赤い脅威に追われて2
しかも、あのミノタウロス、大きい!
身長は下手をすると成人男性の2倍近く高い!
縦だけでなく、全てが分厚い筋肉に覆われていて、腕なんてもう、人間の胴どころか、馬の胴ぐらいはある!
首回りも直径1メートルはありそうなほど太く、ゴツゴツしていて、さらにオシャレのつもりかよく分からないけど鎖の様なチェーンに丸い宝石の付いたネックレスを付けていた。
あれは危険だ!
この世界の人たちがどれくらい強いか分からないけど、少なくとも戦闘経験が無いお嬢様を含むご婦人達は危険だ!
わたしは大急ぎでパパさんの元に戻る。
そして、ミノタウロスがいる方を指さしながら、「がぁ! がぁ!」と必死に鳴いた。
言葉が伝わらないのがもどかしい!
結構な速度で近づいてきてるから、急がないと行けないのに!
ただ、何を言っているのか分からないまでも、切迫感は伝わったのか、パパさんは近くにいた騎士さんに指示を出す。
そして、パパさんが身振り手振りで、わたしにその人にミノタウロスの位置を知らせるように指示をしてきた。
了解!
わたしはその騎士さんの側に近寄ると、なにやらそのお兄さんは鎧を脱ぎだした。
え?
何?
困惑するわたしの前で、この場所で一番高い木をスルスルと上っていく。
凄い!
感動しているうちに頂点付近まで登り切ったその騎士さんは、腰から筒のようなものを取り出した。
あ、望遠鏡かな?
騎士さんの隣まで急いで飛ぶと、真っ赤な牛頭がいる方を指さし、鳴く。
その騎士さんはわたしに頷き返すと、望遠鏡を覗きながら、そちらに向ける。
すると、その騎士さんは顔を青ざめながら叫んだ。
「巨大な何かが向かってきます!
あれは……。
木々が邪魔で……なっ!?
ミ、ミノタウロスです!
赤毛の、ミノタウロス型の魔物がこちらに向かってきます!」
驚愕する騎士さんの声に、下にいる皆は再度、騒然とし始める。
「馬鹿な!? 超特級の魔物だぞ!」とか「小さくない町を壊滅させる、あの魔物が!?」とか聞こえるので、この世界でもミノタウロスは相当ヤバい存在らしい。
動揺する騎士さん達の中、パパさんは険しい表情で、王様の方を向く。
それに気づいた王様は、真剣な表情でパパさんに頷いて見せた。
パパさんが大きな声で指示を出す。
「魔術騎士団はわたしの元に集結せよ!
この場は我らが殿として、この場に残る!」
「はっ!」という鋭い返答と共に、何人もの騎士さん達が集まってくる。
木に登っていた騎士さんも、急いで下りていく。
王様の側ではジョシュさんが声を張り、帰る準備をしている。
先代の王様が「わしは最後で良い! 若い者を先に」と言い、ジョシュさんがおっかない顔を更に厳つくさせながら「陛下を置いて先に逃げる配下はおりません! 皆を助けると思って、速やかにお逃げ下さい!」と言っている。
先代の王様は苦悩した顔になったけど、「……すまん。出来るだけ多くのものを馬車に乗せよ!」と言った。
お嬢様は……。
焦りまくっているご婦人さん達の中に混じり、ママさんと馬車に乗り込もうとしている所だった。
時折、不安そうに、こちらやパパさんの方を見ている。
わたしは……どうしよう?
いや、わたしは警報を鳴らす役目がある。
ミノタウロスの様子を見に行こう。
わたしは再度、上空へと飛び上がる。
うわぁ!
近づいてくる速度が速すぎる!
後、十五分ぐらいで到着しそうだ!
あ、近くにいた熊がミノタウロスを攻撃した!
凄く強そうな熊だったけど、棍棒のカウンターで頭が吹っ飛んだ。
あの熊さんが弱いのか、ミノタウロスが強いのか、どっちだろう!?
などと考えていると、下からパパさんの声が聞こえてきた。
「キュートリック!
ここは良いから、カティの元に行ってくれ!」
まあ、わたしみたいなドラゴンモドキがいても、戦力にはならないか。
でも、パパさんも心配だ。
そんな事を思いながら、チラリと視線を降ろすと、パパさんは笑いながら「こちらは大丈夫だ!」と頷いていた。
まあ、そうだよね。
パパさんって、時々お馬鹿さんだし、お子様だけど、凄く鍛えていそうだしね。
わたしはパパさんに頷くと、お嬢様の方に飛んだ。
草原を走る一本の道を、騎士さんに守られた馬車の列が進むのが見える。
騎士さんだけで無く、いかにも貴族って服を着た紳士さんが、馬に乗っている。
あの人達も、護衛を買って出たのかな?
結構な数、連なっている。
騎士さんの数人がこちらを一瞬、警戒するように見たけど、わたしと気づいてそれを解いてくれた。
お嬢様はどこにいるんだろう。
少し焦りつつ見ていると、馬車の窓から、可愛らしいお顔が覗いているのが見えた。
あの可憐なお顔は、お嬢様しかいらっしゃらない!
お嬢様もわたしに気づいたのか、窓を開け、「キュー!」と呼んでくれる。
走っている馬車の窓に入るのは、結構難しいんだけど、わたしの優秀なドラゴンボディは結構簡単にこなす事が出来る――はず!
それだけ、小さいってのもあるしね。
タイミングを合わせながら、すーっと近づいていく。
お嬢様もそれに気づいたのか、窓から離れて入りやすいようにしてくれる。
ん?
お嬢様の他に人がいる。
ママさんは当然なんだけど、他に4人ほど――どこかのご婦人さんのようだ。
あれ?
アネットさんは?
いや、まずは中に入ろう!
ゆっくりと馬車に近づいていく。
狙い違わず、窓が近づいてくる。
馬車の奥にいるお嬢様は不安そうな顔をしている。
お嬢様大丈夫ですよ!
直ぐに、そちらに――。
『確かにわたくしは、豪奢なドレスも、贅を尽くした食事も望むまま与えられてきたわ!
端から見たら、さぞかし、幸せに見えることでしょうね!
だけど……。
だけど!
ともに歩いてくださるのは――もう、殿下しかいらっしゃらないのよ!
なのに、あなたは、わたくしの最後の一人を奪おうというの!』
え!?
何!?
今の、誰の声!?
困惑するわたしの脳裏に、前世メガネちゃんの言葉が聞こえてくる。
『でも、カトリーヌも可哀想なのよ。
大好きなお父様も、お兄様も、幼い頃から仲が良かった使用人達も、皆、七歳のある日――死んじゃったんだもの』
うぉぉぉい!
わたしはすんでのところで、上昇し馬車の上を蹴って、空に上がる。
後ろからお嬢様の「キュー!? どこに行くの!?」という声が聞こえたけど、ごめんなさい! ごめんなさい! と心の中で謝りつつ、パパさんの方に戻る。
いや、正確な所は分からないよ。
ひょっとしたら、わたしの勘違いかもしれないしね。
だけど、これが創作物だったらさぁ、明らかにこのタイミングだよね!
このタイミングで、パパさんやマーカスお坊ちゃま、アネットさん達が亡くなってるよね!
えらいこっちゃ!




