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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第134話 昼下がりのコーヒーブレイク

挿絵(By みてみん)





 マンハッタン。超高層ビル内にある休憩室。


 自販機から紙コップ式のコーヒーを買い、運ぶ。


 積もる瓦礫をどかして、テーブル席に座ったのは三人。


「……まずは自己紹介といこうか。知らねぇ奴もいることだしな」


 ヴォルフはコーヒーを一口飲み、話を切り出す。


 視線は自ずと、巻き込まれた被害者に向いていった。


 黒のスーツに、赤色のシャツに、ストライプ柄のネクタイ。


 七三分けの茶髪で、見た目は四十代、左腕には高級時計をつける。


「お、俺からか……。何が何やら分からん状況で腹を割れと?」


 矢面に上がる彼は、見るからに戸惑っていた。


 今の状況が把握できるまで、話す気はないらしい。


 一応の筋は通ってるし、後回しにしても構わねぇだろう。


「じゃあ、ひとまず知っている限りのことを説明してやる。今、世界で起きている飛行機事故だが、これは人災だ。うちの同僚が引き起こしたテロ行為。問題がややこしくなるから名前は伏せるが、世界の概念を消失させる能力を持っている。今回の事件に関して言えば、【火】の概念が消えたせいだな。動機は知らんが、事実確認を取ったし、この目で見てたから間違いねぇ」


 触れたのは、大前提。世界に混乱をもたらした元凶。


 状況を飲み込めない理由の一つだろうし、説明は必須だ。


「ちょ、ちょっと待った! アンタ今、【火】の概念が消えたって言ったか? なんだそれ、哲学の授業か? 俺の頭ん中じゃ今、キャンプファイヤーもバーベキューも、全部404NotFound状態だよ。……ってかそれ、国家機密? 宗教戦争? はたまたメタフィジカルな世界の終焉? いやそれより、『同僚が火を消した』って、どこのファンタジー部署だよ!? CIA? NSA? それとも……マーベルか? いいか、俺は『信用詐欺師』だ。その手の嘘には滅法強い。何しろ同胞だからな。無知な一般ピーポーを相手にしてるなら話は別だが、俺の前ではやめておけ。な? 分かったなら、さっさと真実を話せ。これも何かのドッキリなんだろ? トゥルーマンショーのマンハッタン版ってな感じなんだろ? カメラはどこだ? あっちか? いや、それともあっちだな。いぇーいピースピース!」


 ペラペラと喋り、明かしたのは『信用詐欺師』という役職。


 どうやら、ここに乗り込んだのは詐欺を働くためだったらしい。

 

 運が悪いというか、運命の巡り合わせというか、因果応報というか。


 ここには皮肉にも悪事を生業とする『バッドマン』が集ったってわけだ。


 内容に大小の差はあるだろうが、人間としての本質的な部分は似通っている。


「信じるか信じないかは勝手だが、お前が思っている以上に、この場の話し合いは重要だ。意味が分からなくても、無理やり飲み込め。今の世界の有様なら、サノスが指パッチンしたと言っても通じるレベルだ。世間の一般常識じゃ測れない問題が起きたことぐらいは、なんとなく察しがつくだろ」


 コーヒーを飲みながら、ヴォルフは諭すように告げた。


 納得させるのは骨が折れそうだが、薄っすら『商機』を感じる。


 大統領級とまではいかないが、掘れば旨味がありそうな気配がしていた。


「……あぁ、分かったよ。異論も反論も無しってわけだな。帝国主義、バンザイ。ナチスドイツも顔真っ青な独裁政権の誕生だ。俺は口を閉ざしてやるから、ほら、さっさと続きをやってくれ。見ず知らずの視聴者にも伝わるように、分かりやすく頼むよ。ほら、TAKE2。よーいアクション!」


 名も明らかにならないまま、信用詐欺師は場を仕切る。


 自身の情報は一切落とさずに、事情を把握するつもりだな。


 嘘かどうかは一端後回しにして、情報収集に舵を切ったわけだ。


 優秀だな。いかにも詐欺師っぽい手法だ。役職すら嘘かもしれんが。


「では、続きの説明は私から。この肉体の名はウォルター・ファルネーゼ。役職はGoogleドイツ有限会社取締役だ。……ただ、訳あって、操っている人格は異なる。高度な降霊術のようなものを介し、今こうして喋っているのは私……レオナルド・アンダーソンになる。先ほども紹介があったように、米国元大統領という立ち位置で、その知見を通じ、現在の米国大統領の特別顧問に従事している。さらには、超常現象を対策するための米国の諜報機関『ブラックスワン』とは生前の親交のおかげもあり、密接な関係を持つ。後は……白教における大司教という肩書きを持っていたが、物質主義的な思想を持つ宗教でね。肉体が違えば、中身が同じでも認められない。白教との繋がりや影響力は皆無と言っていいだろう。私の紹介は以上だ」


 腹を割って話すつもりなのか、敬語を用いず、端的に真実を語る。


 見ていた限り、内容に齟齬はない。真摯に接しているのが言動から伝わる。


「……………………」


 信用詐欺師は新たな情報の爆弾を前に、額に汗を浮かべる。


 口にチャックをするジェスチャーを使い、平静を保とうとしていた。


「次はオレだな。ドイツを中心として活動するマフィア。『シュトラウスファミリー』の頭を張ってる。業務内容は資金洗浄だ。血やドラックで汚れた金を洗い、ダミー会社を使って、取引先の会社に架空の売り上げとして計上させるビジネスをやってる。まぁ、今は部下に大半の業務を任せて、魔術商社『リーガル』の財政部門の部長をやってる。魔術をビジネスの商材として扱い、金儲けするのが主な仕事だ。……ちなみにオカルトでも新興宗教でもねぇ。ドクターストレンジになんとかリングってのがあっただろ? 指にはめ、円を描けば、別世界に繋がる便利な代物だ。条件はあるが、それと似たようなものがあって、世界中のどこでも接続できる。悪知恵を働かせるあんたなら大体分かるだろ? 移動にかかる距離を無視できれば、輸出入にかかるコストや関税は0になる。それに伴う旨味はやべぇぞ。たっかい税金を引き合いに出した上で交渉できるんだからな。おかげで業績は常に右肩上がり。お前らとつるまなくても十分やっていける資金はあるが、世界が終末に向かう今、重要なのは金じゃねぇ。人こそが最大の資源だ。こいつとは多少の因縁があって、揉みくちゃになったが、目が覚めた。一般人のあんたを巻き込んで解消したいほどの問題じゃねぇってな。だから、この場を設けたわけだ。奇しくも『人を救いたい』って根っこの部分は、そこの元大統領と一致してたわけだしな。……ここからは、金や人員や物資を使って、このマンハッタンの惨状をどうするか話し合うわけだが、どうする? 信用詐欺師。お前の巧みな話術を使って、世界を救ってみるか?」


 ヴォルフは惜しむことなく、自分に紐づく概要を語り終える。


 最後に、この場で話し合うべき主題を伝えて、男に判断を迫った。


「……筋書きはこうだな。アルマゲドンでいう『穴掘りのプロ』が、『人類の救世主』になったのと同じ。失敗すれば人類全滅って責任を背負い、『喋りのプロ』が立ち上がり、残された家族に思いを馳せながら、命をかけて人類を救う。……つまり、主演ってわけだな。ギャランティはいくらだ。俄然、興味が湧いてきた」


 悪乗りしてるのか、本気で勘違いしてるのか。


 どちらにせよ、交渉は前向きに進んでるように見える。


 後は伸るか反るか。勘違いでも、そのまま進めれば面白いかもな。


「成功報酬は2億ドル。ロバート・ダウニージュニアも嫉妬する額だな。ただし、完全後払いだ。『人類を救う』……そのシナリオが完結するまで、エンドロールは流れないし、金は1セントも払わねぇ。カメラは回しっぱなしだ。当然、金額に見合った過酷な撮影が行われるわけだが、やってみるか? 主演俳優を」


 甘い誘い文句を添え、ヴォルフは交渉を進めた。


 残ったのは、イエスかノーか、値段交渉か前払いか。


 ざっと考えれば四択だが、この際、金に糸目はつけねぇ。


 今後、価値がなくなるだろうし、少しは要求を聞いてやるか。


「乗った! このウィル・チータムが保証する!! お前たちの映画は過去最高の興行収入を叩き出すぞ!! 今から覚悟しておけ!!!」


 特に揉めることなく、信用詐欺師ウィルとの交渉は成立。


 ここからどう話が転がるかは、全くもって想像がつかなかった。

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