表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お飾り聖女、光の魔法使いに転職します! ~熱狂者が創り出す極上の舞台~   作者: 綾野あや
第1部 竜の聖女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/83

第12話 光跳ねる


 昨日と同じ石畳の広場に、ミディーナの姿があった。

 私に気づくと、彼女は演奏を止め、舞台から軽やかに降りてきた。


「そんな、走ってこなくてもいいのに」


 そんな私に苦笑しながらも、迎えてくれた。

 久しぶりに走ったせいで、なかなか息が落ち着かない。転びそうになるくらい、勢いよく駆け込んでしまったせいだ。

 けれど、頭の中では光球が演奏にのって跳ねる様や、スポットライトが目の前にあった。彼女一人の演奏に焦点を当てたり、パート演奏者それぞれのテーマカラーだっていい。

 それを一刻も早く見たくて、気持ちが足を速くさせていた。

 

「ミディーナ、お願いがあるの」


「なに?」


「もう一回、演奏を聞かせて。それで……出来れば、驚かずに演奏し続けてほしいの」


 魔法が使えることを説明してからの方がいいかもしれない。

 けれど、拒否されたら、全てが泡となって消えてしまう。それは、ものすごく嫌だった。せめて、一度だけでも、私の魔法の可能性を確かめたい。

 急なお願いにミディーナも眉をひそめて戸惑いを隠しきれず、少し黙り込んでしまった。

 ドキドキと心臓が口から飛び出そうになりつつ、どうか演奏してくれますように、と思わず手を合わせてしまう。


「ん~…変なことしない?」


「しない、しない! 絶対にしないし、その……楽しい、と思う」


 あの空間に立つすべての人が、輝きを与えられていた。

 ライブは歌手だけじゃなくて、バンドメンバーにもライトは当たっていたんだ。

 同じようにキラキラと輝いていて、私よりもずっと年上の人ですら、少年みたいにはしゃいで盛り上げてくれる。ステージは、誰もが主役で特別な空間だった。その空間が大好きで、恋焦がれるような空気があった。


 もしかしたら、この世界でも見ることができるかもしれない。

 しかも、この手で――この魔法で、作れるかもしれないんだ。

 私が感じてきた想いを、あの感情をかき乱されるような快感を、誰かと共有したいと強く願ってしまう。


「それならいいよ。希望曲は? 何かある?」


 スッとヴァイオリンを構えて準備をしてくれる。

 曲名はわからないので、明るくてテンポが速めの曲がいい、とリクエストしてみた。


 彼女は頷いて目を閉じると、ゆっくりと弓を動かし始める。

 そして、スローテンポから少しずつ動きが細かくなっていく。ヴァイオリン特有の流れるような旋律と小刻みな波が噛み合って、自然と手拍子を打ちたくなってきた。


 一定のテンポがわかってきたところで、まずは、私の手のひらの上に赤とピンク色の光球を生み出す。

 演奏の邪魔をしないように、大道芸のジャグリングのように、光球を両手の間で行き交わせたり、音に合わせて上へ跳ねさせてみる。


 ミディーナの様子を窺えば、驚いた目は光球を少し追っているけれど、手の動きは全く止まらない。さすがプロだ。

 そのプロの目には、驚き以上の興味と興奮が宿っているのが見え隠れする。

 それから、少しずつ私の手から離していく。

 

 私とミディーナの中間くらいの距離で同様に跳ねさせたり、螺旋を描いたり、自由に動ける様子を見せる。

 彼女もそれがわかってきたのか、この光を受け入れるように柔らかくも力強い笑みを浮かべると、大きく弓を動かして、メロディが情熱的なものへと変わっていく。

 

 大丈夫かもしれない。

 

 手を広げて、光球をミディーナの方へ差し出す。彼女が光を受け取ってくれることを願いながら。

 すると、私のジェスチャーが伝わり、曲が疾走感を上げてフィナーレへ近づく。

 赤とピンク色の光が彼女の周りで、下から上へと螺旋を描き、早く回ることでその軌跡が残る。

 光を浴びた彼女の頬はキラキラと輝き、簡素なワンピースがまるで色鮮やかなドレスのように見えた。


 響き渡る音色が弧を描き、広場いっぱいへと広がっていく。

 ヴァイオリンはさらに格調高く音を紡ぐ。木々の葉が、まるで呼応するように揺れて、世界が彼女の演奏を見ているようだ。


 そして最高潮に盛り上がり、大きく弓を引き抜いたところで、演奏が終わる。

 名残惜しむように光も音も風に溶けこんでいった。

 

 お互いに息が切れて、大きく肩で深呼吸する。

 想像以上に魔力を使ったのか、紋章のところがほんの少しだけピリピリと痛い。

 力を求めすぎてはいけないと、自覚したばかりなのに。

 ――それでも。


「ねぇっ!」

 

「楽しかったねっ!」

 

 二人して同時に声をあげてしまい、思わず吹き出して笑った。

 この世界で、こんなにも清々しい気持ちになったのは初めてだ。

 思い描いていたライブのような演出と、魔法だからこそ自由に動ける部分があった。

 そしてその結果、ミディーナの音が更に際立つような、より引き込まれるような魅せ方ができた。それが、なによりも爽快だった。彼女の魅力を私の魔法で引き出せるんだと、わかったからだ。


 ひとしきり笑ったところで、ミディーナがまじまじと私をみると「ねぇ……これ、魔法?」と聞いてきた。


「あっ……うん」


 ミディーナも、魔法と魔術が違うことは知っているはずだ。

 この世界の人間が扱うのは、呪文を唱えて発動させる『魔術』――あくまで技術としての力。

 でも私は、ただ想像しただけであれを形にしてしまった。

 呪文も、道具もない。それは、『魔法』と呼ばれるべきものだった。

 この力を求めすぎれば、身を滅ぼす。

 肝に銘じたのに、それをすっかり忘れて、ライブのような魔法の演出に夢中になってしまった。

 

 ミディーナは、受け止めてくれるだろうか。

 チラリと彼女を見れば、少し戸惑いながら目をそらす。

 けれど、その不安も一瞬で。その顔にはすぐに、演奏の続きを求めるような熱が戻ってきた。


「……すごい、すごいよ! 初めて見た! さすが、竜の聖女様だね!」


 ――その呼び名に、胸がちくりとした。

 けれど、ミディーナの目は輝いている。その純粋な称賛の言葉に、心からホッとした。


 ――竜の聖女。


 この魔法は、私だけの力じゃない。

 薄明竜と契約したからこそ得られた、特別な力だ。

 そう思えば思うほど、胸の奥が少しざわめく。

 思い出したくない、『ずるい』と言われたときの記憶が、ふと頭をよぎる。けれど、それを振り払うように首を横に振った。

 

 今はただ、この魔法で彼女を輝かせたいと思っただけ。

 ヴァイオリンの旋律が、あのライブの光景と重なった。だから、もっと眩しい世界で私を魅了してほしかったんだ。

 そして今、目の前で笑うミディーナが、その気持ちを肯定してくれる。


「ね、ね、もう一回やろうよ! 今度は、ゆっくりした曲にする? それとも別のがいいかな?」


 ミディーナはまだ興奮冷めやらぬ様子で、楽しそうにあれこれと曲名を挙げていく。

 私は曲名だけではよくわからないけれど、曖昧に頷くだけでも楽しかった。

 彼女と共有できる時間が、ただ嬉しくて仕方ない。


「そうだ! ねぇ、ハルカ。今度、王太子殿下主催の演奏会があるの。そこで、発表してみない?」


「えっ?」


 王太子殿下ということは、ウィリオット王子のことだろうか。

 初対面で「地味な女」と言われ、舌打ちまでされた。あの威圧的な態度も苦手で、できれば会いたくない相手だ。

 戸惑う私に、ミディーナも後悔したのか「ハルカが嫌じゃなければ」と口添えてくれた。


「それに……楽しかったんでしょ?」


 その言葉と彼女の目には、期待に満ち溢れていた。

 ずっとチャンスを探していたアイドルの卵が、ようやく巡り合えた機会を逃さまいとしているようで、それなら応えなくちゃいけないと思い始める。こういう人たちを見てきた。応援してきた。

 私の苦手意識だけで、彼女の輝きを失いたくなかった。


「えっ、と……うん」


 やってみたい。

 自信ないけれど、ミディーナとならできそうな気がした。


「決まりね!」


 ミディーナは嬉しそうに手を挙げ、「さっそく、みんなにも言わなくちゃ!」とその場を飛び跳ねそうな勢いで言った。


(……って、演奏会?)


 その場では頷いたけれど、数秒遅れて現実が追いついた。

 胸の奥で小さな不安が波のように広がっていく。


 けれど、手の甲の光は、静かにそこに在り続けていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ