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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第139話 次なる一手

挿絵(By みてみん)





 トルクメニスタン。アハル州ダルヴァザ。『地獄の門』。


 そこでは、悪魔の先遣隊が帰還し、状況が報告されていた。


 『意思衝突』の件と『異端審問』の件。それらが悪魔側に伝わる。 


「……つまり、白教は関わってないってワケカ」


 悪魔の代表を務める蓮玲レンリンは、一言で情報をまとめる。


 慎重を期して、人間界との和平には24時間の猶予を設けた。


 その一部は杞憂に終わり、表面上では断る理由がなくなっていた。


「これで疑念は晴れた。……和平の件ですが、同意していただけますか?」


 白教の代表である枢機卿カルドは話を進める。


 ここで頷けば、何のわだかまりもなく和平は成立。


 悪魔側の今後を考えれば、受ける以外の選択肢はない。


 ――ただ。


「待テ。最後に確認するが、白教に記憶を操る使い手は居ルカ?」


 私的な理由で、蓮玲は和平を先送りにする。


 内情がバレるリスクを承知で、問題に踏み込む。


 カルドの記憶がないのは確実であり、計画に関わる。


 解決する兆しがないのなら、和平の意味が薄れてしまう。


 例え、悪魔側の反感を買うとしても、優先すべき問題だった。


「ええ。私が存じ上げる限りであれば一人いらっしゃいますね」


 カルドは快く応答し、早くも手掛かりを掴む。


 この時点で白教側に記憶を消されたのは、ほぼ確実。


 名前が挙げられる人物=犯人という図式が成り立つだろう。


「それは……誰ダ?」


 恐る恐る尋ねる。ある程度の覚悟をして、探りを入れる。


 敵対するのは確実であり、名がデカいほど、リスクが上がる。


 出来るだけ小物であることを祈りつつ、反応を心待ちにしていた。


 ――そこで明かされた名は。


「エリーゼ・フォン・アーサー。白教における元教皇です」


 ◇◇◇


 『地獄の門』を覆っている黒の結界は解かれた。


 閉じ込められていた悪魔たちが、人間界に放たれた。


 その一部始終を、遠くの砂漠地帯から眺める少女がいた。


 灰色のローブに身を包み、フードを被り、リュックを背負う。


 右の肩には蝙蝠が止まり、しみじみとした表情で感想を口にする。


「和平は成立か……」


 やり残した仕事が終わり、世界が動き出したのを感じる。


 社会から孤立して、一人だけ取り残されたような気分になる。


 『ブラックスワン』と『白教』を抜け、頼れる仲間とは縁を切った。


 孤独な自分探しの旅。傍から見ればそう見えるだろうし、99%は正しい。


 ――ただ、残り1%の誤算があった。


『浮かない顔ダナ。アタイがついてるんだから、心配いらナイヨ』


 喋りかけてくるのは、蝙蝠型の聖遺物レリック『カマッソソ』。

 

 妙な訛りを用い、孤独な旅にわずかな彩りを与えてくれる。


 そのおかげで、ほんの少しだけ前に進む勇気が出てきた気がした。


「へぇ……今になって喋ってくれるんだ。お互いに自己紹介でもする?」


 エリーゼは今だったからこそ心を開き、問いかける。


 聖遺物レリックは元人間であり、名称と名前が別なのは分かってる。


 神話に通じている方の名は、通り名のようなもので本名じゃない。


 今までボイチェンだったけど、声を晒した今なら教えてくれる気がした。


『エリーゼ・フォン・アーサー。イギリス王室の第五王子であり、白教の元教皇。千年前にマーリンと共に白教の礎を作った『レジェンド』ダロ? 今更、自己紹介は不要ダヨ。一方的に名乗るとしたら、アタイの方だろうネ』


 簡単な経歴や個人的情報を先に言われ、残ったのは彼女の方。


 自らを追い込み、紹介せざるを得ないような雰囲気を作り出している。


「だったら、聞かせてもらえる? 通り名じゃなく、あなたの本当の名前を」


 流れと空気を読み、遠慮なく話を振って、反応を待つ。


 ここまでお膳立てしておいて、名乗らないのはあり得ない。


 気になるのは名前と肩書き。現実世界と接点があるかのどうか。


 その期待にそぐわない回答を、聖遺物レリック『カマッソソ』は語り出した。


『我が名は蓮玲。元第一級悪魔であり、【火】の概念を奪った蓮麗の母親ダヨ』


 ◇◇◇


 ニコラの独創世界内。赤い館三階。主の間。


 錬金釜が複数置かれた部屋には、数名の人物がいた。


「おいおい……こいつはとんでもない事実の発覚だな。介入しないのか、蓮麗?」


 アフリカ系の屈強な男性、黒服を着るマイクは問いかける。


 錬金釜の水面にはエリーゼが映り、隣には黒服姿の蓮麗がいる。


 『地獄の門』には悪魔になった母親に加え、まさかのもう一人現れた。


 因縁から考えれば動かない理由はなく、独断専行してもおかしくない状況。


 ――立場上、確認しておく必要があった。


 現在の所属は魔術商社『リーガル』で安易に動けない。


 勝手に動けば契約違反になり、重い罰則が科されるはずだ。


 蓮麗とシェンは24時間限定の社員だが、待てない可能性が高い。


 契約は残り20時間以上残っており、あいつが我慢できる気がしない。


「動かナイし、動けナイ。采配は社長に任せるヨ」


 しかし、意外にも蓮麗は冷静だった。


 状況を受け入れ、虎視眈々と気を伺っている。


「吾も従うとしよう。お前さんとは一蓮托生だからな」


 次に答えたのは、黒いチャイナ服を着た、黒髪辮髪の老人シェン。


 神を内に宿すものの、冥戯黙示録で蓮麗に敗れて以降、忠誠を誓っていた。


「全ては社長次第か……。何か計画はあるのか? セレーナ」


 マイクは視線を外し、作業用のデスクにいる社長に尋ねる。


 テーブル上には、一連の登場人物と関係図と立ち位置が描かれる。


 人物ごとにピン止めされ、赤い紐で結ばれ、一人の人物に集約している。


 ――いわゆる、捜査ボードってやつだ。


 犯人を追い詰めるために、証拠を並べる作業と同じ。


 ただセレーナの場合は、少しばかり動機が異なるはずだ。


 私怨というよりも支援。ジェノ・アンダーソンが中心にいる。


 恐らく、その延長線上に蓮麗たちがいて、適切な機を探っている。


「あなたたちはチェスで言う、ルークとビショップ。安易に使うべきじゃない貴重な人材。契約終了まで残り20時間程度ある。超安心して待ってくれていいから。活躍の場は……ちゃんと用意してあげる」


 セレーナは未来を見据え、淡々と語っていた。


 その計画の全貌は、実際に起こるまで知る由もなかった。

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