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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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145/269

第145話 揺さぶり

挿絵(By みてみん)





 大量の白軍兵が積み上がる、大図書館前。


 辺りは暗闇に満ちる中、白いセンスが迸った。


 肉体を強化し、筋肉の鎧を纏い、イゴールは言う。


「もらった!!」


 ソーニャの白の制服を掴み、勢いよく地面に叩きつける。


 致命傷とはいかないまでも、相手の一瞬の隙をついた有効打。


 柔道のルールなら一本勝ちという判定が出てもおかしくない内容。


(嬉しい誤算ね。これなら……)


 その一部始終。一挙手一投足をリーチェは見ていた。


 能力発動の瞬間を見逃すまいと、ソーニャを観察していた。


「よっと。残念賞」


 しかし彼女は、片手を地面につき、受け身を取る。


 逆立ちの体勢。翻るスカートから繰り出すは回転蹴り。


 裾を掴んだ腕、投げで無防備な胴体部分を的確に狙ってる。


 ――見事なカウンター。


 イゴールの強化された肉体でも、直撃すれば危うい。


 彼のセンスは手と足に集中し、胴体に意識が回ってない。


 ソーニャのフィジカル次第では、決着がつく可能性もあった。

 

 そうなれば、能力は開示されず、イゴールの頑張りは無駄に終わる。


 下馬評通り、順当に強い者が勝ち、弱い者が辛酸をなめる結末を迎える。


 ――それも一興。


 次に意識を切り替えて、考えを巡らせばいいだけのこと。


 こちらの戦力は豊富で、能力を開示させるチャンスは十分ある。


 イゴールには悪いけど、実力不足の現実を受け入れてもらうしかない。


 ――ただ。


「待ちなさい」

 

 どうしても、見過ごせないことがあった。


 気付けば声を上げ、神聖な勝負に待ったをかけた。


「…………」


 指示に従い、ソーニャの回転蹴りはピタリと止まった。


 襟を掴む腕を払い、イゴールの胴体に触れる寸前で急停止。


 完全に水を差した形。気まずい沈黙が流れ、勝負はお預けになる。


「止めた理由を聞いても?」


 逆立ち状態から右手で地面を押し、その勢いで立ち上がる。


 両手についた土埃を払い、鋭い目線を向けて、問い質してくる。


 生半可な理由ならただじゃおかない。そんな高圧的な雰囲気を放つ。


「理由はそれよ」


 リーチェは間髪入れずに人差し指を差し、告げる。


「……?」


 しかし、当の本人は両手袋を見つめて、小首を傾げていた。


 エリートコース出身らしいけど、完璧ってわけじゃないみたい。


 いかに優秀でも、子供は子供。現実を突きつける必要がありそうね。


「両手、使わないんじゃなかったの?」


 リーチェは端的に結論を述べる。


 真剣勝負を止めるに足る正当な理由。


「あ……」


 ようやく気付いたソーニャは、気まずそうな声を発する。


 シリアスなムードは薄れ、一気にコメディっぽい空気が流れた。


 ある意味で勝負は台無し。もう一度戦えるような雰囲気じゃなくなる。


「気付いたようね。まぁ、約束を破ったからといって、罰則があるわけじゃない。続けるのも止めるのもあなたの自由。……ただ、このまま無視して続ければ、あなたの評価は下がるし、ルールを守れない人だと見なし、交渉が発生しても信用しない。悪いこと尽くめと分かった上でやるなら止めはしないけど、どうする?」


 前提となる情報を整理し、強行した場合の警告をする。


 彼女の目的は不明だけど、これならある程度までは絞れる。


 『暴君』√なら突っぱねるだろうし、『聖人』√なら受け入れる。


 『独裁者』√なら、中間の判断もあり得るけど、おおよそ三択になる。


 ――少なくとも、都市の権力を握ろうとしてるのは確実。


 元帥と王女に接触を図ろうとする言動から考えれば、間違いない。


 能力の把握も大事だけど、それと同じぐらい目的を探るのも重要だった。


「それは……」


 ソーニャの視線は揺らぎ、見るからに迷っていた。


 即断即決できるほど、考えは煮詰まっていないらしい。


 今までの経験から考察するなら、背後に指示する人がいる。


 単独犯ではなく、共犯。彼女の影には誰かが潜んでる気がした。


「興味深い話をしているね。私も混ぜてもらえるかな?」


 そこに現れたのは、白の軍服を着る薄茶髪の軍人。


 大図書館側から登場し、左の胸には数々の略綬が並ぶ。


 服装から逆算し、立場と展開を考えれば、一人しかいない。


「ドミトリー元帥……」


 関係者のイゴールは誰よりも先に反応し、新たな波乱が訪れた。

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