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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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122/269

第122話 終息

挿絵(By みてみん)





「せーのっ!!」


 覚醒都市北部に響き渡るのは、リーチェの声だった。


 開いた『煉獄の門』を小さな両手で押し、周囲に合図を送る。


「「「――――っ!!」」」


 従った面子はエミリア、ターニャ、オレグの三名。


 二対二に分かれて、左側が余所者。右側が白軍の配置。


 ベクターは先の戦闘で気絶しており、隅の方で倒れていた。


 魔獣は一掃され、死骸で溢れ返る中、『煉獄の門』は動き始める。


 ズリズリと地面をこすりながら、緩やかに、でも確実に押されていく。


 ――そして。


「「「「――――――」」」」


 ズシンと地響きのような音と共に、門は閉じられた。


 アクシデントはあったものの、最小限の被害で抑えた形。


 あの規模感を考えれば、気絶者一名で済んだのは僥倖だった。


 一件落着。そんな和やかなムードが、殺伐とした門前に流れ込む。


「どうにかなったようですね、リーチェ様」


 すると、隣で門を押していたエミリアは不意に声をかけてくる。


 言ってることは間違ってない。気持ちは分かるし、否定する気もない。


 ――だけど。


「まだ終わってない。あの一匹をどうにかするまでは」


 リーチェは視線を上げ、都市の天井をじっと見つめる。


 そこには、大きな穴。三重の結界が破られた痕跡が残っていた。


 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ南部。大図書館。叡智の間。


 そこで行われるのは、『神の両手(ルカ)』による能力者探知。


 影響範囲は覚醒都市だけではなく、全世界へと及んでいる。


 すでに依頼は達成済みであり、後は侵入者を見送るだけだった。


「……これで御役御免ってわけだが、この先はどうするつもりだ?」


 足早に背中を向ける蜥蜴型の魔獣に、ジーナは声をかける。


 目的は『能力者との接触』だろうが、道中が大人しい保証はない。 


 都市に被害をもたらす可能性が極めて高く、事情を探っておきたかった。


「お得意の装置で、私の心を読み取って見たらどうだ?」


 振り返る魔獣が言い放つのは、ある種の正論。


 『神の両手(ルカ)』を使えば、他人の心の中は覗き放題。


 距離に制限はなく、痕跡を残すこともなく、傍受できる。


 今まで足がついたことはなく、現代最強のハッキング道具だ。


 もちろん使い手込みのセット売りになるが、引く手あまただろう。

 

 各国政府や諜報機関にとっては、垂涎の逸品。市場価値は極めて高い。


 ――ただし、例外も存在している。


「覗かれたいなら精神防御を解け。ガッツリ守っといて、ふざけたこと抜かすな」


 意思の力には限界がある。相手が格上なら通用しない。


 厳密に言えば、敵の内側。潜在センス量が高すぎると覗けない。


・顕在センス量10000(ジーナ)<潜在センス量50000(仮想敵)✕


・顕在センス量10000(ジーナ)>潜在センス量5000(仮想敵)〇


 あくまで数値は例だが、このような図式が成り立つ。


 どれだけ鋭い槍でも、堅牢な城壁を貫けないのと同じだ。


 意思能力者の良し悪しは割と、センスの絶対量の高さにある。


 どれだけ優れた意思能力を覚えても、決まらなければ意味がない。


 現状、結果でしか推し量れないが、奴に通用しない理由は明白だった。


「冗談が過ぎたようだな。無礼の詫びとして、知りたいことを教えてやろう」


 そこで蜥蜴型の魔獣は笑みを浮かべ、ご機嫌そうに語る。


 条件がないなら、ありがたい。信じるか信じないかは二の次だ。


 場合によっては戦闘もあり得るが、言われてから考えればいいだろう。


「……」


 念のため、隣に目配せし、意図を察したドミトリーは頷く。


 都市に悪影響を及ぼすつもりなら即開戦。議論する余地はない。


 元帥ともあろう御方が分からないわけがなく、認識は共通していた。


 どちらつかずのまま時間は流れ、蜥蜴型の魔獣は自ずと答えを口にする。


「ナロトを攻略する。覚醒都市には良くも悪くも一切関与しない」


 それは、都市側の目線からすれば安心できる回答。


 だがどうも、不穏な言葉のような気がしてならなかった。


 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ西部。病棟地下四階。研究室。


 暗がりの室内は、刃で切り刻まれたような傷が複数残っていた。


「舐めてんすか? 意思能力なしで、うちを攻略できるとでも?」


 呆れたような声音で語るのは、ソーニャに宿るメリッサ。


 幼い顔つきとは不釣り合いな、狂気じみた表情を作っている。


 視線の先にいるのは、赤髪ツインテールで、メイド服を着た女性。


「…………」


 セレーナは声を発することなく、鋭い視線を送る。


 自慢のメイド服は、先の戦闘によって切り刻まれていた。


 辛うじて身には届いてないものの、布面積の広さが仇となった。


 加えて、客人を守ることに意識が割かれたのも、原因の一つと言える。


「都合が悪くなれば、だんまりっすか。だったら、当ててあげるっすよ。意思能力を使わない理由。いや、使えないと言った方が正しいかもしれないっすね」


 知ったような口を叩くメリッサは、考察を始めていた。


 真実を知っている可能性もあれば、ハッタリの可能性もある。


 どちらにせよ、頭を冷やすいい機会。ここは聞きに回った方が利口。


「……」


 だんまりを決め込み、セレーナは素直に耳を傾ける。


 背後にいる客人に意識を割きつつ、一切気は抜かなかった。


「親の教育方針。時期が来るまで覚えるなと言われている。恐らく、自力と地頭を向上させるため。能力頼りの戦闘スタイルが身につけば、どうしてもパワープレイになって、雑になりがちっすからね。うちがその典型ってやつっす」


 メリッサが口にしたのは、仮説。根拠のない予想。


 自虐交じりの言葉を添え、和やかな空気を作ろうとしていた。


「論点がズレてる。自分語りじゃなくて、あたしの話をしたら?」


 答えを教えずに、冷ややかな目線を送り、セレーナは応じる。


 話の是非に大した意味はなく、どちらかというと時間稼ぎが本題。


 劣勢であることは事実だから、この間に策を考えるのが建設的だった。


「武器や銃器に頼っていたのが、良い証拠。意思能力が使えない分、他で補おうとした。ついでに言うと、『魔術』もそうっすよね。能力を開発する必要はなく、センスを出力するだけで、外部に保存された異能を扱うことができる」


 指摘してくるのは、今までの戦闘スタイルだった。


 少なくとも、『超武器屋』での戦いは覚えているらしい。


 マカオで合流したメリッサとは、全く別人ってわけでもない。


 ――似て非なる者。


 同じ部分はあるけど、違う部分も存在する。


 恐らく、ターニングポイントがあって分岐した類。


 彼女の異能体質を考えれば、なんら不思議じゃなかった。


「だとしたら、なに? 合っていたところでどうなるってわけ?」


 半ば事実を認めるようにして、逆切れ気味に答える。


 この問答に価値はないけど、そろそろ正体が掴めそうだった。


「控えめに言って最高っすね。うちを真の意味で倒せるのは、あんたしかいないっす。願う事ならこの先もずっと、意思能力を覚えることなく、自力と地頭を磨き続け、素の実力だけで拮抗できるほど成長して欲しいっす」


 メリッサは背を向けて、つらつらと持論を述べる。


 そこに敵意も悪意も害意もなく、戦う気は一切感じない。


 センスは微塵も発していないものの、言動だけで十分伝わった。


「この期に及んで逃げるつもり? 決着がまだついてないんだけど」


「逃げるんじゃなく、見逃してあげるんすよ。今はまだ、うちの方が格上っす」


 短い質疑応答の中で、メリッサは端的に心情を告げる。


 現状の最優先は『客人の命』。覚醒都市を守ることじゃない。


 無理に追う必要はなく、認めるのは癪だけど、実力で劣るのは確か。


「首を洗って待ってなさい。超絶対、いつかあたしは……あんたを超える」


 セレーナは去り際の好敵手に啖呵を切り、研究室での戦闘は終わった。

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