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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第147話 決闘

挿絵(By みてみん)





 覚醒都市バイカルヴェイ上空100m付近。白い結界内。


 そこで立ち塞がるのは白軍元帥ドミトリー・クズネツォフ。


 決闘が成立して、勝敗条件は相手のセンスを途切れさせること。


 単純なようで、一風変わったルール。センスの総量が物を言う勝負。


 使えば使うほど増大し続ける意思の力の性質上、年長者であるほど有利。


「短期戦がお望み? それとも、年の功を活かした長期戦?」


 ソーニャは紫色のセンスを全身に纏い、探りを入れる。


 正直に答えるとは到底思えないけど、意味のある雑談だった。


「無論、後者だ。常に期待値の高い方に賭け続けるのが私の性分でね」


 意外にもドミトリーは、心情を吐露していた。


 瞳や表情に揺らぎはなく、嘘をついている気配はない。


 手の内を明かした上で勝つ。そんな絶対的な自信を感じ取れた。


「あっそ。だったら私は……逆に張るまでよ!!!」


 ソーニャは威勢よく言葉を発し、振り下ろしたのは右手。


 装着された白手袋の指先から五本の糸を発し、決闘が始まる。


 先手を取って、防御か、回避か、反撃するかの選択肢を強制した。


「――――」


 ドミトリーは地面を蹴りつけ、回避を選択。


 能力も性質も未知数である以上、最も手堅い方法。


 センスの消耗も抑えられて、合理的な要素しかなかった。


「なんの!!!」


 そこでソーニャは、直線的に動く五本の糸の軌道を分離。


 センスを注ぎ込み、意のままに操り、四方八方から攻め立てる。


「――、――――、――――、――、――――」


 屈み、跳び、天井を蹴り、着地と同時に駆け、前方宙返り。


 曲芸じみた驚異的な身体能力で、ドミトリーは糸を躱し続ける。


 それだけじゃなく、着実に距離を詰め、こちらの懐まで迫っていた。


(七聖獣が一人。『妖猿』の異名に偽りなしと。まぁ、これぐらいはできるよね)


 知識と経験を擦り合わせ、元帥の認識を更新する。


 準備運動に過ぎないだろうけど、期待通りの反応だった。


 油断も慢心もなく、冷静な思考を保ち、合理的に体は動き出す。


「これしき!!!」


 次にソーニャは、黒手袋をつけた左手を地面に置き、センスを込める。


 生じるのは影。迫りつつあるドミトリーの懐に潜り込むように伸び続ける。


 その背後には追尾する五本の糸が見え、取れる手段が限られた状態を作り出す。


(影に対処すれば糸。糸に対処すれば影が襲い来る。……さぁ、どうする)


 異能力の操作に意識を割きつつ、ソーニャは敵の出方を伺う。


 決着はつかないだろうけど、どう切り抜けるか純粋に興味があった。


「……若いな」


 含みのある台詞を言い放ち、空中を蹴りつけた。


 小さな結界を作り、足場にし、急速に前進してくる。


 最小限の手間で最大限の効果を狙う、期待値の高い行動。


 先の発言に偽りなく、身体能力と最低限のセンスで対応する。


 遅れて影と糸は空を切り、両手が塞がった状態で迫り来るは元帥。


 その勢いを全て乗せ、最も効果的に威力を伝える手段は決まっていた。


「――――」


 回転蹴り。勢いと遠心力を利用し、真横から延髄を蹴りつける。


 防御に徹しようとしても、センスの壁を貫き、身体に届くのは確実。


 世界の性質上、物理的ダメージは負わないけど、観客に見られたくない。


「……手堅すぎ」


 ワンテンポ後れて言い返すソーニャは、行動に出る。


 読み通りの軌道上に結界を生じ、回転蹴りの進行を妨げる。


 わずかに逸れて、頭上を通過し、無防備な状態を晒したのは元帥。


「師匠はロザリア。結界術はお手の物か」


 しかし、相手は余裕ある反応を見せ、待ち構える。


 何かおかしい。読んでいたと言わんばかりの態度を示す。


 ただ、考えを巡らせる余裕はなく、身体は合理的に動き出した。


「――――」


 両手が塞がった状態で放つのは、蹴り上げ。


 ドミトリーの顎を狙い、右足にセンスを込めた。


 意思と神経に従い、繰り出される体術は、接触する。


「………………っっ」


 ドミトリーが発する黒の結界。顎下に配置し、急所を守る。


 とんでもない硬さを誇り、突き破れずに蹴り上げは空中で停止。


 そこで確信した。明確な根拠に欠けるものの、正しいと思える答え。


(同門対決……。元帥と流派は同じっ!!)


 脳に電流が走り、神経細胞同士が結合し、閃きを生む。


 その前提が正しいのなら、この後に起こる展開は決まっていた。 


「結界の精度比べといこうか」


 ドミトリーは戦いの主題を告げ、接近戦が開始される。


 繰り出される体術に対し、結界で防ぐというシンプルな攻防。


 ただ防ぐだけではなく、足場やフェイントにも使って、攻め立てる。


 本来なら予測不能の動き。一方的にやられてもおかしくはない展開だった。


 だけどそれは、ロザリア先生の動きそのもの――。


「「――――――っ!!」」


 対策できる。対処できる。対応できる。


 攻防を繰り返し、意識は体術と結界に溶けていく。


 異能力を行使する余裕はなく、一瞬でも気を抜けばやられる。

 

 ――結果、拮抗する。


 元帥を相手にして、一度も肉体の接触を許さない。


 膨大なやり取りを介し、飛躍的に体術と結界の精度も向上する。


「さすがは『白金の道プラチノヴィー・プーチ』か。勇猛果敢で思い切りもいい。だが――」

 

 余裕を崩さないドミトリーは、攻防の最中に言い放つ。


 素直な感想。というよりも、一方的な攻勢に移るための前置き。


(何か来そうなのは、分かる、けど……っっ)


 危うい気配を感じ取るものの、行動に移せる余裕がない。


 現状維持に手一杯になり、脳の処理が追い付かず、鼻血が出る。


「詰めが甘い」


 体術と結界の隙間を縫い、放たれるのは右拳。


 スローモーションのように見えるけど、対処できない。

 

 脳みその処理が間に合わず、結界を出せず、体術は間に合わない。

 

(贅沢は……言ってられないか)


 受け止める覚悟を決め、防御を捨て、反撃に転ずる。

 

 同様に右拳を放ち、空中で交差させ、元帥の顎下を狙う。


 狙いも流派も思考も同じ。残っているのは、世界と能力だけ。


「――」


 ぐにょりと、元帥の拳が先に到達し、顔にめり込む。


 物理的なダメージはなく、不可思議な現象が大衆に晒される。


 世界の情報開示を代償にして、届き得るのは一足遅れて放った右の拳。


絶対象シュプレマティスム


 意思能力の発動条件を満たし、ソーニャの土俵に引きずり込んだ。

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