赤い脅威に追われて3
などと、何故かエセ大阪人みたいな事を心の中で絶叫しつつ、羽ばたきを強める。
すると、森の奥――パパさん達が向かった方から爆発音が聞こえてきた。
そういえば、パパさん魔術騎士団とか言っていたから、文字通り、魔術を使って戦っているのかもしれない。
それに合わせて、ミノタウロスらしき怒声、そして、何かが衝突する音が響いてくる。
何やら壮絶な戦いが行われていそうな雰囲気だ。
このままわたし、行った所で役に立つのかな?
そんなことを苦悩しつつ近づいていると、ギョッとするような様子が目に入った。
草原の中、使用人らしき人たちが一カ所に固まっていたのだ。
天幕やなんやらが無造作に放置されている場所で、皆、怯えていた。
大半が女性の使用人さん達で、剣を持った男の人たちもちらほらといるけど、明らかに戦い向きではなさそうな人たちだ。
脳裏に、お嬢様の馬車に乗っているご婦人さん達の姿がよぎる。
貴族の人たちを先行させるため、使用人は置いていかれたって事!?
そういえば、ここに来る道は馬車が何台も併走できるような場所では無かった。
そう考えると、優先順位を考えて使用人が置いてかれるのも無理ないことなのかな……。
胸くそ悪いことではあるけど!
あれ?
一応、馬車はある――けれど、馬がいない!
馬に乗れる人はそれに乗っていったって事なの!?
酷すぎない!?
そんなことを考えつつ、近づくと突然、木々の中から真っ赤な巨体が飛び上がってきた。
ミノタウロスだった!
え!?
パパさん達はどうしたの!?
倒したにしては早すぎるから、パパさんを無視してここまで来たって事!?
わたしも混乱したけど、使用人さん達はもっと驚いたようで、恐慌状態で逆側に走り始めた。
ミノタウロスは「ゴォォォ!」と吠えながら、棍棒を振りつつ追いかける。
あ!?
ミノタウロスの前でメイドさんの一人が倒れた。
そこに――アネットさんが駆け寄り、肩を貸している。
ちょっと!?
それに気づいた、執事服を乱したオントワンさんが助け寄ろうとしている。
ミノタウロスがそんな三人を前に、棍棒を振り上げて――。
「がぁががぁ!(ちょっと待ったぁ!)」
わたしは一生懸命急降下をすると、ミノタウロスの顔面に足の爪を立てた。
「ぐぉぉぉ!」
何かを潰した感覚――不快感が全身を駆け抜けたけど、そんなことを言っている場合じゃない!
嫌な予感!
わたしはミノタウロスの顔を蹴って飛び立つ。
そこに、馬鹿でかい腕が振るわれる。
突風がわたしの羽根に当たり、バランスが崩れそうになるけど、何とか堪えて飛び上がろうとする。
「キュートリック!」
というアネットさんの悲鳴混じりの声――背後に、轟音の様な音と共に何かが背後を横切った。
ひやぁ!?
怖い!
前方に押し出され、墜落しそうになるのを必死に堪えつつ、急いで、上空に待避した。
「ゴォォォ!」
空気を揺らさんばかりの怒声が響く。
だけど、ミノタウロスみたいに恐ろしい化け物でも、空を飛ぶことは出来ない。
少し安心しつつ、チラリと見ればアネットさん達が逃げていく様子が見える。
ん?
あれは?
何やら背の低い――少年っぽい騎士さん達が逃げるのとは逆の方から駆けてきた。
そして、使用人の皆を誘導し始める。
あ!
あれ、マーカスお坊ちゃまじゃないかな!?
剣を片手に、逆の手を振りながら皆を急かしている。
オントワンさんやアネットさんが驚いた顔で、何やら声をかけた。
マーカスお坊ちゃまだけでなく、何人かの少年騎士さんに何人かのメイドさん達が声をかけている。
ひょっとしたら、自分たちの使用人が残されていると聞き、助けに来たのかな?
勇敢で格好いいけど、凄く危ない!
オントワンさんがこちらを指さし、マーカスお坊ちゃまがこちらを見たので、早く行ってと言うように手を振った。
通じたのか、マーカスお坊ちゃまが頷いてみせる。
アネットさんはこちらを心配そうにチラチラ見てくるけど、オントワンさんが何かを言って、逃げるように促している。
そうそう、そうしてくれないと、わたしも困るのだ!
少し安心していると、下から地獄から湧き出してきたかのような怒声が聞こえてくる。
嫌な予感!?
見下ろすと、ミノタウロスが飛び上がってきた!?
ぎゃぁぁぁ!
慌てて回避した所に、いつの間に拾っていたのか、例の棍棒が振るわれた。
風圧で吹き飛ばされそうになる。
嘘でしょ、この牛顔さん!?
今、二十五メートルは飛び上がってない!?
そんなミノタウロスは落下し、地面に踏ん張りながら着地した。
そして、こちらを憎悪の籠もった顔で睨み、吠えた。
「ゴォォォォォォ!」
ミノタウロスの左目は潰れたようで、真っ赤な液体を涙のように流している。
だが、右目を血走らせながらこちらを凝視している。
ひぃ!? 怖い!
恐怖で全身が泡立ち、血の気が下がる。
それでも、身をすくませている場合じゃない。
それに、適切な距離を守り、飛んでいれば相手の攻撃が当たることなどない。
……そう考えると、怯えたのが馬鹿馬鹿しくなる。
というか、びっくりさせられたこと自体、腹が立つ!
「ががが! ががが! (脅かすな、バ~カ! バ~カ!)」
そんなことをやっていると、突然、ミノタウロスはアネットさん達が逃げた方に視線を向ける。
そして、またしても追いかけ始めた!
ちょ、ちょっとぉぉぉ!
アネットさん達の方に視線を向ける。
まだ、それほど移動していない!?
いや、陸上選手でもない一般的なメイドさんなら、あれぐらいが精一杯か!
ロングスカートを履いているしね。
くそぉぉぉ!
わたしは降下し、ミノタウロスの眼前を横切る。
それを見た牛頭はこちらに注意を向けた。
何とか、アネットさん達が逃げる時間を稼がなければ!
「ゴォォォ!」
ひぃ! ミノタウロスがこちらに向かって駆けてくる。
速度で言えば、わたしの飛ぶのと大差は無さそう。
怖いけど、進行方向さえ変えれば後は逃げれば良い!
そんなことを考えていると、ミノタウロスはわたしと距離がある程度離れた所で、突然止まる。
そして、振り向くと、やっぱりアネットさん達の方に駆け始めた!?
えぇぇぇ!
何なの、この牛頭!
メイドか!
メイド萌え勢か!
そんなに巨乳メイドが好きなのか!?
再度、ミノタウロスの前を飛び、意識をこちらに向ける。
……。
……。
……。
おかしい。
何度やっても、誘導できない。
ミノタウロスの側に寄れば、一旦、視線を向けさせることが出来る。
そして、親の敵のように、怒声を上げながら、こちらに向かってくる。
だけど……。
ある程度、距離を取るとフッっとアネットさん達の方に向き直り、そちらに行こうとする。
なんか、前世でメガネちゃんがやっていたレトロゲームのAIキャラみたいだ。
この世界、乙女ゲームと同じ世界観みたいだから、ひょっとして、これは〝女神様の気まぐれ〟とかのミニゲームなのかな?




