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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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156/269

第156話 終わりと始まり

挿絵(By みてみん)





 ホテル内を隈なく探せど、誰もおらん。


 すれ違うのは、早起きの客とスタッフばかり。


 施設外に出て、周辺をあてどなく彷徨うこと数十分。


 良からぬ事件に巻き込まれたと思った矢先、それは起きた。


「……始まってしもうたか」


 強烈なセンス反応。同時に複数発生した意思衝突。


 一つは皇居前広場。もう一つは国会議事堂前じゃった。 

 

 帝の現在地は捕捉できたものの、どちらも捨て置けん状況。


 身体は一つしかなく、両方を同時に対処することはできなんだ。


「おるか、影明かげあき


 千代田区の路地裏で、亀之助は虚空に声をかける。


 人通りのなかった空間に、突如現れたのは黒装束の男。


 不揃いな白の前髪が陰鬱な雰囲気を醸し出し、襟足は長め。


 戦術的衣装風の外骨格を纏い、背中には長さが異なる三本の刀。


 忍者と呼ぶには現代的で、剣士と呼ぶには異端とも言える風貌じゃ。


「はい、ここに」


 片膝をつき、感情を込めず、影明は問いかけに応じる。


 口数は少ないが、実力は確か。頼れるだけの立場にもおる。


「国会議事堂方面を偵察して参れ。必要とあらば……介入しろ」


「御意」


 端的な指示を送り、 影明は姿を消した。


 後顧の憂いを断ち、目の前のことに集中できる状態。


「さて、行くか……」


 亀之助は迷うことなく、皇居前広場を目指す。


 身軽になった心に反して、身体はずっしりと重かった。


 ◇◇◇


「…………そこ、までじゃ」


 亀之助は菜箸を両手で扱い、蹴りと拳を止める。


 ルーカスと帝。その両者の戦いに介入し、衝突を阻止。


 巻き込まれかけた二名、楓と一心を助ける形となっておった。


「助かりました、元帥」


「……恩に着ます、総隊長」


 反応を示したのは、正体を知る帝と一心じゃった。


 呼ばれた肩書きこそ違うが、どちらも本質的には同じ。


 大日本帝国の国防を背負っとることに、変わりはなかった。


「してルーカスよ。この状況に、どう落とし前をつけるつもりじゃ」


 亀之助は菜箸を下ろし、義足の男に問いかける。


 首謀者であるのは明らかであり、動機も想像がつく。


 以前と人格が同じなら、帝絡みのいざこざで間違いない。


「そうは言われても、いまさら引くに引けねぇんだよな……」


 義足を下ろすものの、ルーカスは渋い反応を見せる。


 こうなってくると嫌でも知る必要が出てくるのは、目的。


「憲法9条の一部を改正。特定外来種の中でも『鬼』と『悪魔』にはビザを発行し、国への貢献が認められれば、定住権を与える。これでいかがでしょう?」


 帝が口にしたのは、相手が欲するものを与えるような案。


 想定とは違うが、逆算すれば『憲法改正』がルーカスの狙いとなる。


「な……っ!? そんな簡単に……。今までの喧嘩はなんだったんだよ」


 驚いたと思いや、げんなりとした顔を作り、首謀者は愚痴る。


 嘘をついたような様子はなく、念願叶ったと見てほぼ間違いない。


 謀るつもりなら、大した役者じゃ。世界的に活躍できる演技じゃろう。


「衝突があったからこその結果です。誇っていいですよ」


「あーそうかよ。せいせいするぜ。……お前ら戻ってこい」


 険悪なまま会話は終わり、ルーカスは指示を飛ばす。


 すると、周囲の空間が歪み、そこから出現したのは四名。


 男谷と疋田に加え、袈裟の老人と貴族服の男性が立っていた。


 後の二名は悪魔的特徴を有し、老人はサイコロ、男は大剣を持つ。


 先刻まで戦っていたのは明らかで、手綱はルーカスが握ってるらしい。


「要望は通った。俺たちの戦いは終わりだ」


 端的に、しめやかに状況を説明し、締めくくる。


 幸い、どちらも血は流れず、遺恨は残らなそうじゃった。


「一件落着といったところかの。じゃったら、共有しておきたいことがある」


 終わりに向かう空気を読み、新たな始まりを提供する。


 各々の表情が引き締まり、真剣な空気が流れるのを感じる。


 冗談では済まない中、話題に上げるのは、避けては通れん問題。


「国会議事堂前の戦に参戦するか否か。双方のご意見を伺おうかの」


 ◇◇◇


 風を切り、屋上を蹴りつけ、朝焼けの千代田区を見下ろす。


 ビルやマンションを次々と飛び移り、目指すのは国会議事堂前。


 そう遠い場所ではなく、あの路地裏からの道のりは、おおよそ1km。


 強化外骨格の脚力を使えば、60秒も経たずにして到着できる距離にある。

 

「…………」


 影明は、与えられた任務を黙々と全うする。


 一言も愚痴をこぼすことなく、政府の犬となる。


 定めであり、役割であり、そこに人権は存在しない。


 『特異体』には、国家に服従する以外に生きる資格はない。


 この身体は呪われている。災禍を振りまく悪鬼羅刹に成り得る。


 『鬼』や『悪魔』などでは生温い、負の成長性と可能性を秘めている。


 ――飼われていた方が有難い。


 粗相があれば、いつでも首を切っていただける。


 その安心感たるや、筆舌に尽くしがたいものがある。


 首輪に繋がれた方が楽な人生もあると日々痛感していた。


「――――」


 取り留めもない思考を並べていると、見えてくる。


 左右対称の構造でそびえ立つ、政治の中枢。国会議事堂。


 中央にはピラミッド型の白い建築物があり、正門は閉ざされる。


 ――問題は施設ではない。


 目を向けたのは、門前で争う多種多様な面々。


 街路に面した植え込みの影に隠れ、様子を伺った。


(見ている、場合ではない……)


 すぐさま悟った。あれは介入せざるを得ない事態。


 背中に両手を伸ばし、右手に太刀、左手に脇差を装備。


 通常形態の万全を期して、植え込みから前に出ようとした。


「邪魔する気なら戦おうよ……お兄さん」


 そこに立ち塞がったのは、桃色髪をしたゴスロリ服を着た女鬼。


 両手の爪を尖らせ、嗜虐的な笑みを浮かべ、戦闘を待ち詫びていた。

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