第162話 初めまして
パチリと目を覚ますと、大量の白軍兵が横たわる。
大半は気を失った状態で、起きてくる気配はまるでない。
本来なら生死を確認するべきだろうが、そういう問題じゃない。
予想が正しければ、今の覚醒都市には予期せぬ超常現象が起きていた。
「どう、なってる……」
アレクセイの視界の先に広がるのは、ビル群の明かり。
停電していたはずの覚醒都市には、電力が行き届いていた。
「作戦通り、というわけじゃなさそうね」
同時に起き上がってきたのは、赤髪アフロのバグジー。
憲兵の白い軍服を着て、地面に落ちたククリ刀を回収して語る。
余所者だし、気を許した仲じゃないが、行動を共にするのは理由がある。
「アザミが関与した可能性も否めないが……」
「本命は……さっきの『化け物』でしょうね」
首謀者として候補に上がったのは、二名。
アザミとソーニャ。余所者側と都市側の存在。
前者は『白龍ジークの解放』を望み、後者は不明。
バグジーとはアザミの策を実行するために手を組んだ。
『電力の確保』は作戦通りの展開だったが、どうもきな臭い。
都市が影に覆われ、大図書館前の攻防の後というのが気にかかる。
根拠こそないものの、ソーニャの異常性を見た後では違和感を覚えた。
「なんにしても情報が少なすぎる」
「王女様から裏取りをした方が良さそうね」
こいつとは敵同士だったが、妙に馬が合う。
足並みは不気味なほど揃い、大図書館に向いた。
「ま、待ってください。状況を説明してくれませんか」
そこに声をかけてきたのは、紛れもないアザミの声。
後ろを振り返ると、余所者と都市側の面々が揃っている。
経緯は知りようもないが、見るからに協力関係なのは明らか。
「それはこっちの台詞だ。停電が直ったのは予定通りか、予定外ならどちらだ」
疑問の解決を優先し、アザミの問いを遮る。
前提が分からなければ、情報共有に意味はない。
電力の疑問は先に解消しておく方が、効率的だった。
「そ、それは――」
当の本人は口を開こうとするものの、続く言葉は出てこない。
引きつったような顔をして、視線は奥の方に釘付けになっている。
自ずと同じ方向に目を向けると、見知った人物が大図書館から現れた。
「興味ある話題ね。ぜひ私にも聞かせてもらえる?」
声を発したのは、銀髪長耳の少女リーチェ。
背後には仲間と思われる、エミリアとベクター。
加えて、ターニャ、オレグ、イゴールにジーナもいる。
余所者側と都市側の主要人物が、一斉に集ったような展開。
アザミとリーチェの関係性は不明だったが、きっと何か起きる。
そんな不吉な予感を覚えたが、今は口を挟まず、じっと耳を傾けた。
◇◇◇
目の前に立っているのは、ある種の『伝説』だった。
組織を敵に回し、世界中から命を狙われても生き残る人。
ジェノとの関係も深く、噂は聞いてるけど、会うのは初めて。
頭の中は真っ白になり、本能の赴くまま、身体は勝手に動き出す。
「――――」
アザミは腰の刀を鞘走り、赤黒い刀身を見せ、敵意を露わにする。
無言で襲うほど馬鹿じゃないけど、無警戒を貫くほど間抜けでもない。
少なくとも、相手の目的が明らかになるまで、気を抜くべきじゃなかった。
「だんまりに加えて、抜刀……ね。何か気に障ることでも言った?」
関係性を知った上で聞いたのか、何も知らないのか。
今は白軍の恰好をしているから、どっちとも考えられる。
ただ、表面上でも知らぬ存ぜぬを通すなら、言うことは一つ。
「あなたはジェノさんの敵か味方……どちらですか」
どもることはなく、アザミは堂々とした態度で回答を求める。
電力の件も大事だけど、もっと重要な問題が目の前に転がってる。
視線を向けた先には、広島の背中で眠っている、褐色肌の少年がいた。
「今はそのどちらでもない。……12月25日が来るまではね」
リーチェは嘘っぽい演技を見せることなく、端的に語る。
その表情は悲しげで、どこか遠いところを見つめているようだった。
「……じゃあ、何をしにこんなところまで来たんですか」
「質問ばかりね。一つ答えたら、そちらも答えるのが礼儀じゃない?」
探りを入れようとするも、やんわりといなされる。
話の筋は通っていて、一方的な詮索は難しそうだった。
――だから。
「……電力の復旧は予想外。何がどうなっているか確認するため、ここに来ました。元々、わたしたちが停電を直す予定でしたが、変電所の制御盤は故障。復旧の目途が立たないところ、第三者の介入があったようです。わたしたちが何をしようとしているかに関しては、そちらが答えるまで答えたくありません」
アザミは虚実と真実を交え、最初の疑問にだけ答える。
情報は価値。こんな衆目監視の場で詳細を話せるわけがなかった。
「私の目的は『ジーナ・ロマノフ』。ここにいる感覚系能力者の協力を得るためにここに来た。彼女の願いを一つ叶えることで、私に協力してもらえる約束になってる。今は願いを叶える途中の段階で、電力に関してはノータッチ。犯人と疑うのは勝手だけど、ここにいる白軍の人たちが私の無罪を示す証人よ」
明かされたのは、リーチェの思惑だった。
真偽は不明だけど、情報量は向こうの方が多い。
全てを確かめる術はないけど、電力の件は恐らく『白』。
今は疑うより、合っている前提で話を進めた方が効率的だった。
「奇遇ですね。わたしも用があったのはジーナさんです。詳細は言えませんが、ある作戦を秘密裏に進めていて、その中枢を担うのが彼女。何を願われたのかは存じませんが、先約はわたしなのでジーナさんを解放してもらえますか?」
そこでアザミが行ったのは、質問ではなく警告。
リーチェに切っ先を向け、脅すような形で選択を強制した。
「人気者は辛いわね。決定権は私にないけど、どっちにつきたい? 王女様」
怯える様子もなく、両手を上げて、彼女は話を振った。
矢面に上がるのは一人。リーチェの背中近くに立つ白軍兵。
巨大生物の体内から覚醒都市まで案内してくれた縁のある人物。
「悪いな。俺の願いは『白龍ジークの解放』。より確実なリーチェ案を採用する」
「それって……」
「ここでさよならだ。長いようで短かったが、お前らとの旅も悪くはなかったぜ」
ジーナから唐突に告げられたのは、別れの言葉。
後腐れのない理由を添えられ、計画は白紙になった。




