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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第129話 模擬戦

挿絵(By みてみん)





 東京都。千代田区。皇居外苑。皇居前広場。


 数千本の黒松が等間隔に植えられ、地面は芝生。


 空は雲に覆われていたが、やや明るみを見せている。


 ――日の出は近い。


 逆算すれば、【火】の概念消失から、4時間程度が経過した。


 特命担当大臣から声明が発表され、混乱は落ち着きつつあった。


 【火】は失われたものと受け止め、人々は前へ向こうとしていた頃。


「「…………」」


 皇居前広場で向き合うのは、男女二人。


 国防を任された者と、国防の中枢を担う者。


 西洋風に言えば、親衛隊と王女が対立していた。


 ガチの喧嘩というわけではなく、同意のもとの決闘。


「立会人を務めさせてもらうのは、このあっし。疋田景典でごぜぇやす。武器は無し、肉体のみ、センス有り、意思能力有り。金的、目つぶしなどの急所攻撃は反則。ダウンした方が負けのシンプルなルール。勝者には何の報酬もなく、敗者には何の罰則も発生しない模擬戦。……双方、それでよろしいですかねぇ」

 

 疋田は前提条件を告げ、公平な立場で進行する。


 相対する二人の顔を見比べ、最終確認を行っている。


「問題ない」


「問題ありません」


 引き戻せるターンは過ぎ、流される形で承諾する。


 相手は帝だが、真剣勝負ではなく、模擬戦なのが救い。


 本気の戦闘ではないのなら、いくらでもやりようはあった。


「では、用意…………始め!!」


 双方合意の上で告げられたのは、試合開始の合図。


「「――――」」


 芝生が揺れ動き、一心と帝は同時に移動を開始していた。


 示し合わせたようにセンスは纏わず、素の戦闘力が試される。


 まずはお手並み拝見といったところだろう。これで実力が分かる。


(ほどよくぶつかり、適切なタイミングで倒れれば、それで……)


 移動を繰り返し、様子見が続く中、一心は考える。


 相手は帝だ。間違っても怪我をさせるわけにはいかん。


 真面目に戦えるわけがなく、守りの思考で取り組んでいた。

 

「半端に受ければ死にますよ。覚悟はいいですね?」


 無数の足音と共に聞こえてきたのは、帝の声。


 本気でないことを見抜き、前もって警告していた。


 言葉に揺らぎはなく、嘘やハッタリのように思えない。


 肉体的なレベルはこちらが上だが、技術的な部分は未知数。


 問題はどこまでやるか。判断する材料は目の前に転がっていた。


 帝は右腰に拳を作り、左手を前に出し、構えを維持しつつ移動する。


(あの構え……般若無道流か。見様見真似ではなく、腰に力が入り、体軸にブレがない。恐らく、数年……いや、最低でも数十年以上は鍛錬を積んでいる。肉体差があろうと関係ない。技術が洗練されていれば補える。急所攻撃は反則だが、当たりどころが悪ければ、再起不能になる可能性は十分……)


 分析に頭を使い、おおよその威力を測定し、逆算する。


 恐らく、センスは使わない。体術だけの力で圧倒するはず。


「――――」


 気付けば帝は懐に入り込み、拳が届く間合いにいる。


 振りかぶる必要はなく、拳銃なら撃鉄は起こされた状態。


 あとは引き金を引く。たったそれだけで正拳突きは炸裂する。


(手加減? あり得ない。相手に失礼だとか、なりが小さいからとか、立場や肩書きは一切関係ない。身を守らなければ死ぬ。全力で応じなければ、命が危うい。それこそ最も避けるべき事態であり、俺が取るべき行動は――)


 目の前の情報をもとに、思考を羅列し、最適解を絞る。


 その瞬間、脳内で思い起こされたのは、地下牢での出来事。

 

 褐色肌の少年との勝負。リーチで上回る刀が、拳に負けた光景。


 様々な条件が絡んだ敗北。しかし、敗因は『油断』。敵を侮ったせい。


 ――だからこそ。


「――――――――」


「刹、光……ッッッ!!!!!」


 放たれた帝の正拳突きに、センスを合わせる。


 最善の防御手段であり、カウンターにもなり得る。


 相手がセンスを纏わないなら、拳を潰す可能性も高い。


 しかし、帝の心配をする余裕はなく、紫光が激しく迸った。


 ――それは、打撃衝突時にセンスを起こす技術。


 攻守共に使え、打撃との誤差が少ないほど攻防力が増す。


 早いと不発、遅いと弱体。使うのは簡単だったが、奥が深い。


 誤差が限りなく0に近付くほど良しとされているが、指標があった。


・打撃との誤差1秒以上→通常防御と同等。


・打撃との誤差0.1秒以下→→センスの増大。


・打撃との誤差0.01秒以下→こつ→センスの火花。


・打撃との誤差0.0001秒以下→りん→センスの閃光。


・打撃との誤差0.00001秒以下→雲耀うんよう→センスの稲妻。


 生じるエフェクトの違いにより、判別が可能。


 自己満足の領域だが、段階ごとに確かな壁がある。


 雲耀に至る者は、数十万人に一人とさえ言われている。


 意図して狙えるが、個人差があり、技量に差がつく部分だ。


 壁を越えるごとに、意思の核心に近付き、センスが効率化する。


 車で言う、燃費が良くなっていき、同じ燃料でも走行距離が変わる。


 ――これには、更なる先が存在していた。


 世界中に存在する数ある使い手の中でも、一握り。


 数百万人か、数千万に一人とされ、伝説や神話レベル。  

 

 『刹光』にだけ没頭しても、99%以上の人間が脱落する領域。


 打撃との誤差0秒に発生し、奇跡や魔法と同等レベルの超常現象。


「「――――」」


 阿吽あうん。空間に亀裂が走るような、エフェクトが生じる。


 奇しくも至る。引き上げられる。帝と同じ領域に辿り着く。


 失敗すれば死んでいた。阿吽の拳に貫かれ、臓腑が飛び散った。


 攻守は拮抗した。地鳴りと地響きを生んだが、意思の核心を掴んだ。


「ようこそ、こちら側へ。阿吽に至った感想を聞かせてもらっても?」

 

 帝は手を止め、成長を祝福し、歓迎する。


 意思能力者としての頂上。それが麓から見えた。


 ここは終わりではなく始まり。新たなスタートライン。


 雲間から見える朝日を見上げ、心に一点の曇りもなく言った。


「頂きが見えました。……後は山を登るまでです」

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