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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第141話 確執

挿絵(By みてみん)





 9月3日、朝。白教と悪魔の和平成立後。


 トルクメニスタン。首都アシガバート西部。


 その一角には、和食レストランが存在していた。


 『鮨』と書かれた暖簾をくぐって、入店するのは女性。


 金髪縦ロール、背丈は低めで、耳は長く、金色の瞳を宿す。


 彼女は迷うことなく突き進み、壁に大穴があいた席に座り込む。


「……首尾はどうですか?」


 そして、静まり返る店内で、ミーナは唐突に尋ねる。


 視線の先には、対面の席に座っている店長の姿があった。


 茶色髪を角刈りにした中年で、般若が描かれた青の和服を着る。


「上々ですねぇ。こっちは計画通りと言っても過言じゃありませんよ」


 差し出してきたのは、一貫の鮨。品目はカレイの縁側。


 ラウラ・ルチアーノが独創世界で仕上げたと思われる一品。


 それを手で掴み、口に運び、修行で培われた御手前を拝見する。


「これは……」


 旨味、香り、舌触り、温度。全てがちょうどよい。

 

 ネタに硬い筋はなく、シャリの塩加減と酢加減が絶妙。


 程よい脂が口の中で溶け、しつこくない味わいを提供する。


 数十年ほど帝国で修行を積んだ、一流鮨職人と遜色ないレベル。


「生半可な努力と研鑽では到底……。これにかかった日数は?」


「約3年ほど。納得させるまで帰らないと、息巻いておりましたよ」


 明かされるのは、ある程度納得のいく説明。


 彼の独創世界内では、時間の流れが通常と異なる。


 解放条件は『鮨』を作ることでも、難易度は変えられる。


 恐らくラウラは、プロを納得させることを条件に修行に挑んだ。


「……その間、体術やセンスの所作は?」


「基礎も応用も発展もミッチリ。どれも一級品に仕上がりましたよ」


 ふとした疑問に対し、心強い回答が添えられる。


 鮨職人の技量だけではなく、意思能力者としても腕を磨いた。


「言う事なしですね。これなら白教を任せられそうです」


 一番の杞憂だった点が解消され、肩の荷が下りる。


 万事解決とはいかないものの、計画が順調なのは間違いない。


 ――ただ。


「そちらの方……子作りの件は順調とはいかないようですねぇ」


 矢面に上がるのは、ベクターとの関係。


 意中の殿方とは、上手くいっていなかった。


 性欲由来というわけではなく、能力発動の条件。


 目的を成し遂げるためには、絶対に欠かせない工程。


「行き先にアテはあります。地獄の底までストーキングして差し上げますわ」


 ◇◇◇


 トルクメニスタン。アハル州ダルヴァザ。


 砂漠地帯には直径70m、深さ30mの大穴がある。


 『地獄の門』と呼ばれ、皮肉にも悪魔界と連動していた。


「…………」


 その穴の底を見つめているのは、ジュリア。


 黒いローブに備わるフードをおもむろに外した。


 無造作なセミロングの緋色の髪に、蒼色の瞳を宿す。


 背は女性の平均身長より高め、体躯は細く、引き締まる。


 容姿は端麗で、センス、遺伝子、意思能力にも恵まれている。


 他人から羨まれるスペックを誇りながら、その表情は曇っていた。


「姉が憎いかい? 同じ美貌と才能を持ち、男と結果を手にする彼女を」


 異変を察し、声をかけたのはクオリアだった。


 金髪を坊主頭にしていて、白のスーツに袖を通している。


「――そうだと言ったら?」


 目線を動かすことなく、冷ややかな声音でジュリアは言う。


 立場上は直属の上司だけど、これはプライベートな問題だった。


 いちいち口を出されることでも、敬意をもって接する場面でもない。

 

 ――余計なお世話。


 冷たく当たるのが妥当であり、的確。

 

 いかな上司であろうと、失礼にはならない。


 むしろ失礼なのは、根掘り葉掘り聞く向こうの方。


「気を悪くしないで欲しい。僕なら力になれるかもしれないと思ってね」


 先輩風を吹かせ、上から目線でクオリアは語る。


 頼れる上司のようにも見えるけど、これはやりすぎ。


 仕事には関係ないし、パーソナルな問題に踏み込み過ぎ。


「――求めてないし、うざい。――どっか行って」


 目線を合わせることなく、端的に意見を伝える。


「悪いけど、部下のケアは業務の延長線上だ。私情を挟んでいるように見えるかもしれないが、これも蓮玲様の方針でね。詳細は語らなくてもいいが、君の行動原理に関わる問題は把握しておきたいんだ。暴走して、単独行動する前にね」


 するとクオリアは、あくまで仕事の一環として接してくる。


 そこまで丁寧に逃げ道を塞がれたら、雑に扱うことはできない。


「――安心して。――私の行動原理はそこまで短絡的じゃない」


「だったら、君の長期的な目的をお聞かせ願えるかな?」


「――姉を名実ともに超える。――そのためなら、なんだってするよ」


 上司に明かすのは前向きな理由。


 立場上、捉え方によっては宣戦布告だった。

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