↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
161/269

第161話 蠢く陰謀

挿絵(By みてみん)





 独創世界『永遠の国(ネバーランド)』。覚醒都市バイカルヴェイ。


 影に覆われた都市内部には、約25万人もの住民が幽閉。


 変圧器の故障により、電力は復旧せず、暗闇に満ちている。


 ――その支配権を握るのは、たった一人。


「………………」


 両腕を手錠で繋がれたソーニャは席に座り込む。


 そこは、覚醒都市中央地下。司令部内にある尋問室。


 机と二脚の椅子と鏡だけが置かれている簡素なスペース。


 天井には三日月状の穴が開き、本来の機能を果たせていない。


 忖度なく言うなら、いつでも逃げ出せてしまう残念な牢屋だった。


「さて……何ができて、何ができないか。実験を開始しようかね」


 話しかけてきたのは、対面に座る薄茶髪の軍人。


 都市上空で見事に敗北した、ドミトリー元帥だった。


 能力の概要は語る前からバレており、後は可動域の問題。


 想像できることが全て実現するなら、どこまで可能になるか。


 それを把握するための有益で建設的な実験が始まろうとしていた。


「じゃあ、まずは手始めに――」


 ソーニャは目を閉じ、意識を集中させる。


 都市の状況を考えれば、一つしか思い浮かばなかった。


 ◇◇◇


「そんな……嘘でしょ……」


 ジーノは都市に異変に真っ先に気付き、足を止める。


 変電所から次の目的地に移動しようとした時、それは起きた。


「で、電力が……」


「復旧した、じゃと……」


 アザミと広島は辺りを見渡し、起きた現象を口にする。


 制御盤が壊れ、数週間は電力が戻らないと分かった後の結果。


 前後の辻褄が合わず、変電所の攻防に関係した人ほど反応は大きい。


「ソーニャの仕業でしょうね。実際の電力ではなく、幻のようなもの」


「先の説明を聞く限り、それ以外ないでしょうな。問題は……どう対処するか」


 一方のロザリアとセルゲイは、冷静に状況を受け止める。


 見聞きした情報から精度の高い予想を立て、先を見据えていた。


「こうなると王女との合流は後回し……。主導権はソーニャに握られていて、どんな手を仕掛けてくるか分からないときた。居場所も掴めていないし、びっくりするほど不利な条件しか揃ってないな……。どうしよう……」


 現状の問題点を列挙するも、解決策は全く見えてこない。


 後攻を強いられるのに、打つ手が読めないのが最大の問題だ。


 状況を理解できるがゆえに雰囲気は悪くなり、場は沈黙に満ちる。


「い、いいえ、計画通りいきましょう。この環境を都合よく利用するんです」

 

 そこに思い切った決断を下したのは、アザミ。


 たどたどしい言葉ながらも、その発言には芯があった。

 

 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ南部。大図書館内、叡智の間。


 白一色で構成される丸い空間。中央には一本の通路と台座。


 台座の上には黄金の手甲が飾られており、装着するのはジーナ。


「さーて、どうっすかな」


 都市における全ての視点、全ての状況を一人で認識する。


 強化された感覚によって、位置も目論見も全て筒抜けだった。


 抱えるのは情報量が多いという贅沢な悩み。一つに絞り切れない。


 情報収集力は群を抜いて優秀なのは明らかだが、決断力に欠けていた。


『君のお腹に宿る子は、都市の存続に関わる。何が起きても絶対に死守しろ』


 そこで思い返されるのは、ベズドナの言葉。


 『教育棟ビル建設予定地』の屋上で起きた一場面。


 数ある選択肢の中から、一つに絞っていいような内容。


「どんな顔して会えばいいんだよ……。育児放棄したこの俺が……」


 ポツリと呟いたのは、決め切れない理由だった。


 もし、逆の立場だったら、一生口利かないレベルだ。


 心を読めば答えは分かるが、私用で覗き見するのは違う。


 この問題は誰がどう言っても、能力に頼るべきじゃなかった。


「失礼してもいい? と言っても、もう入ってるけど」


 そんな時、声をかけてきたのは全く聞き覚えのない声。

 

 後ろを振り返ると、見知らぬ顔と見知った顔が並んでいた。


 ただ気になるのは、発言した本人。長い銀髪に尖った耳の女性。


 黒いロングコートに袖を通し、背は低く、十代前半の子供に見える。


「なんの用だ。余所者のガキが迷い込んでいい場所じゃないぞ」


 正体は知ってるが、知らないフリをして話を進める。


 茶番のように思えるが、立場上、そうせざるを得なかった。


「ただの一般兵がいられる場所にも思えない。そうでしょ? ジーナ・ロマノフ」


 口にしたのは本名。避けようがない肩書きの矛盾。


 経緯は分かるが、認められないというジレンマがあった。


「…………」


 安易に答えることができず、自然と沈黙が生まれる。


 どう答えるかは向こう次第。リーチェの言葉にかかっていた。


「だんまり、ね……。言っとくけど、元帥の許可はもらってる。信じるか信じないかは自由だけど、白軍の面々を率いて『この場』にいることが一応の証明よ。あーだこーだと面倒な探り合いは嫌いだから、手っ取り早く本題だけ伝える」


 つらつらと語られるのは、一方的な状況説明。


 同意を求めることなく、経緯も自己紹介も省略される。


 次の発言によって、否応なく判断を迫られることになるだろう。


 ただ、こちらの視点の場合、聞き手に回った方が何かと都合が良かった。


「あなたの能力を使って、捜して欲しい人がいる。協力してくれるなら、その見返りとして私ができる範囲の願いを叶える。私の心を覗き見た情報を担保にして考えれば、悪くはない条件だと思うけど……どうする?」


 リーチェが提案してきたのは、聞くまでもない条件。


 心で思っていたことを、そのまま実行に移しただけの内容。


 能力を認めざるを得ない条件が揃い、断りづらい空気が生まれる。


 他の面々が介入する様子はなく、ジーナ個人としての見解が求められる。


 ――困ったもんだな。


 嘘じゃないと分かるからこそ、答えあぐねる。


 ここでの決断は、思った以上に大きな波及を生む。


 決断から逃げ続けたこちらとしては、最も嫌な展開だ。


 かといって無視もできず、素直に肯定するのも気が引ける。


 この両手は『今』を全て掌握できるが、『未来』までは読めない。


 選択後の結末が分かれば迷わず決断できるが、そんな贅沢は通らない。


「逆なら考えてやってもいい。……俺が先で、お前が後だ」


 そこで下したのは、表面上における最低限の答え。


 重要なようでいて、大した決断でもない薄っぺらい回答。


 ただそれは、目の前の問題を先送りにしただけにすぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。