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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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155/269

第155話 深み

挿絵(By みてみん)





 皇居前広場上空。朝日が後光のように帝を照らす。


 そこで振るわれるのは、なんの捻りもない正拳突きだ。


 右手を突き出し、打撃が衝突すると同時にセンスを込めた。


 ――体術と意思能力の基礎中の基礎だ。


 少しの知識と経験さえあれば、誰でもできる芸当。


 複雑な能力開発は不要で、オリジナリティの欠片もねぇ。


 『回転』は込められず、肉体と精神と間と意思と武術で成り立つ。


 ――格闘技は殴り合ってるだけで、浅い。


 よく言われることだが、俺は見る側に問題があると思ってる。


 この手のタイプは大抵、机仕事で結果を出す頭脳労働を崇拝する。


 逆に肉体労働で汗水を垂らして働いてる人を見下す、って野郎が多い。

  

 格闘技や殴り合いも、その延長線だろうな。体を張る作業を馬鹿にしてる。


 何が起き、どんな意図があり、間や読みや緩急、力や腰が入っているかどうか。


 ――ぜーんぶまとめて『浅い』と決めつける。


 殴り合ってるだけで片づけ、深く知ろうともしねぇ。


 知ったような口を叩いて、大して調べたりもしねぇ。


 使い手の努力と成長と背景に目を向けたりもしねぇ。


 ――『確証性バイアス』ってやつだ。


 自分に都合のいい情報しか、受け入れないし、信じない。


 それ自体を否定はしねぇが、『浅い』のはどっちなんだろうな。


 偏った知識で物事を判断する『頭脳派』は、果たして『深い』のか。


 この攻防の良し悪しを理解する『肉体派』は、学のない『馬鹿』なのか。


 ――答えはどちらも正しいだ。


 目的や状況によって正解は変わり、適材適所が求められる。


 人には向き不向きがあり、戦闘の『深さ』に気付くのも才能だ。


 それ以外のことは何もできず、『頭脳派』に頼る状況だってあり得る。


 そもそも、人の考え方で『正しい』『間違ってる』って論争が非生産的だ。


 行き過ぎたら法やルールが裁く話で、赤の他人にジャッジされる言われはねぇ。


 ――ただ俺は、『分かる側』で良かった。


「―――っっ!!!?」 


 グシャリと音を立て、破片に変わるのは銀色の義足。


 努力も成長も前提も、完膚なきまでに粉々になっていく。


 芸術的とも言える『阿吽』を前にして、俺の片翼はもがれる。


「…………」


 その先に見えたのは、帝の哀れむような目線だった。


 見下してるわけじゃねぇが、この場での勝利を確信してる。


 喜ぶって安易な感情じゃねぇが、勝ちが見えたからこその綻びだ。


 実際、五体満足でも厳しいのに、片足がない状態で勝つのは困難だろう。


 ――でも、なんでだろうなぁ。


「……………………………………………………へへっ」


 不思議と笑みがこぼれてきやがる。


 自分でも理解できねぇ感情ってやつだ。


 賞賛か、諦観か、それとも、勝つつもりか。


 訳も分からねぇまま、無意識的に体は動き出す。


 欠けた左足を補うようにして、青いセンスを纏った。


 それで動き出す保証はねぇし、まるで理屈は通ってねぇ。


 ただ残酷にも時は進み、俺が取った愚かな行動に判決が下る。


「――――」


 空中に飛散した破片の一つ一つが左足に『吸着』する。


 詠唱も、意思も破棄した状態で、無意識的に形を構成する。


 継ぎ目が消えることはねぇものの、それは確かに実体を持った。


「さすがは……〝幻想の左足〟。夢は夢で終わらねぇってな!!!」


 破壊された先に待ち受けていたのは、創造。


 もがれた片翼を取り戻し、自由自在に飛び回る。


 詠唱の必要はなく、身体の一部のように宙を舞えた。


 飛躍的な進化を遂げて、戦いは次のラウンドに移行する。


「「――――――っ!!!」」


 蹴りと拳が衝突し、激しい閃光を散らしていく。


 何度も、幾度も繰り返し、空中戦を展開していった。


 どれも決定打に欠け、両者は重力に引かれ、地上が迫る。


 持ち直したのは間違いねぇが、奇跡で実力の差は埋まらねぇ。


「「…………」」


 示し合わせたように、俺と帝は互いの後方に着地。


 地に足をつき、視線を交差させ、次の一手を探っていた。


「見事ですね。並みの使い手なら破れていたでしょう」


 帝は余裕ある態度で今の攻防を賞賛する。


 世辞は言わねぇタイプだから、恐らく本心だろう。


 一国の王に褒められて悪い気はしねぇが、勝負はついてねぇ。


「いいから構えな。次の攻防で決着をつける」


 バッサリと切り捨て、両手を地面につき、前を向く。


 右膝を曲げ、左足を後方に下げ、全力を出せる姿勢を作る。


「いいでしょう。次こそは、その心根を折り砕いて差し上げましょう」


 帝は右拳を腰で置き、軽く握った左手を前に出す。


 互いに同じスタイル。同じ戦闘方法だが、中身が違う。


 時が過ぎるごとに変化して、二度と同じ結果は生まれない。


 例え引き分けに終わったとしても、全く同じようにはならねぇ。


 ――これだから戦闘は止められねぇんだ。


「「…………」」


 互いにセンスを絶ち、捨て身の刹光で挑む体勢を作った。


 失敗すれば命が危ういが、それは今に始まったことじゃねぇ。


 譲れない思いがある以上、命を懸けてでも貫き通す価値はあった。 


 ――お前もそうなんだろ。


「「―――――」」


 それ以上の言葉を交わすことなく、行動を開始する。


 互いに前進して、退路を断ち、一直線に敵の元へと迫る。


 加減する余裕はなく、体を気にかけてやるほど優しくはねぇ。


「――――――らぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


「――――――はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 互いに叫び、蹴りと拳。得意なスタイルで攻め入る。


 防御や回避という概念はなく、ただ目の前に思いをぶつけた。


「「…………」」


 そこに突如現れたのは、一人と一匹。


 戦闘を終えた楓と一心の姿が目に入ってくる。


(止め……らんねぇ!!!)


 頭で理解するものの、身体がついてこなかった。


 放たれた蹴りと拳は、割って入る二名に襲い掛かる。


 予想打にしてなかったようで、防御する体勢は見えねぇ。


 巻き込み事故ってやつだ。このままいけば、どっちかが死ぬ。


 そう考えながらも時は流れ、止まらない蹴りが衝突しようとした。


「…………そこ、までじゃ」


 そんな時、聞こえてきたのは年老いた男の声。


 黒の軍服に身を包み、両手に菜箸を持つ老人がいた。


 放たれた蹴りと拳は、菜箸につままれ、見事止まっていた。

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