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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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めでたい事実が発覚する!

 わたしが切り分けて貰ったのは、アップルパイっぽいものだ。

 いや、アップルパイという物を前世でも食べた事ないけど、テレビでこんな様なものをそう言っていた気がする。

 顔を近づけると、果物を甘く煮た濃厚な香りが鼻をくすぐる。


 これは、美味しい奴だ!


 そんな事を考えつつ、フォークをそれに近づけると、突然、陶器が鳴る音が聞こえた。

 視線を向けると、ママさんが口に手を当て震えていた。

 音は、どうやら手にしていたフォークを落としたらしく、ケーキののった皿の横に落ちている。

「ジェニー?

 どうしたの?」

 王妃様が驚き、訊ねる。

 ママさんの顔、真っ青だ。

「ジェニー!?」

とパパさんが立ち上がる。

 ママさんは気丈に体裁を整えようとしている。

「申し訳ありません、少し席を――うっ!」

 ママさんは立ち上がると、凄い勢いで、その場を離れようとする。

 パパさんが「失礼します!」と声を上げ、ママさんを追いかける。

 王城のメイドさん達も、駆け寄り、ママさんを誘導する。

 それを、王族の皆さんとお嬢様は呆然と見送った。

 お嬢様はハッとした顔になり、立ち上がると「父と母が失礼いたしました」と王様に深々と頭を下げた。


 ここですぐに謝罪できるお嬢様、凄い!


 王様は笑顔で「大丈夫だよ! 体調を崩したのなら仕方がない事だし、わたし達と侯爵、侯爵夫人との仲だ。気にする必要はない」と答えた。

 王妃様が少し考え込んだ後、言う。

「余りいい加減な事は言えないですけど……。

 ひょっとして、ジェニー……。

 妊娠しているのではありませんか?」

 それに、王太后様がにこやかに頷く。

「そうかもしれませんね。

 そうなると、匂いの強いお菓子を出したのは、失敗だったかもしれませんね」

 お嬢様は心配そうに、パパさん、ママさんが消えた先を見つめていた。



 王妃様の予感は的中した。

 なんと、ママさんは妊娠していたのだ!

 知らされたのは、王城にある来客用の寝室で、ベッドに寝かされているママさんを、パパさんは凄く嬉しそうに、それでいて、優しく抱き寄せた。

 ママさんも幸せそうに、それを受け入れている。

 わたしもベッドに上ると、〝おめでとう!〟 という気持ちを込めて、「がっがっが!」と鳴くと、ママさんは破顔しながら「ありがとう、キュートリック」と頭を撫でてくれた。

 お嬢様は何故かぎこちない感じに笑みを作り「おめでとうございます」と言う。


 何でだろう?


 ただ、ママさんは気にするそぶりも見せず、笑顔で「ありがとう。あなたもお姉様になるのだから、しっかりしなさいね」と言った。



 本当であれば、侯爵領に家族全員で戻る所だったけど、ママさんの大事を取って、パパさんのみ戻る事になった。

 妊娠初期は流産のリスクが高いもんね。

 その辺りはママさんも分かっているらしく、納得はしていた。

 していたんだけど……。

 リビングの長椅子に座るママさんが、不機嫌そうに言う。

「領でどうしても外せない用事があるってのは知ってるし、それについてとやかく言うべきでない――それは分かっているのよ。

 だけど、それでも、不満に思ってしまうものなのよ」

「は、はあ」

とお嬢様がなんとも言えない顔をすると、ママさんの眉が更に尖る。

「はあ? じゃないわよ!

 あなただって、いずれ知る時が来るのだから!」

 いやいや、ママさん、そうかもしれないけど、まだ幼いお嬢様にそのような事を言われても仕方がないでしょう!

 そんな気持ちを込めて「がっ! がっ!」と鳴くと、ママさんはニッコリ微笑みながら立ち上がる。

 そして、お嬢様の膝の上にいたわたしをひょいっと持ち上げ、再度座り直すと自分の膝の上に乗せた。

「ああ、キュートリック、あなたはわたしの気持ち、分かってくれるのね!」


 いや、そうじゃない!

 ママさん、そうじゃないの!


 かといって、身重(みおも)なママさんを思うと、無碍(むげ)にも出来ず、不満そうにこちらを見るお嬢様の視線を感じながら、撫でられるしかなかった。


 すると、扉が軽くノックされた。


 ママさんが専属のメイドさんに視線を向けると、そのメイドさんは一礼した後、扉に近づいた。

 そして、外と一言、二言、話をしている。

 すぐに戻ってきたメイドさんはママさんに言う。

「マーカス様がいらっしゃいました」

 それに対して、ママさんが柔らかく微笑む。

「あら?

 マーカスさん!

 どうぞ、入ってきて!」

 すると、扉を開けてマーカスお坊ちゃまが中に入ってきた。

 学院の制服がとても似合っている。

 そんなマーカスお坊ちゃまが温和な笑みを浮かべながら近づいてくると、ママさんに「ご懐妊、おめでとうございます」と言った。

 ママさんは嬉しそうに微笑みながら「ありがとう」と答える。

 そして、お嬢様の隣を手で差しながら「私室じゃないんだから、わざわざ、ドアを叩く必要はないわよ」と言う。

 マーカスお坊ちゃまも微笑みながら「分かりました」と頷くと、席に着いた。

 メイドさんがお茶の準備をし始める。

 ママさんは、ニコニコしながらマーカスお坊ちゃまに訊ねる。

「わざわざ、様子を見に来てくれたの?

 ありがとうね。

 薄情なお父君とは違うわね」

 その言い草に、マーカスお坊ちゃまは苦笑する。

「父上に頼まれまして。

 最初は、〝お前が領に行ってくれ〟と無茶を言われて、困りました」

「まあ」とママさんは嬉しそうに笑いながら続ける。

「いくら優秀でも、今のマーカスさんに任せられる事では無いでしょうに。

 ふふふ、でも、マーカスさん、あなたにも覚えておいて欲しいの。

 女が子を産むのは、嬉しいという思いもあるけど、同時に凄く不安な事だってね。

 特に、初産の場合はね」

「はい、覚えておきます」


 ん?

 あれ?

 初産?

 例え話かな?


 ママさんは続ける。

「あなたのお母様の時も、大変だったわ。

 わたし、産気づいた後、あなたが生まれるまで、励ましながらずっと手を握っていたのだから」

「そうなんですね」とマーカスお坊ちゃまは少し、困った顔をする。


 あ!

 な、なるほど!

 そういう事か!

 すっかり勘違いしていた!

 パパさんとママさんは再婚なんだ!

 つまり、お嬢様から見たら、ママさんは義母さんという事になるのか。

 そう考えると、パパさんやマーカスお坊ちゃまが死んじゃった後、お嬢様とぎこちなくなるのも分かるか。

 あ、ひょっとして、ママさん、この後、男の子を産むのかな?

 そうなると、パパさんの後を継ぐ件でも、何かあったのかもしれない。

 いやまあ、今となってはどうでも良いけどね。


「今度は、マーカスさんかカティがわたしの手を握ってくれる事になるのかしら?」

 などと、ママさんは悪戯っぽくいうので、お嬢様達兄妹は困った顔をしていた。


 いやいや、普通にパパさんにお願いして!


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