お嬢様の竜として決意する!
侯爵領にいても、王都にいても、わたしのやる事は変わらない。
まずは第一に、お嬢様をお守りする。
無論、普段は騎士さん達がしっかり守っているから、さほど、気合いを入れる必要はない。
ただ、いざという時、お嬢様の前に颯爽と現れ、敵を追い払うのはわたしだ。
なので、常にお嬢様の近くで待機する必要がある。
そして、第二にだ。
普段から、何かと気苦労をされているお嬢様の癒やしとして、撫でられるという役目がある。
これも、非常に、非常に重要な役割である。
ただ、お嬢様がいつ、癒やしを必要とするか、こればかりはご本人ですら分からない。
よって、こちらも、常にお嬢様の近くにいなくてはならない。
故にと言うべきか、わたしがお嬢様の膝の上で撫でられている事、これ、すなわち、立派な仕事である訳だ!
「キュートリック、あなた……。
これ以上、ゴロゴロしてると太るわよ」
「ががっ!?」
ジトッとした目のアネットさんの一言が、わたしの胸を突き刺した!
はぁ?
太る?
誇り高き竜(?)のわたしが?
……。
そっと、手(前脚)を腹部に当ててみる。
もふもふな毛に埋もれて……。
太って……無いよね?
アネットさんはわたしから、お嬢様に視線を移す。
「お嬢様、キュートリックはここ最近、ゴロゴロしてばかりいます。
少しは動かさないと、太るのもそうですが、健康にも良くありません!」
ちょっとちょっと!
ゴロゴロばかりはしていない――はず。
確かに、パパさんがいないから鷹狩り練習やら、竜騎っぽいのもしてないけど……。
それでも多少は――。
「この子、ここ三週間ほど飛んでもいないんですよ!
このままですと、竜ではなく、丸っこく、ゴロゴロ動くだけの、置物です!」
が、がはっ!?
メイドさんなのに、酷い言い草だ!
かしずく者として、それで良いの!?
お嬢様!
お嬢様!
言ってやってください!
この胸部装甲過多なメイドさんに言ってやってください!
そんな気持ちを込めて、「がっ! がっ!」と鳴きつつお嬢様を見上げれば……。
何故か、お嬢様は心配そうに見下ろしてくる。
そして、わたしを撫でながら言う。
「キュー、少し動こう?
体にも良くないし、それに……。
その……」
何故か、お嬢様は言いにくそうに続ける。
「キューのお腹の辺り、触り心地が少し、ボヨボヨしてる気がするの……」
ががぁぁぁん!
ショックの余り、お嬢様の膝の上に、倒れ込むのだった。
「さあ行くぞ!」
と護衛騎士のアランさんが、わたしを乗せた左手を振るう。
「がぁ~」とやる気が無いながらも、飛び立つと〝大きく、すっごく大きく〟旋回し――パラソルの下で座っているお嬢様の足下に降りる。
そして、ぴょんと跳ぶと、お嬢様の膝で丸くなった。
はい!
今日もいっぱい頑張った!
もうお終い!
アネットさんが呆れた顔で「明らかにやる気がありませんね」とか言ってくるし、アランさんも苦笑しながら「飛ぶ距離もますます少なくなってるし」とか言ってるけど、無視無視だ!
よくよく考えたら、わたし、愛玩系ドラゴンなのだ。
丸かろうが、ボヨボヨしてようが、コロコロして様が関係ない!
お嬢様の側で、のんびりスローライフをしてれば良いのだ!
「キュー……」とお嬢様が困った声音で言いつつ、背中を撫でてくる。
そうすると、心が揺さぶられるけど……。
アネットさんが嘆息しながら言う。
「この子、そのうち丸くなりすぎて飛べなくなるんじゃありませんか?
そうなったら、あなた……。
正真正銘、竜モドキになるわよ」
ツンツン背中を突っつかれるけど、無視無視だ!
そもそも、わたし、未だに竜と認定されてないし!
竜(?)で結構なのだ!
もう、むやみに動くの止め止め!
のんびりゴロゴロ、異世界ライフをするのだ!
なんて決意していると、お嬢様がそっと囁くように言う。
「キュー、それは困るわ。
わたくし、大きくなったら、キューに乗って空を飛んでみたいの」
「がっ?」
見上げると、お嬢様が少し恥ずかしそうにお願いしてくる。
「キュー、お願い!
ちゃんと飛べるようにいて!
ね!」
わたしは脳裏で思い浮かべる。
『キュー! すごぉぉぉい!』と喜んでいるお嬢様を背に、空を飛ぶわたし――良い!
凄く良い!
わたしはむくりと起き上がる。
そして、〝勿論ですよ! わたしはお嬢様の竜ですもん! 見事飛んで見せましょう!〟と言うように「がっ! がっ!」と決意表明をする。
すると、ぱっと表情を明るくさせたお嬢様が「ありがとう、キュー!」と抱きしめてくれた。
やるぞぉ!
やるぞぉ!
やってやるぞぉぉぉ!
気持ちを高ぶらせていると、アネットさんが右手で眉間を押さえながら「やる気になったらなったで、やらかしそうで怖いわ」などと言ってる。
失礼な、メイドさんだ!
わたしはお嬢様を背に乗せて、空を飛ぶ。
それに必要な事は何か。
ママさんを背に乗せて飛ぶ事は出来たのだ、お嬢様を単純に乗せて飛ぶ事ぐらいは、今でもできる。
出来るのだけど、無論、それだけでは足りない。
お嬢様には安心安全に空を楽しんで貰う必要があるのだ!
多少揺らそうが、落っことそうが問題ない、パパさんとは訳が違う。
安全に! (特大に強調)、それでいて、極力揺れを無くす!
それが必要なのである!
そのために、わたしは何をすべきか?
まずは、以下3点を鍛えようと思う。
1、飛行時間を増やし、空を飛ぶ安定感を増す。
2、まずはお嬢様以外の人を乗せて、飛ぶ事も慣れる。
3、もしもの時、背に乗っているお嬢様の状態を確認する術を身につける。
1、2は同時に出来れば良いのだけど、誰を乗せるにしてもそれだけ拘束する事になる。
パパさんなら喜んで付き合いそうではあるけど……。
どちらにしても、侯爵領以外の場所で体を巨大化させる事は、緊急時以外は禁止されているので、それも出来ない。
……侯爵領では目立たないようにするからと、パパさんが泣き落としをしていたから、何とか大丈夫らしい。
まあ、何にしても、現状、1をメインにやるしかない。
3に関しては、どうするのか考えないといけない。
お嬢様が喜んでいる姿が見たいってのもあるけど、何より、後ろがどういう状況なのか把握できないのは困る。
鏡を使うとか……。
う~ん、誰か考えてくれないかなぁ~!
王城の東屋? だっけ?
お嬢様の正面に座る王妃様が、口元を緩めながら「なるほど、それでキュートリック殿が張り切っているのね」と言った。
お嬢様が顔を強ばらせながら「は、はい、その、申し訳ありません……」と頭を下げる。
が、がぁ~ん!
わたしのせいで、お嬢様が謝罪をしている。
面目なさ過ぎて、テーブルの上に置かれたクッションの、その上で項垂れてしまった。
いやね、大したことはやってないはずなのよ。
最近、頑張って飛ぶ練習をしてただけだし。
当然、お嬢様のお屋敷、その敷地内(前世中学十個分ぐらい?)から出てないし。
なのに、何故か王妃様からお嬢様に緊急の呼び出しがあったのだ。




