↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
152/269

第152話 独創世界『遊楽花柳』

挿絵(By みてみん)





 夜闇を彩るのは、淡い行燈の明かりだった。


 石畳を照らし、左右には二階建ての遊郭が並ぶ。


 人通りはなく、正面に立っているのは花魁風の女鬼。


 黒角と黒羽根と黒の尻尾を有し、灰色の着物に袖を通す。


 銀色の後ろ髪は金の簪で結われ、右手には蒼色の扇子を持つ。


 厚底の黒下駄を軽快に鳴らし、艶やかな色気を纏い、口を開いた。


「ワテは第一級悪魔、鬼道楓。どうぞよろしゅうございます」


 自称が鬼だろうが悪魔だろうが、どうでもいい。


 それより気になったのは、彼女が口にした名前だった。


「誰かと思えば、閻衆の元親分か……。どうやら奇妙な縁があるらしい」


 思い当たる節があり、すぐに襲い掛かりはしなかった。


 握る刀の切っ先をわずかに下げ、必要最低限の敬意を払う。


 戦うことに変わりはなかったが、対話に時間を割く価値はある。


「『滅葬志士』元副棟梁、千葉一心。今は特別陸戦隊の隊長みたいやね。弟分が世話になったみたいで感謝しとるよ。厚かましいようやけど、そのよしみで聞く耳を持ってくれると嬉しいんやけど、どない? もちろん悪いようにはせんで」


 流暢な大阪弁を扱う楓は、取引を持ち掛けてきた。


 反論の余地を与えないように、情報を詰め込んでいる。


 断り切れない空気を作り、取り入ろうとする気配を感じた。


「条件次第だ。ここから即解放するなら聞いてやってもいい」


 罠である可能性も考慮しつつ、あえて踏み込んだ。


 切っ先を地面に向け、対面上は誠意があるフリをした。


 もちろん即応戦可能だが、刀を向けては話し合いにならん。


 縁があるのも事実で、鬼だからと言って無碍にはできなかった。


「折り合いがつけばそれも可能やね。立ち話もなんやし、お茶でもどう?」


 楓は近くにある遊郭を指差して、誘い込む。


 ここは敵の土俵であり、能力に関わる可能性が高い。


 万全を期すなら、路上で話すのがベストだが、果たして……。


「お茶は結構だが、前半部分は同意する。案内しろ」


「聞き分けのいい子は好きよ。ほなら、行きましょか」


 ひとまず納刀し、敵の出方を伺うことにした。


 不審な動きがあれば斬る。それだけで済む話だった。


 ◇◇◇


 靴を脱ぎ、案内されたのは遊郭の二階。


 五畳ほどの狭い和室で、寝床が用意される。


 料亭での自由恋愛を装った、売春現場そのもの。


 異種族に興味はないが、文化的背景があるのは確か。


 観察するだけでも、人生経験として価値がある気がした。


「興味あるなら試してく? お兄さんなら――」


「結構だ。さっさと本題に入ってくれ。こっちには時間がない」


 冗談めかして関係を迫る楓を一蹴し、話を切り出す。


 時間を稼がれては本末転倒だ。情事にうつつを抜かす暇はない。


「残念。……早速やけど、単刀直入に言わせてもらう」


 前置きを挟み、楓は真剣な眼差しを向ける。


 距離は密着で、数センチ程度しか離れていない。


 戦闘か、能力発動を念頭に置いた上で、耳を傾けた。


「ワテの密偵になってくれん? 悪いようには扱わんから」


 切り出してきたのは想像の範疇にある提案。


 向こうは向こうなりの派閥争いがあるのだろう。 


 仮想敵は義足の男が率いていた取り巻きと思われる。


 情報戦になった場合、人の協力があった方が有利に運ぶ。


 鬼の片棒を担ぐなど言語道断だが、閻衆の恩師なら話は別だ。


「密偵とはどこからどこまでを指す。帝周りの情報は話せんぞ」


 許容範囲であるがゆえに、前向きに応じる。


 内容によっては、引き受けてやっても良かった。


「ワテが知りたいのは『滅葬志士』関連。古巣を売る覚悟はある?」


 具体的に明かされたのは、特定の団体。


 特定外来種の討伐に重きを置いた、隠密部隊。


 密偵とは皮肉なもので、対極的な意味になっている。


 それも、元副棟梁という立場もあり、間違いなく顔が利く。


 さらには、父であり総棟梁の千葉一鉄の名前を出せば一発だろう。

 

 ――ただ。


「相手によるな。こう見えても俺は義理堅い。世話になった人を売る気はない。関係値が薄い人であれば情報提供してやってもいいが、どうする? お前が貶めたいのは『滅葬志士』という組織じゃなく、特定の個人なんだろ?」


 楓の狙いにおおよその当たりをつけ、探りを入れる。


 的を得ていたのか、彼女の顔色は変わり、真顔になっていた。


「あぁ、どうしても仇討ちしたい相手がいる」


 声色を落とし、楓は目を細め、内容を認める。


 そんな気がしていた。おおまかな想像はついていた。


「聞かせろ。お前の怨みを買った相手は一体誰だ?」


 みやびフェス大阪の関係者であり、鬼道楓の死因。


 四十七都道府県に配置された『滅葬志士』大阪支部の棟梁。


 ――その名は。


「藤堂元気。あいつを始末できるんなら、ワテはなんだってする」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。