その窓から手が振られているのに気づく。
あ、王様だ!
笑顔で手を振ってくれている。
手(前脚)を振りつつ、挨拶をしに言った方が良いかな? と思う。
でも、むやみに近づいたら怒られるかな?
いや、少し側まで行って、様子を見ようかな?
進路を少し変え、王様の方に近づく。
すると、王様は中に声をかけた。
あ、鷹狩り用グローブを付けた騎士さんが出てきた。
あそこなら大丈夫って事かな?
すーっと近づくと、騎士さんのグローブの上に乗る。
そして、王様に向かって「がっ!」と挨拶をした。
破顔した王様が「やあ、良く来たね!」と持ち上げ、抱きしめてくれる。
王様も、なかなかのハグ使いだぁ~
すると、奥にいた生真面目そうなメガネをかけたおじさんが眉を寄せながら言う。
「陛下、まだまだ、目を通して頂きたい書類は残っていますよ」
あれ?
このおじさん、見た事ある気が……。
あ、勲章を貰った時のメガネおじさんだ!
そんな事を思い出していると、王様は苦笑しながら言う。
「宰相、せわしないなぁ。
竜君に少し挨拶するだけじゃないか」
「実際に忙しいのです!」
宰相さんは続けて何か言おうとして、わたしを一瞥すると口を紡ぐ。
機密に関わる事なのかな?
じゃあ、わたしは出た方が良いかな?
「がっ!」と言いつつ、王様の腕から抜け出る。
床に着地をすると、窓の方に軽く駆ける。
そして、外に飛び出た。
後ろから「あぁ~!」という王様の声が聞こえてきたけど、まあ、お仕事中に邪魔をしたら申し訳ないからね。
そのまま飛んでいく。
ん?
別の窓から、わたしに手を振ってくれているのが見えた。
あれは、イザベル王女様かな?
笑顔でこちらを見ている。
隣にはヘンリー第二王子君がいて、こちらもニコニコしながら手を振っている。
こちらも、挨拶をしないといけないな。




