お、大きくなった!?
などとやっていると、パパさんはすわった目でこちらを見てくる。
え?
何?
すると、お酒の瓶を持ったパパさんはとんでもないことを言う。
「キュートリック、お前、飲んでないな?
こ~れ~はぁ~祝杯! だぞ!
何故飲まない」
そう言うやいなや、わたしの顎を手で掴むと、口に瓶を突っ込んだ!?
「ごごごぉ!?」
冷たいような、熱いようなものが口の中に突っ込まれる。
遠くから「おやめ下さい!」とか「死んでしまいます!」とかいう侍女っぽい人やオントワンさんっぽい声が聞こえた。
視界が、ぐるぐる、する。
なん、だこれ?
パパさん、イケメン……が何やら、ぐにゃっと歪む。
無性に笑えて、「がががが!」と声が出た。
そんなわたしに、パパさん? が「なんだ、いける口だな!」とか、よく分からない、こといってる。
訳、分かんない~
「ががが!」
口に瓶が突っ込まれる。
美味しい? 美味しい?
「ががが!」
遠くで笑い声と「旦那様! 本当にお止めください! この子、なんだか、おかしくなってます!」とか聞こえる。
馬鹿な!
わたしがおかしいなんて! 有るか!
空も、飛べるはず!
羽を広げて、バタバタ!
遠くから「キュートリック! 止めて!」とか「落ち着いて!」とか聞こえる。
声援かな?
ふんふふ~ん!
すると、「あなた! 何をやってるの!?」という怒声が聞こえてきた。
下を見ると、パパさんがママさんに怒られている。
ひゃっひゃっひゃ!
「がっが!」
と笑うと、体が――墜落?
ソファーに落ちた。
笑える!
「がっがっがぁぁぁ~!」
……。
…。
。
ん?
何だ?
下の方が騒々しい。
「がう?」
あれ?
寝てた?
目を開けると、窓から陽光が漏れている。
あれ?
昨日、何があったんだっけ?
酔っ払ったパパさんに絡まれた記憶はあるけど……。
それ以降がよく分からない。
「あ、あなた、キュート……リック、なの?」
?
わたしはどこから見ても、可愛いで話題のキュートリックちゃんだけど?
いつものように見上げる。
ん?
天井?
やけに近い?
え?
何?
「キュートリック……よね?
いい?
そっと……。
そっと、下を見て」
ん?
訳が分からない。
声的には、メイドのアネットさんだと思うけど……。
まだちょっと眠い。
一つ欠伸をすると、何故か、下から悲鳴が上がった。
え?
どういうこと?
頭がだんだん、クリアになっていく。
なんか、壁の柄がいつもと同じようだけど、何かが違う。
「そっと!
そっとよ!」
とまた言われる。
どういうこと?
下を見ると、顔を引きつらせたアネットさんと護衛騎士のアランさんがこちらを見上げていた。
他の使用人の人も、恐る恐る見上げている。
〝見上げている!?〟
目を瞬きして辺りを見ようとする。
だけど、アネットさんが「角! 角が当たるから!」と言われて何とか止める。
え!?
嘘!?
わたし、大きくなってる!?
お嬢様の膝にも乗れるサイズのわたしが、今では巨乳系メイドのアネットさんを見下ろしていた!
あわあわしていると、アネットさんがわたしのお腹辺りを指さし「旦那様! 旦那様!」とか言っている。
え?
再度、下を見ると、床に座っているわたしの、そのお腹に、パパさんが抱きつき眠っていた。
その顔は気持ちよさげで、ムニャムニャ言っている。
えぇ~!
――
「お父様、キューはもう、戻らないのですか?」
「う、う~ん……」
パパさんは顔を顰める。
それは、愛らしい娘の問いに窮しているのか、それとも、単に二日酔いなのか分からない。
ただ言えるのは、パパさんが役立たずって事だ。
お嬢様は踏み固められた土の地面に伏せる、わたしを見る。
愛らしいその目は、とても悲しげだ。
「キュー、可哀想!
わたくしの膝の上でのんびりするのが好きなのに、それも出来ないなんて……」
そう、わたし、気づいたら大きくなっていた。
直立すると、4メートルくらいかな?
長身のパパさんすら軽く見下ろしている。
恐ろしいほど高いお屋敷の天井ですら、頭をぶつけそうになるぐらいだ。
あと、シャンデリアには普通に当たる。
不幸中の幸いというか、居間にはバルコニーに通じる大きな窓が有り、そこをくぐり抜けるように出て、バルコニーから注意しつつ飛び降り、外に出ることが出来た。
そして、現在は騎士さん達が鍛錬とかに使用している場所にいる。
べったり伏せてようやくお嬢様と同じ目線になるかどうか。
流石のわたしも、この頭でお嬢様に膝枕をして貰おうなどとは思えない。
凄く、悲しいけど……。
そんな、心情を感じたのか、お嬢様はわたしの顔まで近寄ってくれる。
そして、優しく抱きしめてくれた。
抱きしめる――というより、抱えるって感じだけど……。
温かいけど、悲しい!
体いっぱいに感じることが出来た、あのハグをもう受けることが出来ないと思うと、凄く悲しい!
そんなセンチメンタルな気持ちのわたしに、パパさんは気楽な感じに言う。
「まあまあ、キュートリックはつまり、大人になったと言うことだ!
目出度いことだ!
それに、なかなか勇ましくて良いぞ!」
などと、わたしの頭を撫でてくる。
いやもう、パパさんはあっちに行って!
人差し指で手で押しのけようとすると「なんだ、褒めてやっているのに!」とか不満そうにする。
脳天気体育会系パパさんは、ほんとあっちに行って!
……巨大化してから、三日過ぎた。
時々、鍛錬所をぐるぐる回ったりしているけど、基本、その場に留まっている。
下手に動くと、お屋敷を壊したり、人を傷つけたりしそうで怖いのだ。
朝と夕にお嬢様は来てくれ、伏せたわたしの頭を撫でてくれるけど……。
今までのように、お屋敷の中でのんびり出来ないのは寂しい。
あと、鍛錬所にやってくる脳筋の兵士さん達が何やらキラキラした目でこちらを見ながら「お手合わせを~」とか言ってくるのが、鬱陶しい。
こちとら、女の子系ドラゴン(仮)だっていうの!
そういう時は、プイっと無視するんだけど、それでも定期的にそんなことを言ってくる。
もう、肉体系お馬鹿さんはパパさんだけで間に合っているっての!
そんなことを考えつつ、鍛錬所でふて寝をしていると、何やら、件の肉体系お馬鹿さんが近づいてくるのが見えた。
何人かの兵士さん達と歩くパパさんは、何やらニコニコした顔でこちらを見ている。
……。
あれは絶対、ろくな事を考えていない。
わたしはパパさんから視線を避けるように丸まった。
「おい!
なんだ、いじけてるのか!?
お~い!」
とか言っているけど、無視無視だ。
すると、そんなわたしの背中をポンポン叩きながら、パパさんは言う。
「取りあえずのお前の部屋を作った!
だから、今から、そちらに移動してくれ!」
部屋?
顔を上げて見れば、パパさんは笑顔で「あっちだ!」と鍛錬所の外を指さす。




