↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
164/269

第164話 原初の記憶

挿絵(By みてみん)





 覚醒都市バイカルヴェイ南部。教育棟ビル屋上。


 明かりを取り戻したビル群を背景に、二人は向き合う。


 戦う流れは避けられず、直接的な原因を作ったのは白軍大尉。


「――楽に果ててくれるなよ!!!」


 セルゲイは亀裂が入った床を蹴りつけ、戦闘を開始した。


 すでに黒いセンスは全身に纏われており、右拳を振りかぶる。


「…………」


 青いセンスを纏うエミリアは左足にセンスを集中。


 襲い来る巨漢に恐れることなく、真っ向から立ち向かう。


 体格差は歴然ながら、その差を感じさせない振る舞いを見せた。


「「――――っっ!!!!!」」


 満を持してぶつかり合うのは、拳と蹴り。センスとセンス。


 波長が合わない二人の間に生じるのは、調和が取れた光の粒子。


 色が混ざり合うことはないものの、反発することなく、周囲に飛散。

 

 物理攻撃を反射するセルゲイの鎧をすり抜けて、相互理解を加速させた。


 ◇◇◇


 イギリス国王の血を引く子供は、二つに選別される。


 嫡出子か、非嫡出子か。王妃の子供か、それ以外の子供か。


 待遇には天と地ほどの差があり、生まれて間もなく差別が始まる。


「腹が違うだけでコレ……ねぇ。悲惨な運命に同情しちゃうわぁ」


 メイド服を着る紫髪の若い乳母は、ベビーカーを押す。


 バッキンガム宮殿内の廊下を進み、生まれたての赤ん坊に呟く。


 言葉が通じるわけもなく、国王の非嫡出子は、特別な部屋に運ばれる。


「…………」


 乳母が訪れたのは、鏡が無数に置かれた部屋だった。


 十二角形の構造で、それぞれが合わせ鏡になるように配置。


 ベビーカーから赤ん坊を取り出した乳母は、一つの鏡に向け語る。


「鏡よ鏡よ鏡さん。どうか、この恵まれない子に幸あらんことを」


 それが、非嫡出子『エミリア・アーサー』の原初の記憶。


 生まれ育ったのは宮殿ではなく、外界から遮断された鏡の中だった。

 

 ◇◇◇


 国王の正当な子には、『フォン』という爵位がつく。


 元々はドイツ語圏の貴族の間に使われていた称号らしい。


 隣国から影響を受けたと考えれば自然だけど、やや疑問が残る。


「ローラ先生、質問してもよろしいでしょうか」


 鏡面世界に展開されるのは、偽りの教室。


 そこで片手を上げるのは、少女時代のエミリア。


 スカートと上衣が一体となった白基調のドレスを着る。


 金髪に碧眼は変わらずとも、髪は短く、顔は幼く、背は低い。


「はぁい、どうぞぉ。なんでも聞いて頂戴」


 対面しているのは、教壇に立つ長い紫髪の女性ローラ。


 紫色のローブ服に身を包んで、紫色のとんがり帽子を被る。


 鏡の中に存在する唯一の人であり、師であり、話し相手だった。


「嫡出子の爵位である『フォン』はドイツが由来ですが、同時にイギリスの敵国。由緒ある王室の歴史に隣国の文化が介入するのは疑問が残ります。祖国の伝統を重んじるのであれば、『オブ』が一般的ではないのでしょうか?」


 エミリアが気兼ねなく質問したのは、名前の違和感。


 事実がなんにせよ、ドイツに敬意を持つ風習なのが鼻についた。


「今は敵かもしれないけど、昔はそうじゃない。と言えばいいかしらぁ。イギリス王室もドイツ貴族も一枚岩じゃないのよ。地理的に近いのもあって、ぐちゃぐちゃに混ざり合ってる。意味は……子供でもなんとなく分かるでしょ?」


 ローラは珍しく言葉を濁し、抽象的な表現で誤魔化す。


 ようするに、ドイツの貴族が王家の血筋に入り込んだらしい。


 その当時の名残。誰かが起点となり『フォン』という名が浸透した。


 ――ただ、気になるのは原因。


「概ね理解できますが、一体どこのどなたなのでしょう。イギリス王室に割って入り、ドイツの爵位をねじ込み、伝統を軽んじる不届き者は」


 エミリアは恐れることなく、問題の本質に迫る。


 その答えを彼女が知っているのは、空気感で分かった。


「あー、えっと……」


 心当たりがあると言わんばかりに、ローラは視線を逸らす。


 気まずそうに見せ、頭の中では必死に言い訳を考えているはず。

 

「知っているならお答えください、先生。原因は誰なのですか」


 椅子から立ち上がり、教壇に迫り、ローラの顎を掴む。


 無礼を承知で顔の向きを変え、目線を合わせ、問い詰めた。

 

 困惑の表情が見えるものの、覚悟を決めたのか顔を引き締める。


 彼女は深い溜息をこぼし、「ここだけの秘密よ」と言って、語り出す。


「原因はワタシ。ローラ・フォン・ノルトハイム。初代王マーリンの妻であり、歴史的に考えれば、イギリス王室における祖母グランドマザーって、ところねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。