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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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142/269

第142話 『黒』の世界

挿絵(By みてみん)





 異端審問は終わった。イブ・グノーシスは『白』だった。


 一部始終を別の身体で見届けた。重要参考人として参加した。


 約束は果たされ、魂の入れ替わりは終了し、元の肉体へと戻った。


 意識が鮮明のまま、ゆっくりと目を開いた。そこに広がっていたのは。


「『黒』の……世界……」


 事情が呑み込めないまま、ベクターは感想を漏らす。


 分かるのは、仰向けの状態で地面に寝ていたことだけだ。


「ようやくお目覚めのようね。気分はどう?」


 そこで聞こえてきたのは、リーチェの声だった。

 

 声がした方へと視線を送り、目を凝らして確認する。


 見えてきたのは、数名の軍人と大量の死骸と見知った顔。


 この場所で何かあったのは確実で、状況を考察するのは困難。


 嘘をつくのも可能だろうが、長期的に見るなら、必ずボロが出る。


 ――ここは。


「頭がぼんやりして、よく思い出せない……。ここで何があった……?」


 ベクターは虚実を交えることなく、事実だけで接する。


 経緯は不明だったが、不自然な立ち振る舞いではないはずだ。


 場合によっては修羅場になるが、リーチェが相手なら大丈夫だろう。


「覚えてない、か……。逆にどこまでなら思い出せる?」


 そう考えていたが、簡単にはいかないらしい。


 懐疑的な目線を向けられ、事実確認が始まっていた。


 全て話すよりも、分からない部分だけ話す方が効率がいい。


 リーチェの目線に立てば自然な対応だったが、どうも引っかかる。


(ダンテの奴、何かしたな……。尻拭いは全部俺か……)


 自然と思い浮かぶのは、肉体を操っていた相手のこと。


 魂の入れ替えには同意したが、余波まで考えていなかった。


 とばっちりもいいところだが、ここは乗り切るしかないだろう。


「覚えているのは和食料理屋の件までだ……。それ以降は分からない……」


 ベクターは半分事実で、半分嘘の情報を伝える。


 ダンテの関与を明かさない。その条件での最適解だ。


 ミーナの件や異端審問の件は伏せておくのが無難だろう。


 時系列が少しでも狂えば、空白の出来事を明かすことになる。


 ――そうなれば、嘘がバレる。


 開示する情報には、細心の注意を払わなければならない。 


 少なくとも、今の状況を把握できるまでは続ける必要があった。 


「PTSDによる短期記憶障害……? いや、それにしては……」


 リーチェは独り言のように小声で呟いた。


 都合のいい解釈を並べるが、まだ気は抜けない。


 ここは、質問攻めに遭う前に押し切るのが理想だろう。


「なんでもいいが、今は日常か非日常なら……どっちだ……」


 経緯の把握を省略し、二択に絞る。


 鬼気迫るような空気を放ち、問いかける。


 疑惑をかけられているが、優先度が高い問題だ。


 関係上、無視はできない。彼女には答える義務がある。


「分からない……。たぶん、ここにいる大半の人は分かってない」


 返ってきたのは、リーチェの弱々しい声音。


 謎が謎を呼び、状況の把握は困難を極めていた。


 ◇◇◇


「これからどうするつもりなの? ……ソーニャ」


 黒に満ちた世界で、ジーノは問いかける。


 覚醒都市を影で覆った元凶であり、諸悪の根源。


 衝突は避けられないけど、物理的に倒せない厄介な相手。


「後は自分で考えたら。それでも、『白金の道プラチノヴィー・プーチ』なんでしょ」


 ソーニャは、都市の闇に紛れる間際に言い放つ。


 気付けば姿は消え、気配を絶ち、追うことは難しい状態。


 『待って』なんて無粋な言葉をかける暇もなく、沈黙が訪れていた。


「…………」


 状態3の魔獣化を解き、ジーノは元の少年サイズに戻る。


 制服の襟を正し、乱れた髪や身だしなみを整え、思考を巡らせる。


(分からないことが多すぎる。原因は明らかだけど、何が『ゴール』なんだ)


 出口の見えないトンネルに迷い込んだ感覚。


 生まれ育った故郷なのに、まるで違った景色に見えた。


「助言いたしましょう。帝王学の授業で話した内容を覚えていますか?」


 そこで声をかけてきたのは、ロザリア先生だった。


 授業の一環であるかのように、落ち着いた様子で接している。


「えーっと、相手が欲しがるものを知り、焦らすか、与えるかで主導権を握る。もしくは、相手の要望に応える従順な犬を装い、主導権を握っていると錯覚させる。それで大抵の人間の心は掌握できる。……でしたっけ?」


 急な質問だったけど、内容が強烈だったから覚えてる。


 善悪の概念を抜きにしたら、優れた処世術のように感じた。


「ええ。おっしゃる通り。今日は絶好の実践日和となるでしょうね」


 先生は肯定し、先の見えない暗闇に行き先が示される。


 どのような過程を辿るかは自由だけど、方向性は決まった。


 わざわざ言うまでもなかったけど、決意を示すために口にする。


「僕がソーニャを攻略する。それが、ここから脱出する唯一の方法……」

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