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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第153話 口上

挿絵(By みてみん)





 足元に見えるのは、マス目と巨大なサイコロ。


 奥には平原が広がり、果てや終わりは見えやせん。


 そんな陳腐な世界に迷い込んだのは、細身で白髪の男。


 黒の軍服を着て、長くうねった前髪の隙間から状況を悟る。


「きひっ、双六ですか。これはまた奇天烈なことをしてくれる」


 蛇腹刀を握る手を緩め、あっしは感想を口にした。


 恐らくルールはサイコロを振り、ゴールを目指すもの。


 独創世界の理と考えれば、安易な近道は罰則が待ち受ける。


 ルールを守らせ、地道に進ませ、時間を稼ぐのが目的でしょう。


 戦闘特化ではなさそうですが、帝との分断が狙いなら、うってつけ。


「さてさて、世界の主も見えないことなら、さっさと……」


 サイコロに手を伸ばし、あっしは攻略にかかる。


 うだうだと考えて止まるより、進む方が効率的でした。


『ルール変更。フィールド闘技場。タイマン仕様』


 そこで聞こえてきたのは、老人声のアナウンス。


 世界の主の介入であり、景色が変わっていきやした。


 コロッセオのような円形の観客席が見え、中央には砂地。


 足元にあるマス目は消え、名残として残留するのはサイコロ。


「ルールの説明をお願いできやすかね。……ご老公」


 あっしは視線を正面に向け、問い質す。


 見えてきたのは、袈裟を着る坊主頭の悪魔。


 顔は皺だらけで、かなりの歳を重ねられた印象。


 正体は見当もつきやせんが、只者じゃないのは確か。


 ルールを抜いても、骨が折れるのは間違いねぇでしょう。


「行われるのはターン制のバトル。先攻と後攻に振り分け、交互にサイコロを振る。出た目に応じて、追加効果が発生。一回の攻防が終わるまでを1ターンとし、それ以外での戦闘行為と反撃は禁ずる。どちらかが倒れるまで勝負は続き、出目に応じた追加効果に関しては適宜説明する。……これで納得いったか? 若人よ」


 ご老公は問いかけに応じ、明らかになったのはルール。


 先ほどのマップに比べれば、短期決戦型のシンプルな仕様。


 相手を倒す。それだけで済むなら、願ってもない展開でしょう。


 唯一の懸念点はサイコロの出目ですが、気にしても仕方ありやせん。


 攻防前に説明が入るんであれば、その時に考えりゃあ済む話でしょうね。


「ええ、問題ありやせん。順番もサイコロの出目で決める感じですかね?」


 説明と状況を受け入れ、事務的な会話を進める。


 相手を掘り下げる必要性はなく、勝敗が全てでしょう。


 背景を知ったところで、戦術的優位性はなさそうですからね。


「ここは我の土俵。ルールを強いる代わりとして、順は自由に選ぶといい」


 ご老公の懐は深く、紳士的な反応を示された。


 見かけによらず、フェアプレイ精神があるようです。


 残る問題は、『先攻』か『後攻』どちらを選ぶかでしょう。


 ルールや定石、経験則から考えりゃあ、答えは決まっとります。


「では、お言葉に甘えて『先攻』を頂きましょうか」


 中央に置かれたサイコロを手に取り、あっしは言いました。


 出目がなんにせよ、攻防が強制されるなら『先攻』が有利でしょう。


「……」


 ご老公は首を縦に振って、黙認。

 

 表情に色はなく、淡々と進んでいきやす。

 

 後は振るだけですが、気になることがありやした。 


「その前に……ご老公の名を伺ってもよろしいですかね?」


 ただの興味本位であり、勝敗には関係ない要素。


 無礼な輩なら気にも留めなかったでしょうが、彼は別。


 態度、物腰、立ち振る舞いからして、高名な方に感じやした。


 知ったところで意味はねぇですが、聞きたいもんは仕方ありやせん。


 ――気になる答えは、ご本人の口から語られやす。


「南光坊天海。それ以上でもそれ以下でもありはせぬよ」


 ◇◇◇


 視界に広がるのは、派手な装飾が見える宮殿内部。


 駆けるのは廊下。目の前には敵の後ろ姿が見えていた。


 黒の貴族服の長い燕尾と、黒の尻尾を揺らし、逃走を計る。


「逃げるな、卑怯者!! 男なら戦え!!!」


 男谷は身幅が太い剛刀を振るい、斬りつけた。


 だが、どれも空振りに終わり、見事に躱され続ける。


「価値観を押し付けないで欲しいものだね。時と場合によるだろ」


 飄々とした態度で、正装の男は逃げ回る。


 斬りつけられた廊下を巡り、現実逃避を続ける。


 目的が『時間稼ぎ』と分かるがゆえに、やきもきする。


「じれったい……。そちらがその気なら、無理にでも押し通る!!!」


 赤のセンスを纏い、男谷は剛刀を上段に振りかぶる。


 情けも容赦もなく、渾身の力を込め、地面に叩きつけた。

 

 廊下は割れ、床は抜け、一階分ほど武舞台は地下に移行する。


「…………ふっ」


 その最中、正装の男は不敵な笑みを浮かべていた。


 まるで、この展開を読んでいたと言わんばかりの態度を示す。


「何が可笑しい!!!」


 額に筋を浮かべ、空中を蹴りつけ、剛刀を振りかぶる。


 二の句を継げる暇すら与えん。この一撃で決め切ってやる。


 見る見ると距離は詰まり、着地する寸前で敵の背中を捉えた時。


「――――」


 正装の男は何かを手にし、力強く振るう。


 甲高い金属音を奏で、剛刀は空中で停止していた。


 ワンテンポ遅れて、障害物となった物体が目に入ってくる。

 

「バスターソード。そいつがお前の得物か……この西洋かぶれが!!」


 和と洋の剛刀が衝突し、誘い込んだ理由が判明する。


 落ちた場所は武器庫。クラシカルな西洋の武器が並ぶ地点。


「ここは僕の実家でね。君には正体を明かしておこうか」


 刃を弾き、正装の男は距離を取り、指を鳴らす。


 燃え盛るようなエフェクトと共に姿形は変わっていく。

 

 露わになるのはハーフアップの黄色髪に、女性用の黒ドレス。


 黒い刀身のバスターソードを握り込んで、彼女は力強く言い放った。


「僕は……いいや、私の名はミネルバ・フォン・アーサー。イギリス王室の王位継承権第一位。これから相手取るのは、英国において最も華やかで、最も紳士的で、最も王室の意思を継いだ、最も王道に近い使い手だと心得よ!!!」

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