第135話 『善人』か『悪人』か
白い空間が広がる、ラウラの精神世界。
そこでは、現実世界を映すウィンドウが出現。
映るのは、高層ビルの休憩室で行われた三人の会話。
『人類を救う』ことを終着点に動き出す人たちが見えていた。
「……これでも、彼が悪いと言える?」
映像を表示した張本人――ツクヨミは問いかける。
話題に上がるのは、『悪い』と断定したレオナルドの所業。
「口だけなら何とでも言える。それに、この映像が正しい保証はあんのか?」
ラウラは意見を変えることなく、真っ向から対立する。
非を認めるのは簡単だが、フェイクに騙されるのは癪だった。
「ここは根源に近い場所であり、多次元的な空間。一次元は『直線』。二次元は『平面』。三次元は『奥行き』。そこに『時間』を加えたものが、四次元。……つまり、現実世界と同じ構造になる。ここまでは分かるよね?」
「それこそ常識だろ。だから何だ」
「そこに『精神』を加えたのがこの世界。現実世界に流れる『時間』を外側から観測できる……言わば、『五次元』。起きていることは全て事実だし、過去でも未来でもなく、リアルタイムで進行してる。信じられないなら、あなたの直近の記憶で覚えのある場所を表示してあげようか?」
ツクヨミから説明されるのは、それっぽい理屈。
一応の筋は通ってるし、嘘をついてる気配はねぇ。
ただそれを、全面的に信用できるかは話が別だった。
「いーや、結構だ。どこまで言っても水掛け論に過ぎねぇ。何を言われようが、僕はこの空間を認めねぇし、信じねぇ。そもそも、四次元は時間と空間を保存する『ファイル』だとすれば、五次元はあらゆる分岐や時間軸を保存した『フォルダ』だろ? それがアリなら、過去も未来も並行世界の情報も引っ張り放題じゃねぇか。リアルタイムに見せかけて、僕の知らない『善人』の世界線――『劇場版レオナルド』が放映されてる可能性もある。僕と同じ時間軸のレオナルドだって証明できれば話は別だが、できねぇだろ? これで話は終了だ。僕の知る限り、レオナルドは『悪人』だし、人生を狂わせた野郎だって意見は曲げてやらねぇよ」
畳みかけるようにして、ラウラは自分の意見を述べる。
話は平行線。映像を見せられた意味は今んとこ皆無に等しい。
「まぁ、そこまで言うなら話を終わらせてもいいけど、いいの? 私たちと対話できるのは、これで最後かもしれないよ? 肉体の主導権を握られ、二度と表に出てこれなくなるかもしれないけど、それでも構わない?」
そこで、ツクヨミが話題に上げてきたのは、『主導権』。
家族を人質にして言う事を聞かせる、脅しのようなもんだ。
マフィアの家系で育った僕としては、懐かしさすら感じる手法。
相手が『崇高な神』ということも考えれば、親しみやすさも感じる。
――だからこそ。
「いや、待て。こいつは過去の情報を映すこともできんのか?」
思いついたのは、信じてもいい唯一の条件。
捏造かどうかを判断できるターニングポイント。
「できるよ。具体的なキーワードさえ教えてくれれば、直感的に引き出せる」
突拍子のない提案に対し、ツクヨミは快く応じている。
さすがは『月』の神ってか。時間に関係しているだけはある。
まだ信じたわけじゃねぇが、ここで言うべきワードは決まっていた。
「――『熱い夜』。僕の親父、ラウロ・ルチアーノが殺された前後を見せてくれ」




