第167話 新たな波
「センスの色別性格診断か。興味深い話題だ。詳しく聞かせてもらえるかね?」
天井に大穴が開いた地下の尋問室で、元帥は尋ねる。
覚醒都市に明かりを取り戻した後、次は何を実現するか。
それが議題だったけど、今は脇道が逸れ、雑談に興じていた。
「赤は独善的なリーダータイプ。青は分析に時間をかける論理タイプ。緑は空気を読むのが上手い共感タイプ。黄色は奇抜な発想力がある意外性タイプ。黒はカリスマ性のある独裁主義タイプ。白は信念や宗教に身を捧げる理想主義タイプ。銀は本質を見抜く観察者タイプ。金はどんな困難も乗り越える英雄タイプ。紫は芸術的なセンスに長けた創造主タイプ。橙は楽観的で明るい元気タイプ……ってのが定番どころ。夢占いやルーン占いと同じで、根拠も信憑性もない。ただ、髪色と同じセンスを発する人が多い傾向にある。発現する意思能力や系統に関係がありそうな気はしてるけど、データが足りないって感じね。今のところ何の気休めにもならない」
両腕に手錠をつけ、形だけ拘束されるソーニャは語る。
興味を示した理由は不明。元帥も意外と俗物なのかもしれない。
「ふむ。私の場合は黒だから……独裁主義タイプときたか。こう見えても民主主義を重んじる軍のトップなのだがね」
真に受けたのか。冗談のつもりなのか。
どちらとも断定しづらい反応を見せている。
仲が深ければ想像つくけど、彼との関係は浅い。
性格や人間性は掴み切れず、日常的な会話は初めて。
思惑を予想するためにも、会話の積み重ねが必要だった。
「自己評価と他者の認識はズレやすいもの。私から見れば的確だけどね。この力を使って、都市を支配したいと思ってるのは事実でしょ?」
ソーニャは手から紫色の花――ヒヤシンスを生み出し、机に置く。
扱える能力をあらためて誇示し、ドミトリーが抱く野望に探りを入れた。
「馬鹿とハサミは使いようだよ。……あぁ、もちろん君のことを馬鹿にしているわけではなく、あくまで慣用句。重要なのは使い方であり、その力を使って何を成すかだ。活用したからと言って、独裁主義に直結するわけではない」
「分かってる。私はハサミの方でしょ? 髪の毛を切るなら、害はない。一方で、人を切りつければ、犯罪になる。現状、明かりを取り戻しただけだし、確かに独裁主義とは言えないかもね。今後も市民のためだけに力を使うなら」
適当に会話を転がしつつ、反応を見定める。
表情、声色、空気感、全てから総合的に判断する。
体のいい言葉を並べても無駄。その態度が全てを物語る。
協力する意向は見せたけど、危険と判断すれば、その時は――。
「……そろそろ知っておきたいかね? 私の思惑を」
「もちろん。部下に黙ってるんだから、後ろめたい理由があるんでしょ?」
発言の意図を汲んだのか、ドミトリーは本題に踏み込む。
下らない雑談は終わり、空気が引き締まっていくのを感じた。
「いきなり答えを言うよりも、まずは前提を確認しておきたい。君の能力で都市全域に監視カメラを設置し、各地で起こる映像を事細かに記録し、編集を加えて、各家庭のテレビに配信することは今の技術的に可能かね?」
ドミトリーが尋ねるのは、結果じゃなく過程。
白か黒、というよりも、かなりグレーな質問だった。
行き着く先はヤバそうだけど、この時点で判別はできない。
「やってみないと分からないけど、多分……できると思う。でも、どうして?」
否定するのは簡単だけど、それだと話が進まない。
感覚的にできるかどうかを考え、思ったことを素直に伝えた。
「手始めにパイロット版を製作してもらえるかね。話はそれからだ」
思惑を伏せたまま、次なる指示が与えられる。
断ろうかとも思ったけど、好奇心には抗えなかった。
◇◇◇
「あ、あれって……」
都市南部の居住区を歩くアザミは違和感に気付く。
地面から複数の影が伸び、粘土をこねるように蠢いた。
そして、通りに面するビルや電信柱の上に黒い球体が発生。
ギロリと一つ目を開き、周囲を睨みつけるようにして駆動する。
異常な光景だったけど、現代では当たり前とされるモノに似ていた。
「監視、カメラ……?」
その正体を端的に口にして、歩みは止まる。
アレに心当たりがあるせいで、戸惑いが先行した。
「ソーニャの仕業だね。何を企んでいるのやら」
次に反応を示したのは、ジーノだった。
原因に心当たりがあるせいか、混乱は少ない。
状況を前向きに受け止めて、迷わず歩み続けている。
「なんだろうとやることは変わらんね」
「ソーニャを見つけ、主導権を握る。あの程度なら障害になり得ません」
広島とロザリアも事象を受け入れた上で、進み続けている。
目的は明らかで、熟考させてくれるような時間はなさそうだった。
「…………」
仲間の背中が遠ざかっていくものの、気が乗らない。
なんの根拠もなかったけど、どうも嫌な予感がしていた。
「来ないの? 君が言いだしたんでしょ? 白龍よりソーニャを優先するって」
遅れに気付いたジーノは、振り返り、正論を告げる。
確かに言った。ジーナが去ったから、新しい手を考えた。
ないものより、あるものの中で最善を尽くす以外に手はない。
ソーニャの掌握は、現状の最優先事項で世界を出し抜ける切り札。
頭では分かってる。一度口にした手前、引き返せないとこまで来てる。
――だけど。
「い、行き先を変更します。わたしを信じて、ついて来てもらえませんか?」
アザミは波を読む。起きた流れに合わせ、頭を切り替える。
水のようにしなやかに、柔軟に、時と場合に応じて手を変える。
今は結果が伴わない蕾だけど、自分の決断を疑う理由にはならない。




