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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第124話 状況整理

挿絵(By みてみん)





 覚醒都市バイカルヴェイ上空。数百メートル付近。


 そこから落下するのは、坊ちゃん刈りをした金髪の少年。


 ワイシャツ、ネクタイ、ズボン、革靴、その大部分が白で統一。

 

 初等教育課程の制服であり、一生徒である以上の使命を抱えていた。


「――――」


 目を見開き、碧眼を露わにし、曇りのない瞳で眼下を見つめる。


 暗闇に広がるのは、ビル群。それを俯瞰で見つめ、戦況を分析する。


 『対話』のおかげで頭はスッキリし、焦りも不安もなく、思考は駆け巡る。


「停電は直ってない。門前の結界の一部が破壊され、魔獣の死骸で埋め尽くされてる。かといって、致命的な損害はない。煉獄の門は閉じてるし、魔獣の侵入はないし、鉄塔や変圧器が壊された痕跡はない。……どうなってるんだ?」


 費やした時間の中、起きたであろう出来事を羅列する。


 加点要素はないものの、減点要素も特にない不気味な状況。


 プラス要素とマイナス要素が絶妙なバランスで均衡を保ってる。


 都市に壊滅的な被害は及ぼしてないものの、紙一重なのが伝わった。


 ――あと一つ。


 何か決定的な事件が起きれば、どちらかに傾く。


 それが、プラスなのかマイナスなのかは予測できない。


 ただ、どちらにせよ、騒動が収束していないのは確かだった。


「あれは……」


 そんな中、瞳に映るのは、見知った人影。


 変電所近辺に突如として現れた、馴染みのある人物。


「行かないと――」


 深く考えることもなく、ジーノの身体は動き出す。


 簡易結界を足場にして、落下速度よりも速く、移動を始めた。


 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ北部。変電所内。


 剥き出しの制御盤が破壊された後のことだった。


「電力は『壊す』じゃのうて、『直す』が目的……じゃと……」


 説明を受けた広島は、愕然とした表情を浮かべる。


 経緯は事細かに伝えており、今度こそ伝達ミスはない。


 過ちを繰り返すわけにはいかず、一から十まで伝え切った。


 具体的には『白龍ジーク』『元帥との交渉』『作戦変更』など。


 結果として、『直す』方が正解だったことに納得してもらえたはず。


 ――ただ。


「は、はい。こうなったのは、わたしの責任です。ご、ごめ……」


 アザミは非を認め、頭を下げて、素直に謝ろうとする。


 誰がどう見ても自分が悪く、前を向くためには必要な過程だった。


「責任者が謝るな。うちはええけど、敵や交渉相手なら舐められるし、付け入る隙を与える。言うにしても、『ごめんなさい』じゃのうて、『不本意ながら』か『遺憾に思う』ぐらいに留めといた方がええよ。帝国の内閣総理大臣で居続けたいんなら尚更じゃな。あんたの発言は、個人じゃのうて、国家の威信を背負う。半端な謝罪は、法的にも外交的にも責任を認めることになりかねんからな」


 それを遮るようにして、広島は鋭い口調で告げる。


 彼女なりの理屈が通っていて、反論する余地が全くない。


 都市の問題より、もっと先のことを考えてくれている気がした。


「ぜ、善処します……」


「お、それもアリじゃ。その調子で頼むで」


 短いやり取りを重ね、広島に肩をポンと叩かれる。


 力も言葉も軽かったけど、なぜか重たいように感じた。


 国を背負う重大さに、ようやく気付けたからかもしれない。


「ただ、一件落着とは参りませんね。次はどうなさるおつもりですか?」


 機を見計らって、話題を放り込んだのはロザリア。


 何もしないわけにはいかず、軌道修正を図る必要がある。


「そう、ですね……」


 すぐに判断できる状況じゃなく、頭を回す。


 考えるべきことは複数あるものの、焦点を絞る。


 ――現状の最優先事項は『通信手段の確保』。


 それさえあれば、『白龍ジーク』が解放できる可能性は高い。


 『電気』と『水』が欠けても、代わりがあれば文句は出ないはず。


 一見、ただの慈善活動のように見えるけど、きちんとした外交だった。


 上手くいけば、賛同を得られ、『攻略』を手伝ってもらえる展開もあり得る。


 ――その一方で『ベズドナ救出』の優先度は低い。


 戦況を見る限り、自力で解決した可能性が極めて高い。


 すでに『攻略』に向かっていても、なんらおかしくない逸材。


 前提に縛られる必要はなく、流れに合わせ、柔軟に動く必要がある。


「こ、この制御盤の修理にどれぐらいかかりますか?」


 真っ先に目についたのは、電力の要となる装置。


 『通信手段』と直結し、問題解決に最も貢献するもの。


 直せる前提として、かかる時間を把握するのは必須だった。


「鉄塔や送電線より複雑ですので、最短で数日、最長なら数週間でしょうか」


 修理能力を有するロザリアから告げられるのは、納期。


 実際に壊れた鉄塔を直した実績があるから、信頼度が高い。


 彼女にお任せすれば、納期通りに終わらせてくれるに違いない。


 ――ただそうなった場合、新たな問題が生まれる。


「わ、悪くはないんですが……」


「魔獣の肉を食らう必要がある、じゃな」


 アザミと広島が反応し、明るみになったのは、食糧問題。


 長期滞在の場合は避けられず、断食するのは現実的じゃない。


 連戦に次ぐ連戦で体力の消耗が激しく、食事を断てば命が危うい。


 食べれば解決するように見えるけど、事態は思ってるより複雑だった。


「懸念点は『魔獣化』を許容するか否か、ですか」


 問題の本質に気付いたロザリアは、答えを口にしていた。


 魔獣の肉を食らう=魔獣化の構図は揺るがず、暴走の危険が伴う。


 責任ある立場の人間になるには避けたい事態。外交の不安材料になり得る。


「はい……。こ、こちらとしては、できるだけ時短したいのが理想ですが……」


 議論を進めたものの、『時間』という問題が生じる。


 『時短』と言ってみたものの、現実はそこまで甘くない。


 『直す』以外の策はないけど、納期以上を求めるのは難しい。


 三日という時間は、恐らく寝ないで作業した上での最短の日数だ。


 トラブルが起きない前提でもあり、急かせば失敗するリスクも増える。


 画期的なアイデアがパッと浮かぶこともなく、場には沈黙が満ちていった。


「……」

 

 そんな中、カツンと分かりやすい足音が鳴り響く。


 ヒールの尖った足底で、地面を叩いたような音だった。


「あ、あなたは……」


 すぐさま振り返り、誰が来たのか確認する。


 そこに立っていたのは、全く見覚えのない少女。


 白を基調とした、ブラウス、スカート、革靴を装着。


 毛先が平行に揃う短い銀髪が特徴で、容姿は十代ぐらい。


 ――ただ、纏う雰囲気で分かる。


 先ほどまで戦っていた人物であり、好敵手。


 名前は知らないけど、すでにえにしが結ばれた存在。


「い、犬型魔獣の……」


「時短がお望みなら、死をくれてあげるわ!!!」


 答えが返ってくることはなく、少女は右手を振るう。


 地面が八つ裂きになっていき、見えない斬撃が生じていた。


 隙を突かれた。完全に気を抜いていた。議論に集中しすぎていた。


(このままじゃ……)


 刀を抜く動作すら与えられず、最悪の後手に回る。


 センスの防御すらも間に合わず、斬撃は身に迫っていた。


「――――やらせないっ!!!」


 割って入ったのは、見ず知らずの金髪の少年。


 見えない斬撃を両手で防ぎ、新たな局面を迎えていた。

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