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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第163話 不穏分子

挿絵(By みてみん)





 ぞろぞろと白軍を引きつれて、去っていくのはリーチェ一行。


 ジーナを味方につけ、やるべきことを明確にして、歩みを進める。


 足並みは見事に揃い、似たような立場なのに軍の主導権を握っていた。


「………」


 わたしはそれを見ていることしかできなかった。


 異論を挟むことなく、交渉することなく、傍観する。


 頭は冷静だった。吃音症で言葉が詰まることもなかった。


 策を練り、実行するための手を打ち、言いたいことは伝えた。


 ――でも、負けた。


 最善を尽くしたのに、彼女には通用しなかった。


 ベズドナと初めて話した時のように、丸め込まれた。


 何も変わってない。あの頃から一ミリも成長していない。


 そう思ったら気分が重くなる。一歩も前に進みたくなくなる。


 ――だけど、本当に何も変わってないのかな。


 落ち込みつつある自分に問いかけるのは、純粋な疑問。


 主観を切り離し、客観的な目線から自分のことを見つめる。


 見えてくるのは、ぼんやりとした感想。自分自身に対する意見。


 感情ではなく、理屈。そこに焦点を当てると自然と言葉は溢れ出す。


「元帥との交渉は成功した。少なくとも、あの時は対等に渡り合った。変電所前で犬型の魔獣を撃退した。少なくとも、以前のわたしでは倒せなかった。……戦略面も戦術面も両方、伸びてる。ただ、それ以上に手強い相手だっただけ」


 自身に語り掛けるように告げたのは、実績。


 目に見えた成果であり、否定しようがない事実。


 それが支えになって、自ずと視線は前を向いていく。


「全力で挑んでも、自分より強い相手がいるのは当たり前。うだうだと後ろ向きになって考えても、何の意味もない。それじゃあ、今より前に進めない。負けたなら敗因を分析して、改善する。……落ち込むのは、もう飽きた」


 自問自答を重ね、わたしはわたしを洗脳する。


 前向きな言葉を口にして、そうなんだと思い込ませる。

 

「今のやり取りで、どんな学びを得ましたか?」


 そこで問いかけてきたのは、ロザリア。


 ここしかない適切なタイミングで答えを促す。


 感情と思考は整理され、浮き彫りになったのは本質。


「結局は人……なんですね。相手にしてるのは駒じゃない」


 教え導かれるようにして、わたしは失敗を蓄積する。


 そして、次なる成功に向け、すでに頭は回り出していた。


 ◇◇◇


 結果のフィードバックが行われ、アザミ陣営の方針が定まる。


 人数的には向こうに劣るものの、質だけで言えば引けは取らない。


 策を聞く限り、上手くいけば、次の主導権を握る可能性が高いだろう。


 ――ただ。

 

「概ね賛同ですが、少しばかり単独行動をしてもよろしいですかな?」


 論議の終わりを見て、セルゲイは意見を差し挟む。


 計画を遂行する上で捨て置けない不穏分子が存在する。


「か、構いません。ただ、差し支えなければ、理由を聞いてもいいですか?」


 納刀しているアザミは、へりくだった態度で尋ねる。


 元々、偉そうな振る舞いをする者ではないが、弱く見える。


 上に立つ者であれば、時には毅然とした態度が求められるが……。


 などと考えるものの、どちらも一長一短であり、口を挟む場面ではない。


「私が警戒しているのはリーチェではなく、そばにいた乗務員服を着る金髪の女性。確か、エミリアと名乗っていたか。彼女は人の認識を操作する能力者の可能性が高く、元帥も警戒しておられた。影響を受けない範囲を見極め、軍団から切り離し、どうにか一対一で接触を図りたい所存。私一人が抜けたところで計画に差し障りはないと思われますが、いかがですかな?」


 私情を抑え、セルゲイは聞かれたことにだけ答える。


 下手なお節介をするより、前提を共有しておく方が有意義。


 ロザリアがいれば事足りる上に、教示するのは性に合わなかった。


「あの人が……。も、盲点でした……。ぜ、ぜひ、お願いします」


 特に異論が挟まれることなく、アザミは快く同意する。


 これで集団に縛られる理由はなくなり、単独行動が許された。


「では、ご武運を」


 跡を濁すことはなく、セルゲイは明かりを取り戻したビル群に消えた。


 ◇◇◇


 リーチェ一行が闊歩するのは、覚醒都市南部の居住区。


 大小様々なビル群が連なり、舗装された道路がある大通り。


 出歩く方々もチラホラと見え、停電騒ぎは収まりつつあった頃。


「……リーチェ様、少しいとまをいただいても?」


 エミリアは目線を察し、今の主人にお伺いを立てる。


 案内中であるがゆえに、許可のない単独行動は許されない。


「能力に支障がないなら構わない。行ってきたら」


 理由を詮索することはなく、リーチェは許可を出す。


 第三者の視線に気付き、不測の事態を想定した上での決断。


「では、御言葉に甘えて……行って参ります」


 最低限の断りを入れ、エミリアはパーティを離脱する。


 浅からぬ因縁を解決する舞台は、すでに頭の中で決まっていた。


 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ南部。教育棟屋上。


 訪れたのは二度目。ただ、前とは同じではなかった。


「……」


 目についたのは、ひび割れた床。


 八つ当たりと思わしき、暴力の結晶。


 それをおもむろに手でなぞり、確かめる。


 すると、向いた敵意の矛先が自ずと伝わった。


 この場に同席していた他の誰でもなく、わたくし。


 エミリア・アーサーに抑え切れない激情が向けられる。


 ――そして、背後には同じ気配。


「ご意見を伺いましょう。わたしくの何がご不満なのでしょうか?」


 振り返ることなく、姿を確認することなく、尋ねる。


 見えずとも分かる。背後にいる。昇降機の塔屋に立っている。


「容姿、声色、能力、立ち振る舞い、全てが受け付けん。本来なら手順を踏んで、真偽を検討し、罰するのが妥当だが、お前は例外だ。会ってみて確信に変わった。都市に身を置く以上、到底、見過ごすことはできん」


 冷静に、そして、的確に敵意を向ける理由を述べる。


 話し合う余地はなく、交渉することは困難のように思える。


「であれば、何をなされると?」


 その上で火に油を注ぐ。分かっていて、首を突っ込む。


 分かり切った答えのためにお膳立てをして、舞台を整える。


 道化を演じ、今を存分に楽しむために、無知蒙昧のフリをする。


「本能に従い、正義を執行する!!!」


 期待通りに返ってきたのは、満点の回答。


 予想が外れる光景を夢見て、闘争に身を委ねた。

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