第157話 連動する魂
特命担当大臣。伊勢内閣における重要なポスト。
特定の重要課題に対応するために、任命される役職。
常設の官庁を持たず、担当分野に応じた省庁と連携する。
事務処理と橋渡しが肝要で、コミュニケーション能力が必須。
その対極に位置する口下手な伊勢神宮が選んだのは、厄介な相手。
一度は命を奪い合い、極限まで追い込まれたからこそ、あえて任じた。
「……さて、お出番のようね」
国会議事堂から現れたのは、黒スーツを着た短い金髪の女性。
清廉潔白、容姿端麗を擬人化したような美貌を保ち、右手には白鳥。
かつて『ゼウス』と呼ばれた元教皇の置き土産は、遺憾なく力を発揮する。
「聖を以て邪を滅し、徳を以て怨みに報いる。
我、この理に殉じ、神罰の代行者とならん」
特命担当大臣『霧生ユリア』は幾度も繰り返す。
同じであって同じでない展開を何度だって焼き回す。
詠唱は同じでも、肩書きが違う。敵と味方と相手が違う。
纏いし力は同じでも、目的が違う。熱量が違う。責任が違う。
時と場合と体調と気分に左右され、全く同じ日は二度と訪れない。
過ぎ去りし時に思いを馳せながら、彼女の全身を覆ったのは純白の鎧。
背中に生えた白と黒の翼を羽ばたかせ、無数の羽根を空中に散布していく。
「今度はお加減なしの――黙示録八章」
短い詠唱と共に、白と黒の羽根が形作ったのは小さな悪魔。
角と羽根と尻尾を有し、ボサボサの金髪に黒のドレスを着る少女。
エリーゼと瓜二つの様相を呈し、世界の分岐点に連動して生まれた存在。
「………………」
奈落の王は目を覚ます。白い意思を纏い、右手をかざす。
大量の蝗を眼前の空間から生み出し、世界の終わりを加速させた。
◇◇◇
トルクメニスタン。アハル州タルヴァザ。
『地獄の門』から視線を外し、夜の砂漠を歩む。
灰色のフードを深く被り込み、世界から目を背ける。
明確なゴールはなく、終わりの見えない旅路が始まった。
「どこで間違えたのかな……」
エリーゼはポツリと独り言を呟いた。
誰かに答えは求めず、自分自身に問いかける。
それが正しい行いだと信じて、自分だけの答えを探す。
「まだ始まってもいないさ。そうだろ? サーラ」
突如、近くから聞こえてきたのは、覚えのある声。
声変わり前の澄んだ音色で、発言からして正体は明らか。
「何の用? パオロ・アーサー」
振り返るとそこには、黒いローブを着る金髪の少年がいた。
王位継承戦を共にした元仲間。組織『ブラックスワン』の元同僚。
背中には黄金の鞘に収まる直剣。左手には黒のアタッシュケースを持つ。
「お前の監視が僕の任務なんでな。地の果てでも尾行してやる」
惜しむことなく彼が明かしたのは、ここにいる目的。
『ブラックスワン』の存在意義を考えれば、納得がいく話。
超常現象になり得る存在は監視する。至極真っ当な理由だった。
「あっそ。勝手にしたら」
特に突っ込むことはなく、警戒する相手でもない。
そっぽを向いて、不干渉を貫き、自分の歩みに意識を割く。
「……で、どこに向かうんだ。昔のよしみで教えてくれたっていいだろ?」
足並みを揃えるパオロは、ラフな感じで問いかける。
行き先は決まってないけど、本音を伝えるのは嫌だった。
仮初の目的地を考えていると、ふと頭に浮かんだものがある。
「地の果て……」
「は? なんだって?」
か細い声で目的を告げるも、パオロには届かない。
本当に聞こえていないのか。聞こえてないフリなのか。
冗談、というのは気が引けるし、撤回するのもなんか違う。
「だから、地の果て! これからわたしは地獄へ行く!!」
わざと紛らわしいように英語で伝え、印象に残す。
聞こえなかったとは言わせない。任務放棄も許さない。
地獄に道連れにしてやる。今決めた。絶対引き下がらない。
断固たる決意をもって、旅の相棒になるであろうパオロを見る。
「ふっ、乗ってやるよ。そのために僕はここにいるんだからな」
反論することなく、彼は快く言い放つ。
これも組織の計画通りなのか、計画外なのか。
どちらにせよ次の目的地が決まったのは確かだった。




