新しい飛行コース?1
因みに、ママさんは来ていない。
つわりが酷いでしょうからと、手紙で絶対来ないように、むしろ厳命されていたらしい。
それを読んだママさんは苦笑しながら「まあ、本当に問題視しているのなら、お構いなしに呼んだはずだから、大丈夫でしょう」と言ってた。
王妃様の右隣にいる王太后様が柔らかく笑う。
「ふふふ、キュートリックさんはよほど、クリスタリ令嬢の事が好きなのね」
王妃様の左隣にいるイザベル王女様も「本当に」と微笑んでいる。
お嬢様は恥ずかしそうにしながら、わたしの背を撫でてくれた。
因みに、王様や先王様はいない。
多分、お嬢様が必要以上に怯えないためだろう。
ほんと、気が利く王族さん達だ。
王妃様は微笑ましそうにお嬢様とわたしを見ながら言う。
「別に、問題がある訳では無いのよ?
侯爵邸の上空を、しかも、騎士爵を持ったキュートリック殿が、〝散歩〟をしていた――それだけの事ですもの。
ただ、定期的に空をクルクル回っているので、不思議に思っただけなの」
「いえ、空を飛べば目立つのは当たり前です。
せめてお話を通しておくべきだったと、反省しております」
頭を下げるお嬢様に、王妃様は「ふふふ」と笑った。
そして、後ろにいる執事っぽいお爺さんに視線を向ける。
お爺さん執事さんは丁寧に頭を下げると、後ろにいた若い使用人さんから少し古びた紙を受け取ると、それを王妃様の元に持っていく。
王妃様は立ち上がるとそれを受け取る。
そして、皆に見えるようテーブルに広げた。
「先ほども言ったけど、理由を教えて貰った事だし、そのこと自体は問題ないわ。
ただ、侯爵邸の上を回っているだけでは面白くないでしょう?
かといって、むやみに侯爵邸より外に出てしまうのはいささか問題ですし、キュートリック殿も危ないわ。
例えばそう、この道順で飛ぶのはどうかしら?」
覗くと、その紙は地図のようで、王都の様子が書き込まれている。
もっとも、簡易の物のようで、王城の内部までは書かれていない。
その辺りは、防衛上の機密だから、当たり前か。
ふむ、王妃様の指を辿る感じからすると、侯爵邸から王城に向かい、その城壁を沿うようにぐるりと回り、戻るみたいな感じだ。
いや、でもこれだと王城の側近くを通る事になるけど、良いのかな?
そんな事を考えていると、王妃様が悪戯っぽくこちらを見た。
「王城を飛ぶ時に、何か怪しい物を見たら教えて欲しいわ。
勿論、お仕事とかではないから、なんとなくで構わないから」
え?
ついでに見張りもさせようって事かな?
あ、確かにわたしが見張りっぽい事をやっていれば、他国の間諜もそれを警戒するか。
多分、実質的に見張るより、牽制の意味が強いのだろうなぁ。
了承の意味を込めて「がっ!」と鳴くと、王妃様はおかしそうに「ふふふ、気負う必要は無いから」と身を乗り出し、わたしの頭を撫でてくれた。
すると、王太后様が地図にある王城の、その端の方に人差し指を置いた。
「キュートリックさん、わたくし達はここにいるから、気が向いたら飛んできて頂戴。
時間が合えば、お茶をしましょう」
王太后様とお茶かぁ~
それに、多分、先王様だっているんだろう。
それは楽しそうだ!
わたしが「がっ!」と返すと、王太后様は「ふふふ、楽しみにしてるわ」と笑った。
王城に行った翌日、取りあえず、そのコースを飛んでみようという事になった。
因みに、戻ってきてからママさんに報告すると、右手で顔を覆いながら「付いて行くんだったわ……」とか言っていた。
そんなママさんを、お嬢様はおろおろと見ていたので、〝わたしがOKを出してきた!〟という思いを込めて「がっ!」と両手(前脚)を上げてアピールしたら、頭を叩かれた。
その後、ママさんは「まあ、どちらにしてもお断りは出来なかったでしょうね」とか言っていたので、ひょっとしたら、わたしの殴られ損かもしれない。
朝ご飯を食べた後、出発するために外に出る。
護衛騎士のアランさんが鷹狩り用のグローブを向けてきたけど、お断りをした。
最終目標はお嬢様を乗せての飛行だ。
地面から飛ばなくてはならない。
すると、何やらアランさんは寂しそうに見てきた。
何故?
念のため、アネットさんに侯爵家の紋章が入ったスカーフを首に付けて貰う。
そして、お屋敷の玄関から屋敷の門までの道に立つ。
見送りに来てくれたお嬢様やママさんに振り返り、前脚を振る。
お嬢様が手を振り返しつつ、心配そうに「気をつけてね」と言ってくれるのが嬉しい。
ただ、アネットさんが「調子に乗って、変な所に入り込まないのよ!」とか言ってくるのは解せない。
向き直ると、お屋敷の門に向かってゆっくりと、そして、加速しながら駆ける。
翼を広げると、静かに飛び上がった。
普通に飛ぶだけなら、助走を付ける必要は無いけど、極力振動を抑えるのであれば、前世、飛行機が飛ぶようにするのが良い事に気づき、最近ではこの飛び方にしている。
ふむ、もう少しスムーズに飛ばなくては!
侯爵家の門を越え、何件かのお屋敷を越えて王城に向かう。
と言っても、お屋敷からはそれほど遠くないので、すぐに着いた。
それより、王城の周りを飛ぶ方が断然、長い。
しかし、こうやって見るとお城はやっぱり大きいなぁ。
巨大な円塔だっけ? 円柱状の塔が八本立っていて、その間に分厚い城壁がある。
少し、上昇しつつ見下ろしてみる。
内部を見ると、中央に庭園が有り、それを囲むように白色の建物が並んでいる。
あ、円塔や城壁に兵士さんがいて、こちらに向かって旗を振っている。
わたしが近づくと、隊長っぽい人が、指で進行方向を示してくれる。
時計回りに飛べばいいんだね。
3メートルほどまで近づくと、「がっ!」と吠えつつ、手(前脚)を振る。
相好を崩した兵士さん達が手を振り返してくれた。
城壁を沿うように飛んでいくと、時々、旗を持った兵士さんがいて、進む方を示してくれる。
まあ、壁の端を単に飛ぶだけなので、そこまで気を遣ってくれる必要は無いんだけど……。
一応、挨拶がてら、その人達にも手(前脚)を振っておいた。
皆、楽しそうに振り返してくれるので、ちょっと、嬉しい。
そんな風に円塔を避け、城壁を沿って進んでいると、城壁の上で何故か王城内に向けて旗を振っている人を見つけた。
ん?
あ、ひょっとしたら、王太后様の元に誘導してくれているのかな?




