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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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154/269

第154話 超伝導疾駆

挿絵(By みてみん)





 朝の皇居前広場。そこで手合わせするのは、一人の男性。


 ボサボサの黒髪に無精ひげを生やし、黒のロングコートを着る。


 インナーは黒のシャツ、ボトムスは黒のチノパン、右足は黒の競争靴。


 ――見た目の大半は黒一色。


 色味のなさから来る威圧感と、ある種のこだわりを感じる。


 人の趣味嗜好に口を挟む資格はないものの、無難とは言えない。


 ドレスコードが厳しい会合やパーティでは、弾かれるであろう服装。


 ――加えて、群を抜いた奇抜さが他にもある。


「それには見覚えがありませんね。戦地で不覚でも取りましたか?」


 帝は距離を取り、ふと問いかける。

 

 嫌でも気になったのは、銀色の左義足。


 以前、対談した時には記憶になかった器具。


 膝先から踵までの筋肉運動をサポートしている。


 少なくとも、ここ一年以内に出来た傷で間違いない。


「まぁ、そんなところだ。おかげさまで前より快調だがな」


 ルーカスは義足を動かして、明るく言い放つ。


 肉体の一部のように連動し、その言葉に偽りはない。


 ハンディキャップを背負った相手と侮れば、痛い目を見る。


 ――それに。


「言葉通りの意味ですか? もしくは……」


「じかに体験してみろよ。ガキじゃねぇんだからさ」


 探りを入れたところ、ルーカスは軽く受け流す。


 そして、両手を地面につき、左足に力を込めている。


 速度重視の構え。あの義足の性能が嫌でも試される場面。


「受けて立ちましょう。もとより戦いは避けられません」


 右拳を腰に置き、左手を軽く握り、前に出す。


 般若無道流の構えを取り、自ら後手に回っていく。


「よーい、ドンだ!!」


 ルーカスは軽快なスタートを切り、猛進。


 凄まじい勢いで、一直線に距離を詰めてくる。


 義足による脚力だけでは、説明がつかない敏捷性。


 ――ただ。


「……目で追えないほどじゃありませんね」


 放った右拳は、放たれた左義足と空中で衝突。


 銀と青の異なるセンスの火花を散らし、相打った。


 力と意思とタイミングは拮抗し、速度も差はつかない。


 底と見るべきか、底知れないと見るべきか、迷っていた時。


「――中断キャンセル


 ルーカスが言い放ったのは、不可思議な音色。


 それと共に彼の姿は視界から消え、気配を見失う。


 かすかに揺れる風の音を頼りに、背後に裏拳を放った。


「「――――」」


 同様の火花を散らし、同様の結果が訪れる。


 拳と蹴りが空中で衝突し、体術とセンスは拮抗。


 能力は未だ不明だったものの、どうにか対応した形。


「――中断キャンセル


 さらにルーカスは繰り返す。同じ文言を告げる。


 今度は見失うまいと、目を凝らし、その動向を伺った。


「…………」


 目の端にかすかに捉えたのは、義足の燐光。


 ルーカス特有の青いセンスを宿し、駆動している。


(義足の効果は身体能力の向上……? いいえ、それにしては……)


 ぱっと思いついたのは、安直な予想。


 すぐさま否定するものの、代替案は出ない。


 熟考できる暇もなく、訪れるのは加速した足払い。


「……っ」


 回避を余儀なくされ、地を蹴り、真上に跳躍。


 地上に残るルーカスは笑みを浮かべ、こう言った。


中断キャンセル――――【絶空エアリアル】!!!」


 足払いの硬直を消すように、動作をキャンセル。


 流れるように跳躍し、こちらに飛び蹴りを放っていた。


 ここまで見れば分かる。おおよその能力は感覚で理解できる。


(磁力の操作。反発と吸着による可変運動。応用すれば恐らく……)


 目の前の現象に囚われず、二手先三手先を読む。


 もうひと捻りある前提で考え、それを計算に加える。


 考える間にも距離は詰まり、飛び蹴りは腹部に届く寸前。


 センスを絶ち、神経を研ぎ澄ませ、タイミングに心血を注ぐ。


中断キャンセル――【地縛ジアース】」


 義足の燐光が見え、急停止し、身体は引き寄せられる。


 恐らく、体内の磁気を吸い寄せて、体勢を崩すのが目論見。


 刹光のタイミングをずらして、カウンターを打つのが真の狙い。


(――壊すのは惜しいですね)


 帝は勝利を確信していた。やる前から決まっていた。


 すでに成功するビジョンは浮かび、失敗する気がしない。


 後は映像を再現するだけであり、0コンマ以下の誤差は出ない。


「――――――――――――阿吽」


 帝が繰り出すのは、右手正拳突き。


 世界が割れる。亀裂が走る。銀光が迸る。


 ズラされたタイミングの先にあるセンスの衝突。


 先の先を読み、敵を信用した上で成り立つ高度な攻防。


 打撃とセンスの発生に誤差は存在せず、その恩恵は強力無比。


「―――っっ!!!?」


 銀の義足を打ち砕く一撃。致命的な損失を与えていた。

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