第131話 面談
異端審問は終わった。イブ・グノーシスは無罪となった。
白教のトップ。エリーゼ・フォン・アーサーは教皇を辞めた。
抱える信徒は世界人口の半数近く。放置というわけにはいかない。
代表が必要になる。宗教団体をまとめ上げる資格と実績が求められる。
――ここまで長い道のりだった。
白教に身を置き、人生を捧げると誓った。
『魂の転写』を繰り返し、白教へ奉仕し続けた。
代理じゃない教皇を夢見て、努力を惜しまなかった。
計画し、失敗し、試行錯誤し、あらゆる方法を模索した。
問題は、永久欠番状態の『教皇』を、いかに受け継がせるか。
エリーゼがいない空白の期間は、『教皇代理』が代表だと定めた。
――いくら手を打っても、『教皇』にはなれない。
開祖のエリーゼが認めた者でないと、信徒は納得しない。
工夫が必要だった。苦労が不可欠だった。時期が重要だった。
エリーゼを殺す。なんて誰でも思いつく方法じゃあ、駄目だった。
在任中に自ら身を引かせ、次代に受け継ぐよう誘導する必要があった。
――その苦労が報われる時が来た。
「…………」
白教大聖堂の最奥。白の椅子に座ったのは、青髪短髪の女性。
白のローブに身を包み、白のビレッタ帽を被り、遂に念願が叶う。
「ようやくですね、お師匠様。……いいえ、イザベラ教皇」
声をかけてきたのは、今回の立役者となったイブ。
未だに日は昇っておらず、幻想的な月光が差し込んだ。
眼鏡と髪と表情を淡く照らし、白の修道服に陰影を与える。
白教の最底辺を支える修道女だったが、役職以上の価値がある。
「あぁ、早速だが仕事だよ。面談の準備をしてくれるかい?」
◇◇◇
長いようで短い眠りから、ようやく目が覚める。
目の前には物質が存在しない白い空間が広がっていた。
究極のミニマリストともいえ、自分の肉体と白服だけがある。
「…………」
ラウラは無意識的にネクタイを締め、一歩前へ踏み出す。
理由は特にねぇ。なんとなくそうした方がいい気がしていた。
(こいつは……)
白い霧が晴れた先に見えてきたのは、老婆と鬼。
片方は知らねぇが、もう片方の風貌には見覚えがあった。
「お前、確か……『ストリートキング』の参加受付所にいた……」
記憶の片隅から、関連した情報を呼び起こす。
当時と同じく、短い白髪で、皮と骨しかない婆さん。
占い師みてぇな黒いローブ服を着て、腰は前に曲がってる。
「アンタにはそう見えてるんだねぇ。アタシの視点を見せてあげたいよ」
老婆は半ば認めるような発言をして、反応を示す。
どうやら見る視点によって、視覚情報が変わるらしい。
自分にとって最も都合のいい風貌を選択するってな感じか。
恐らく、その性質から逆算すりゃあ、ここは精神世界一択だな。
外のことは分からねぇが、他人の精神と接続してるのは間違いねぇ。
「まぁ、見た目に関しては何でもいい。それより、ここはどこだ。どういうつもりで僕を呼んだ。詳しく説明してもらおうか」
灰色の着物を着る、花魁風の金髪の鬼は無視し、話を進める。
反応から考えるに、どう考えても、この胡散臭い老婆が首謀者だ。
仲を深めるつもりはねぇし、老婆から話を聞くのが手っ取り早かった。
「ここは……そうだねぇ、端的に言えば精神世界だよ。せっかく同じ肉体を介して繋がってるんだから、親睦でも深めようかと思ってねぇ。まずは自己紹介をして、お互いの未来について語り合わないかい?」
語られるのは、背筋がゾッとする発言だった。
認めたくない事実が含まれ、身体に寒気が走っていく。
「……今、なんつった」
ラウラは確認する。知りたくない情報について尋ねる。
薄っすら頭で分かってたのに、聞かずにはいられなかった。
「あぁ? 若いのに耳が遠くなったのかい? ここは精神世界だよ」
「そっちじゃねぇ。それより後だ」
「まずは自己紹介をして――」
「そっちでもねぇ。それよりも前だ」
「あぁ……そういえば、大事な説明が抜けていたねぇ。ラウラ・ルチアーノ。アンタの肉体には、三名の魂が宿ってる。本体であるアンタ。意思能力で魂を転写したアタシ。そして、『血の千年祭』により降臨した白き神の半分。月の儀式に関連し、大量の善人を救うことで復活する存在。またの名を――」
話を転がし、ようやく本題に入っていく。
老婆は不敵な笑みを見せ、状況を説明していく。
視線は金髪の鬼に集まり、答えは当事者から語られた。
「月読命。……この時をずっと待ってたんだよ、月桂樹の名を冠する人」




