赤い脅威に追われて1
パパさんがこちらを困った顔で見てくるけど、鷹狩りの鷹扱いされるより、おばあ様に撫でられている方が何十倍以上良い。
うむ、そこそこ、そこが良いの!
などと目を細めていると、隣の席からおじいちゃんの声が聞こえてくる。
「なあ、王太后、わしにも撫でさせてくれ」
すると、おばあ様――王太后様? が、からかう様に笑う。
「あら、陛下。
あなただと、この子が怖がってしまうのではありませんか?」
「馬鹿な。
わしは猫に好かれることにかけては国一番と呼ばれた男だぞ?」
「まあ、ずいぶんな国一番ですこと」
王太后様は「おほほ」と楽しげに笑う。
この人たち、夫婦なのかな?
あれ?
でも、王様はさっき、パパさんと話していた人だよね?
なんで、陛下って呼ばれてるんだろう?
ひょっとして、先王様?
そんなことを考えているうちに、先王様? が「大丈夫だぞぉ?」といいつつこちらに手を伸ばしてくる。
優しそうな目がこちらを見ている。 怖そうには見えない。
抱っこしやすいように両手(前足)を伸ばすと、先王様は嬉しそうに抱き上げてくれた。
うむ、先王様もなかなかの撫で心地――国一番の猫に好かれる男というのもあながち嘘では無いかもしれない。
先王様の撫でテクニックを評価していると、王様が「父上、キュートリック君をそちらで独占するのは酷いですよ」などと言っている。
いや、だから、わたし女の子なんだけど?
そんな王様に対して、先王様がニヤリと笑う。
「それは難しいのう。
なんせ、キュートリック君はジョシュが怖いらしいから、そちらには近づけん」
すると、ジョシュさん? とかいう厳つい護衛騎士さんが「上王陛下までぇ~」と情けなそうな声を上げる。
そして、ジョシュさんはこちらを見ると、「キュートリック殿! わたしは怖くありません!」と言って、その顔を歪めた。
こわっ!
余りの形相にビクっと震えると、「止めよ! 怖がらせるだけだ!」と先王様が体を震わせ笑う。
テントにいる皆も大笑いをした。
ジョシュさんは「笑いかけただけなのに」とか情け無さそうな声を上げている。
いや、え!?
あれ、笑いかけたの!?
形容しがたい顔だったけど!?
――
テントから出ると、パパさんは「良し! 必ず一番になるぞ!」とか何とか暑苦しい声で宣言した。
いや、正直、もう帰りたいんだけど……。
あれから、王様や王妃様に撫でられたりした。
あの、第一王子の両親なので、少なくともどちらかは嫌な人なのかと思ったけど、そうでもなかった。
王様は頭が良さそうだけど、優しいイケメンさんだったし、王妃様も優しい美人さんだった。
二人とも、優しく抱きしめたり、撫でたりしてくれた。
最後にまた、王太后様の膝の上で撫でて貰っていると、パパさんが「そろそろ、準備が――」などと言い出したので、王太后様に抱きつき、それを拒絶するほどには居心地も悪くなかった。
ただ、流石は王族というか、責任感が強いらしく「頑張ってらっしゃい」とパパさんに渡されてしまった。
いや、わたしに責任を求めないで欲しいんだけど!
そんなことを考えていると、パパさんの従者さんが馬を連れて近づいてくる。
パパさんは「ご苦労」と言いつつ、鐙だっけ? 鞍の横にあるのに足をかけ、馬に跨がる。
わたしを腕に乗せたまま、良くやるなぁ~
う~ん、視線がぐっと高くなり、だんだん緊張してしまう。
そんな気配を察したのか、パパさんが「いつも通りにやれば良いから」と撫でてくる。
う~ん、そうかもしれないけどさぁ~
貴族の男の人たちも、次々に馬に跨がっていく。
パパさんとは違い、一旦、鷹を従者の人に預けてたけどね。
……?
進行役の人が、小さな舞台ぐらいの大きさはある台に立ち、何かパパさん達に一生懸命話をしている。
ただ、わたしの頭に入ってこない。
なんだろう?
妙な気配を感じる。
辺りを見渡してみる。
静かだ。
特に変なことはないんだけど……。
王様がにこやかな表情で台に立つ。
ジョシュさんを初めとして、警備の騎士さん? も、台の周りに立ち、警戒している。
王様が「普段の鍛錬の成果を見せて欲しい」とか話している。
……嫌な気配が、強くなる。
落ち着かなく、きょろきょろ周りを見ていると、パパさんが声を落として「落ち着け」とわたしの顔を撫でてくる。
いや、偉い人がしゃべっている間は静かにしないといけないことぐらい分かるよ?
でも何か変なの!
突然、森が騒がしくなり、鳥が空に飛び上がった。
え!?
なに!?
婦人さん達や男の人たちがざわつき、騎士さん達が警戒する。
パパさんも辺りを鋭い目で見渡している。
何があったの!?
王様の「静まれ!」という言葉で、ざわざわが収まる。
凄い!
その言葉がなければ、パニックになっていたかもしれない。
「キュートリック!」
パパさんに声をかけられ視線を向ける。
真剣な表情のパパさんが言う。
「すまん、上から様子を見てきてくれ!」
なるほど、それが一番確実だ。
わたしが頷くと、パパさんはわたしを乗せた腕を振るう。
それに合わせて、わたしは空を舞う。
上から見た森は木々しか見えない。
だけど、優れたドラゴンボディは斥候としても優秀なのか、気配でなんとなく、何が起きているか分かる。
動物たちが何かから逃げている?
鳥は上空に避難しているし、木々の隙間から見る限り、草食動物はもちろん、肉食っぽい狼とか熊も必死にこの辺りから離れようとしている。
え!?
一体何が起きてるの!?
!?
空気を揺するような咆哮が聞こえ、ビクっと震えてしまった。
町とは逆の山奥の方だ。
何だろう?
いや、近づいてみれば分かるか。
ドラゴンの翼で羽ばたき、そちらに飛んでみる。
上から見渡していると、時折、揺れている木が見えてきた。
一本だけでない。
何本も震え、葉が空に散る。
え?
何あれ?
それが、どうやらこちらに近づいてくるようだ。
魔獣?
……分からない。
更に近づいてみる。
突然、大木が空を舞い、わたしの近くまで飛んできた!
直撃コースではないけど、「がっ!?」と声を漏らしながら、バランスを崩してしまった。
わわわ!
何とか空中で姿勢を保ち、顔を上げると木々の隙間から〝そいつ〟の姿が見えてきた。
初め、真っ赤な牛かと思った。
だけど違う。
体が人間の――剛毛の凄いマッチョな男の人みたいだった。
は、はぁ!?
あ、あれってまさか!
全身真っ赤な毛で覆われているので、赤い牛が無理矢理二足歩行をしている感じだった。
だけど、前足ではなく手だし、後ろ足も人間に近い形状だった。
そして、右手には棍棒を持っていて、興奮したように振り回している。
あれ、あれだよね!?
前世、Web小説でも常連なあれだよね!?
ミノタウロス!?
嘘でしょう!?




