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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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お嬢様を苦しめるなんて、お嬢様の竜失格だぁ~

 いやいや、パパさんはともかく、お嬢様ならいつでも乗って下さっても良いですよ?

「がぁ! がぁ!」

と明るく言いつつ、背中を向けようとして、余計なものが乗っているのに気づく。

 わたしは前足でパパさんの袖っぽいものを掴むと、引っ張りつつ背中を揺する。

「おい! 待て!」とか後ろから聞こえる。


 いや、さっさと降りて欲しいんだけど?


 パパさんは続ける。

「落ち着け、キュートリック!

 カティだけで乗れる訳ないだろう!」

 あ、確かに……。

 引っ張るのを止めると、パパさんは不満そうに「お前というやつは……」とか言っている。

 ただ、ため息を付くとお嬢様に「乗馬服に着替えてきなさい」と言った。



 乗馬服に着替えたお嬢様は、凄く凜々し可愛い。

 赤い上着に、ぴっちりした乗馬用ズボン、そして、焦げ茶色のブーツを履いていた。

 薄金色の髪を後ろで束ね、その位置が気になるのか、白い手袋をつけた手で触っている。

 そんな愛らしいお嬢様を乗せるのは、ドラゴン冥利に尽きるってものだ。

 そんなお嬢様はわたしに近づくと、心配そうに見上げてくる。

「キュー、大丈夫?

 乗っても大丈夫?」

 わたしはお嬢様を安心させるように「がっ!」と鳴いて見せた。

 そして、お嬢様が乗りやすいように、背中を向ける。

「さあ、カティ、おいで」

というパパさんの声が聞こえ、後ろの方で何やらやっている気配を感じる。

 う~ん、多分鞍に乗ったりしてるんだろうけど、お嬢様のその姿が見えないのは凄く寂しい。

 かといって、下手に振り返ると、わたしの後ろに伸びる角が、お嬢様やパパさんに当たってしまう可能性がある。


 仕方がない、我慢だ。


 そんなことを考えていると、準備が出来たのか「さあ、キュートリック、進め! ゆっくりとな」というパパさんの声と共に、背中をポンポン叩かれた。

 ゆっくり、ゆっくり、歩を進めるとお嬢様の「うぁ~!」という嬉しそうな声が聞こえてくる。

 嬉しくなり、少しだけ速度を上げる。

 もちろん、調子に乗って上げすぎることはない。

 安全第一だ!

「凄~い!

 キュー、凄いよ!」

 という、お嬢様の声が聞こえる。


 ふふふ、それは良かった!

 体が大きくなって、凄く不便だし、寂しいけど、お嬢様とこうやって散歩するのも良いかもしれない。

 飛んだ時に空想した、お嬢様との空のお散歩も、慣れれば出来るようになるかもしれない。

 それは凄く楽しそうだ!


 そんなことを考えていると、後ろからお嬢様の苦しそうな声が聞こえてきた。

「きゅ、キュー……。

 気持ち悪い……」

 え?

 慌てて止まると、パパさんの困ったような声が聞こえてくる。

「カティ、大丈夫か?

 酔ったのか?」

 あ、揺れがキツすぎて乗り物酔いみたいになっちゃったのか。

 後ろからパパさんの声が聞こえてくる。

「済まん、キュートリック!

 カティを降ろすから動かないでくれ」

 しばらく、後ろで何かを外す音が聞こえると、パパさんに支えられたお嬢様の姿が前に出てきた。

 お嬢様の愛らしい顔が、(いたわ)しい事に青ざめていた。


 なんということ!

 このわたしが、お嬢様を苦しめるなんて!


 わたしが地面に頭を置き、「がうぅ……」と声を漏らしシュンとしていると、お優しいお嬢様は無理に笑顔を作りながら、頭を撫でてくれる。

「キューのせいじゃないの。

 わたくしが慣れていないだけだから。

 また乗せてね!」

 そして、パパさんに支えられながら、屋敷の方に歩いて行く。


 う~ん、お嬢様の優しさが辛い!


 いや、そうじゃない!

 お嬢様の竜としてやるべき事をやらねば!

 それは、揺れの少ない歩行の鍛錬だ。

 目標はお嬢様が一日中、背中に乗っていても平気なぐらいのノー揺れだ!

 確か、すり足が良いと前世Web小説の知識にあったはず。

 取りあえず、毎日、鍛錬場をすり足で一周だ!


 よし、やるぞ!


 などと決意をしていると、お屋敷からニコニコした顔のママさんが歩いてくる。

 お嬢様と同じく、乗馬服で体をしっかり覆っているにもかかわらず、体のラインがしっかり出ているピッタリした物なので、腰や胸が強調され凄くセクシーだ。

 ただ、赤毛をお団子にしているそのキツメの顔に、悪戯っぽい笑みを浮かべているので、宝塚な王子様っぽい印象も抱かせる。

 右手には、さっきパパさんが付けていたフルフェイスのヘルメットっぽい兜を持っている。

 更に言えば、その側にはママさんの専属メイドさん達が、困った顔で何やら窘めようと声をかけている。


 えぇ~、嫌な予感……。


 顔を引きつらせていると、側まで来たママさんは、わたしの横腹辺りをポンポン叩きながら言う。

「キュートリック、次はわたしを乗せて頂戴!」


 えぇ~!


 すると、先ほどまで先導してくれた団長さんが慌てた感じに駆け寄ってくる。

「奥様!

 キュートリック殿はまだ慣れていませんので、今日の所は――」

 そんな言葉をママさんはぴしゃりとはねのける。

「あら、当主と当主令嬢が乗って問題なかったのに、わたしは何故、駄目なの!?」

「いえ、それはご当主様がいらっしゃって――」

「あなただって、わたしの乗馬の腕前は知っているでしょう?

 問題ないわ」

とか言いつつ、身軽な様子で背中に乗ってしまう。


 えぇ~!

 良いの~?


 団長さんは「危ないです」とか「せめてご当主様がいらっしゃる時に」とか色々言っていたが、ママさんは全て無視しつつ、(くら)に乗り、パパさんと同じくシートベルト(?)を付け始めたので諦めたようで……。

「その腰の革帯はもっとしっかりと着けて下さい」

と言っていた。


 ま、まあ、さっきと同じように歩くだけなら良いかな?


 そんなことを考えつつ、ママさんに促されて、渋々と歩き始めた。

「なかなか、良い乗り心地ね!」

 などと、ママさんはご機嫌に言う。 お気楽な事で。

 もっとも、人を乗せるのも三回目なので、大分慣れてきた。

 首を振らずにまっすぐ見続ける。

 そうすれば、大丈夫!

「もっと速度を上げて良いのよ!」

とか言われても、要望に応えられるとは思う。


 やらないけどね!


 だって、団長さんが心配そうに併走しているもん。

 ……あの団長さん、鎧を身につけているのに、ずっと駆け続けられるなんて凄いなぁ。

 なんて、目だけを動かして見ていると、それに気づいたのかママさんがこんなことを言い出す。

「ちょっと!

 あなたが気になって、キュートリックが速度を出せないじゃない!

 向こうに行っていて!」

「いや、しかし!」

と団長さんは困った顔で見上げてくる。

 ママさんは続ける。

「いいから!

 大丈夫よ、この子は賢いし!

 それに、わたしだってこの程度の速度、馬で体験済みよ!」

 苦悩する顔の団長さんは、諦めたのか「分かりました! くれぐれも! くれぐれもご無理をなさらないように!」とか言いつつ、離れていく。


 えぇ~!

 いいのかなぁ~


 困っていると、ママさんが機嫌良くわたしの背中を叩いた。

「ほらほら、邪魔者はいなくなったわよ!

 もっと、速度出して!」


 えぇ~!

 うんまあ、もう少しだけだよ!


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