第150話 一筋の光明
決闘は終わった。勝敗条件は満たされた。
ソーニャのセンスが消え、ドミトリーが勝った。
都市上空の結界は解除され、関係者は地上へと落ちる。
着地した場所は大図書館前。残っている作業は報告と後処理。
「上で観戦していた諸君らにとっては既知の情報だろうが、改めて言っておく。一連の騒動の決着は私がつけた。今後、ソーニャ・カラシニコフへの質問や接触は禁止とし、近衛連隊への暴行罪で牢屋に送る。……何か異論はあるかね?」
当事者のドミトリーから語られたのは、状況報告だった。
中で行われたやり取りは伏せられていたけど、筋は通ってる。
「「「「「…………」」」」」
観戦勢のエミリア、ベクター、ターニャ、オレグ、イゴールは沈黙。
その反応も無理はなく、彼の発言には整合性があり、特に矛盾点もない。
「では、これにて騒動は終息と――」
ドミトリーは反応を見て、話を畳もうとしていた。
異論がなければ、二度と彼女の件に触れられないはず。
余所者とは言っても、元帥が課すルールには拘束力がある。
破れば白軍と敵対するだろうから、今は従っておいた方が利口。
少なくとも覚醒都市にいる間は、元帥の顔色を窺っていた方がいい。
――だけど。
「待って。一つだけ確認しておきたいことがある」
リーチェは滑り込むようにして、口を挟み、話を繋げる。
今ならまだ間に合う。ルールを守りつつ、探りを入れられる。
「構わんよ。言ってみるがいい」
ドミトリーは快く了承し、会話のターンが回る。
深く考えるまでもなく、聞くべきことは決まっていた。
「覚醒都市が闇に覆われた件だけど……その子は一切関係ないと言える?」
尋ねたのは、この場の全員に関係がある話題。
犯人捜しの一環で、外に出るには欠かせない質問。
根拠は薄いけど、ソーニャが犯人の可能性も十分ある。
最悪の場合、元帥が黒幕と知った上で庇う展開もあり得た。
「それとは無関係だ。私の知る限りではな」
「嘘じゃないのよね」
「無論だ。こいつを庇う理由がない」
リーチェは念を押すように、短い応答を交わす。
何も新しい情報はなく、思った通りの反応を示した。
瞳に揺らぎはないし、嘘をついているような気配もない。
しつこく聞いても、それ以上の情報が出てくるとも思えない。
『犯人捜し』と『ジーナ捜し』。それに集中するのが建設的だった。
「ひとまず信じてあげる。……ただ」
「……?」
「今のが嘘だと分かったら白軍と敵対する。覚悟しておくことね」
諸々の事情を考慮し、理解を示した上で、忠告する。
根拠に欠ける違和感に蓋をして、彼の発言を信用する。
今はただ、元帥に隠し事がないことを祈るばかりだった。
◇◇◇
「協力してくれませんか。この世界をどうにかするためにも」
変電所付近でジーノは頭を下げ、懇願する。
相手は、停電を企てていた余所者の二人だった。
背後ではロザリア先生とセルゲイ大尉が見守っている。
「事情は分かったけど、決めるのはうちじゃないんよね」
直接対決をした広島は、隣に視線を送る。
口振りからすれば、彼女が停電騒動の首謀者。
少し行き違いがあったようだけど、リーダー枠だ。
顔は俯き、頼りない印象だけど、彼女の一存で決まる。
「……か、構いません。ただし、一つだけ条件があります」
アザミと名乗る短い白髪の女性は了承する。
その上で、前向きな交渉を始めようとしていた。
見かけによらず、意外と頭が切れるのかもしれない。
「言ってください。僕で出来ることなら大抵のことは応じます」
特に断る理由がなく、受け入れる姿勢を示す。
後は内容次第。交渉は苦手だけど、やるしかない。
「……ひ、広島さん」
「はいよっと。リーダーがそう言うんなら」
アザミは指示を送り、広島は変電所近辺の散策を開始する。
そして、深く陥没した道路から運び出してきたのは褐色肌の少年。
恰好は白軍憲兵。ぐったりした状態で広島に背負われ、生死不明だった。
「こ、この方はジェノ・アンダーソン。わ、わたしたちが旅をする理由そのもの。もし、彼の身に何かあれば、協力する意義が薄れます。……だ、だから、約束してください。この世界の闇が晴れるまで、ジェノさんの身を守ると」
明かされたのは、向こうの弱点そのものだった。
こちらの選択次第で、良い方にも悪い方にも利用できる。
あえて語ったのは、秘密を共有し、関係を強固にするためだろう。
「…………」
ジーノは振り返り、年長者二人の顔色を伺った。
ソーニャ攻略の主導権を握っているのは間違いない。
だけど、判断に自信がなく、二人の意見を聞きたかった。
「「――――」」
言葉を発することなく、両者は首を縦に振る。
真意は不明だけど、反対する気がないのは分かる。
約束事に巻き込んでもいいという意味合いも含まれる。
――つまり。
「僕の命に代えても彼を守ります。だから……」
「や、闇を晴らしましょう。お互いのためにも」
自然と握手を交わし、余所者との協力関係が成立する。
緊張しているのか、アザミの顔色は驚くほど青ざめていた。




