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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第159話 情報共有

挿絵(By みてみん)





 未明の砂漠地帯で向き合うのは、二人。


 ローブ姿の徒手空拳で対峙し、視線を交わす。


 『地獄の門』から程近い場所で、行われるのは修行。


 組手というよりも、足運び中心のごっこ遊びに近かった。

 

「うーん……。なーんか、違うな」


 ピタリと足を止め、エリーゼは首を傾げる。


 お手本を再現するだけなのに、上手くいかない。


 知識と経験の乖離。埋まらない溝に頭を悩まされる。


 何かが欠けている気がするも、改善策は浮かんでこない。


「闇雲に身体を動かしても無駄、か。座学も必要かもしれんな」


 その場に座り込むパオロは、傍らのアタッシュケースを開ける。


 そこから水が入ったペットボトルを二つ取り出し、一つを放り投げた。


「――とっとと。それもそうだね。頭冷やして、考えるかー」


 手でキャッチしたエリーゼは、それを額に当てる。


 ほんのりと冷たく、血が上って温まった脳みそを整える。


 パオロと同じように砂地に座り込んで、動から静へと移行した。


「なんにせよ、テーマが必要だな。何から煮詰める? 武術か? 呼吸法か? 足運びか? 人体の構造か?」


 パッと羅列されたのは、関係がありそうなワード。


 そのどれもが『あの動き』に繋がる可能性を秘めている。


 答えが分かるだけ有難く、AからCの間のBを埋めるだけだった。


「ひとまず外堀から固めようよ。今の内に手札を共有しとかない?」


 核心的な答えを見出すより先に優先したのは、現状把握。


 『彼を知り己を知れば百戦危うからず』ということわざもある。


 二人で挑むのなら、お互いのことを知っている方が何かと得だった。


「至極真っ当だし、建設的だな。もちろん構わない。僕の今の主体は剣術だ。北辰流という帝国の流派がベースにある。王位継承戦で出会ったパメラに剣術の知識を脳にインプットされ、達人並みの動きが可能になった。元々は武術……中国由来の七星螳螂拳を得意としていたが、意思能力の縛りで使用不可。体術は問題ないが、七星螳螂拳の型に沿った動きは一切できなくなった。本来は意思能力すらも一か月間縛る予定だったが、不発に終わったことで武術禁止のみが適用されたようだ」


 パオロが明かしたのは、王位継承戦から今までの変化。


 情報は最新にアップデートされ、おおよその力量が分かる。


 先の発言の意味も分かり、知る由がなかった影の苦労が伺えた。


「へぇ……かなり無茶したんだね。相手は誰? 初代王マーリン?」


 話題に上げたのは、パオロが苦戦したであろう相手。


 自然と矢面に上がるのは、王位継承戦のラスボスだった。


 全視点を見ていたわけじゃないから、彼が戦った可能性もある。


「………………覚えて、ないのか?」


 するとパオロは、目を疑うような反応をして語る。


 それはまるで、犯人が目の前にいるような態度だった。


 右と左を見ても誰もおらず、場には気まずい空気が流れる。


 その微妙な間と視線の意味に気付けないほど鈍感じゃなかった。


「え……。もしかして…………わたし?」


 エリーゼは自分に指を差し、確認を取る。


 パオロは静かに首を縦に振って、肯定していた。


 言い逃れる余地はなく、心当たりがないわけでもない。


 体質的な問題であり、今はコントロール下にある強力な形態。


「魔人化の暴走、か……。迷惑かけちゃったみたいだね」


「案ずるな。僕に大事はない。それよか、お前の手札を教えてくれ」


 気に素振りを見せず、パオロは話を進める。


 配慮なのか、本心なのか分からないけど、今はいいや。


「分かった。そんじゃあ、気兼ねなく話を進めるけど、わたしが得意とする意思能力は主に三つ。『空触是色』と『色触是空』と『死者交霊約定リビングデッド』。空触は精神感応型で、白い手に触れた対象に紐づく情報を全て知れる。色触は物体干渉型で、黒い手で触れた対象を物理的に作用させられる。約定は霊体を呼ぶ能力。初代王マーリンが得意としたものと同じだね。脳みそに白杖を突っ込まれ、強制的に能力をインプットされた。その点では、パオロと同じかもね。後付けの能力さ。まぁ、本家よりわたしの方が上らしいんだけどね。初代王曰く、空触と約定を組み合わせれば、100%に限りなく近い精度で死者を呼べるらしい。本家は『観測の魔眼』を使っても、80%が限界だってさ。そんで、魔人化の時は――――」


 つらつらと手の内を明かして、情報と認識を更新。


 前半は知っているだろうけど、後半は彼も知らないはず。


 語りは止まらず、今後の主力になりそうな『魔人化』に触れる。


「ちょっと待って。白杖抜きで死者を呼べるのか?」


 パオロは左手の掌を前に出し、話を止める。


 『暴走』の件よりも、鬼気迫っているように感じた。


「それが魔術でしょ? 違うの?」


 どこに引っかかってるか分からず、問いかける。


 サーラとエリーゼの記憶を総動員しても見当がつかない。


 相互の認識に食い違いはなく、紛れもなく『魔術』に認定される。


「いや、僕の認識が正しければ、それは……『魔法』だ。世界に五人しかいないと言われる魔法使いの条件を満たしている」


 顔を青ざめたパオロは、先に結論を口にする。


 何がどうなって、そうカウントされているか分からない。


「え? こんなしょうもない能力が? 本物の『魔法』はもっとエグイよ」


 上を知っているがゆえに、簡単には同意できない。


 影響が及ぶ範囲は世界規模で、再現性がないのが『魔法』。


 再現性がある能力が『魔術』で、『意思能力』は個人技という認識。


「能力の大小は関係ない。特定の概念を超越したものが『魔法』と呼ばれる。お前の場合、道具を経由する必要がある『魔術』の工程を省き、能力を行使できると言った。それが事実なら、『魔術』の概念を超えている。つまり、『魔法』という扱いになるはずだ。覚える容量に限界がある『意思能力』とはワケが違う」


 そうパオロは力説するも、いまいち理解が及ばない。


 恐らく認識に齟齬があり、過去と現在で『魔法』の重みが違う。


「どう違うっての? 凄さが伝わらないんだけど」


 本筋から外れるのを感じながら、興味が引かれる話題。


 あの魔法使いに並ぶかもしれないと考えれば、心が少し躍る。


「恐らく、お前の真骨頂は……『学習能力ラーニング』だ。個人で限りのある『意思能力』の容量を消費せず、能力を見る、食らう、触れるなどして、際限なく覚えられる。今は白杖由来の『死者交霊約定リビングデッド』だけだろうが、将来的には……」


「概念超越の複数持ち。『大魔法使い』も夢じゃない、か。悪い気はしないね」


 与えられた情報から、大言壮語とも言えない名称が思い浮かぶ。


 『魔術』を超越した前例があるなら、他の概念を超える可能性もある。


 今の能力から連想できる延長線上にあって、不可能とは言い切れなかった。


「まったくお前は、良い意味で化け物だな。同じ血筋なのが信じられん」


 呆れたような表情を作り、一歩引いた目線でパオロは語る。


 劣等感を感じているというより、素直に賞賛してるのが伝わる。

 

「能力抜きなら何者でもないけどね。今さっき痛感したよ」


 昔なら調子に乗ってただろうけど、口が裂けても言えない。


 あの門番を能力抜きで突破できない、という現実が頭を冷やす。


 重い役職も捨てたし、浮ついた気持ちもなく、地に足をついていた。


「大人だな。僕より遥かに年上の相手と接してるみたいだ」


 ポツンと取り残されているように、パオロは語る。


 分を弁え、小さく見せ、少年であることを忘れさせる。


 彼こそ大人びていて、とても子供とは思えない反応だった。


「12歳か、13歳。わたしたち同年代でしょ。大して差はないって」


「お前だけなら例外で済むが、僕の周りには化け物が多すぎるんだよ」


「……他に誰かいたっけ?」


 元気付けるように話を振るも、別の人物が浮上する。


 パッと頭に思い浮かばず、流れるようにその正体を探った。


「ジェノ・アンダーソン。お前の兄なんだろ。恐らく義理のな」


 話題に上がったのは、人生における重要人物。


 当たり前すぎて、候補の中にすら上がらなかった相手。


「あーね。そう思うのも無理ないかも。でも、突き詰めれば、わたしたちとお兄は同じ土俵だよ。『白き神』を宿してなければ、『秀才』ぐらいの評価が適切。成長の余地を残した若き蕾なのは変わりがない。落ち込むのは、そうだなぁ……おじいになってからじゃない?」


 過大評価も過小評価もせず、ジェノの今の実力を論ずる。


 成した偉業の数は、現時点でも凄いけど、依存先が強すぎる。


 ジェノ個人の実力で成し遂げたかと聞かれたら、素直に頷けない。


 まぁ本人が一番分かってるだろうし、いちいち言う必要もないけどね。


「そう言われれば、確かに……。気にし過ぎは毒だな……」


「そのとーり。これで外堀は埋まったし、こっからは攻略に全力集中!」


 意義のある雑談を終え、現状の情報整理が終わる。


 客観的に見れば現実逃避に近く、ここからが本題だった。

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